気分的には元気過ぎるワンコの散歩
アザエル学園が所有・管理を行うダンジョン、通称”学園ダンジョン”は本来ならば戦う機会の少ない貴族の子息子女に実戦経験を積ませる為に存在する……のだが。
「こりゃ実戦ってよりは実戦ごっこだな。温ぃにも程があるだろ」
飛び掛かって来たゼリー状の生物”スライム”を文字通りの一蹴で倒し、壁に埋め込まれた特殊な光る石で昼間の様に明るい石造りの通路を進むフリートは何処か不機嫌そうだ。
「いえいえ、フリート様の強さあっての事ですよ」
「我々じゃとても……」
そんな彼に対して賞賛の言葉と言うよりは媚びを売る為の言葉を投げ掛ける同級生達なのだが、フリートとは違って見るからにボロボロのヘロヘロで実戦経験が殆ど無い事を伺わせる。
今の言葉が自分達への嫌味なのかと疑う思考すら放棄してすり寄って来る連中にフリートは何か言葉を投げ掛ける事すら諦めて進み出した。
「お、お待ちを!」
「我々もお供します!」
(一応繋がりを持ってやるかと思ったが……こりゃ変なのを見定めるって意味で成功だったな。”勇猛な姿を拝見したい”だの”憧れています”だの調子の良い事ばっか口にする癖に基礎すら駄目じゃねぇか)
フリートの家は大公家であり、少なくても今側に居る者達は顔を”覚えて貰う”相手ではなくて顔を”覚えてやる”立場の相手だ。
それでも目のある奴なら歓迎だと、暇潰しと今後の下見を兼ねてのダンジョン探索に勝手に同行して来た者達を見ていたが期待外れでしかない。
所々に現在地が記された地図があり、出口に向かう道を示す矢印が床に描かれたダンジョンも彼からすればお遊びの場所で同じく期待外れであったが。
「こりゃロノスの所に行ってた方が良かったな。チェルシーの奴も俺様よりロノスの妹の方を優先しやがってよ」
どうやら不機嫌の理由は他に有るらしく、後ろで必死に走って追い付こうとしている者達に聞かれた時の反応が鬱陶しいと思ったのか小声で呟いた彼は坂道の前で足を止める。
「……帰るか」
目の前の下り坂を進めば学園ダンジョンの最下層となる広間であり、特に何か有る訳でもない。
精々がリアス達が行うのと同じで生徒間の決闘に使われる程度だ。
遠目に数人の姿を確認したフリートの顔は心底面倒そうで、此処までが無駄足だったと言いたげである。
「ったく、新入生が入るのを許可されたのが未だ此処だけってのが面倒だぜ。他の学園ダンジョンなら少しはマシなんだろうが、家の力で無理に……は無理だな。格好悪い上にあの理事長が許す訳が無いし」
自分が引き返した事に一瞬嬉しそうにするも、媚びを売って来るのを無視して進むなり慌てた様子になる者達の同行を許した事を本格的に後悔しながらフリート。
「うっせぇ。顔と名前はちゃんと覚えたから黙れ」
当初の目的が顔繋ぎだったからか背後から安堵の溜め息が聞こえて来る。
だが、実際は印象に残れる程の事はしておらず、数多く居るその他多数など直ぐに忘れてしまうだろう。
それでも悪い印象のまま覚えていられるよりはマシなのだろうが……。
「何か面白い事有ったら良いんだが。綺麗な女が接待してくれる店でも行くか。どんな奴もチェルシーには劣るがな」
背後から”ご案内します”だの”今回のお礼を”だの必死に叫んでいるのが聞こえるが既にフリートには認識されていない。
大体彼の方が金持ちで奢って貰う必要は皆無なのだ。
結局、彼等は婚約者に放置されて拗ねた男の憂さ晴らし同行した結果、ただ徒労に終わっただけであった。
「……あー、でもバレたらうっせぇしな、彼奴。仕方無いし、何かプレゼントでも選びに行くか」
サクサク進み、出現するモンスターも歯牙にも掛けないフリートの背後では疲弊した状態で必死に戦う音が聞こえたが、既にチェルシーの事だけを考えているフリートには聞こえない様子だ。
「しっかし帝国の連中が奥で何をやってたんだ? 関わったら面倒だし、後ろの……名前を忘れた連中がついて来れない雑魚で良かったぜ。絶対揉めるし、俺の責任になったら嫌だからな」
そして、そのチェルシーではあるが、今は何をしているかと言うと……。
「……う~」
「リアス様、ご冷静に。他人の胸を幾ら凝視しても胸は大きくなりません」
目の前でプカプカと浮かぶ二組の胸を凝視して悔しそうに唸る友人をたしなめていた。
「リ、リアスさんっ!? それにチェルシーさんまでどうして此処にっ!?」
「アリアが入っているって聞いたし、だったら偶には客人用のお風呂に入るのも良いかなって思ったのよ」
「私は付き添いよ。まあ、思い付きに付き合うのは何時もの事ね」
当然だけれど目の前ではアリアが驚いた顔で私達を見ている。
アース王国では確か同性の友人でも公衆浴場みたいな場所や特殊な状況でもない限りは一緒にお風呂に入る習慣は無かったかしら?
「リュボスでは”裸の付き合い”ってのがあって、同性と一緒にお風呂に入ったりするのよ。まあ、この方と付き合うのなら不意の行動には慣れていた方が良いわよ」
流石はクヴァイル家のメイドだけあって私達が浴室に入るなり追加の人員と共に入浴前のお世話を始めるし、手際だって私の家と比べても段違いだわ
あっという間に全身ピカピカにされた私は浴槽に飛び込もうとしたリアス様を止めると普通に入ってアリアの横に並ぶ。
「……大きい。こうして見ると服の上からだと着痩せしているのね」
「ひゃっ!?」
その呟きがリアス様の口から漏れだし、視線を胸に浴びたアリアが咄嗟に胸を両手で隠したのだけれど、大き過ぎるから隠せていないし、腕で押さえられたせいで形が変わっている。
「リアス様、貴女は貴族令嬢ですよ? もう少し慎みを持って下さい」
一応注意はするけれど、この方のこれは昔からなのよね。
因みに擬音で表すとすれば、”たゆんたゆん”と”たゆん”と”ぺたぁ”で、誰の何処かは黙秘するわ。
「チェルシーさんはリアスさんとは……」
「ええ、長いわ。元々私のお祖父様とお父様がリアス様のお祖父様である宰相閣下の部下で同じ歳だから遊び相手に選ばれて……振り回されてるわ。まあ、友人だから別に良いのだけれど……はぁ」
「その溜め息が気になるわねぇ……」
「いや、聖女の再来だって聞いていたらこんなのですからね」
「こんなの!?」
しかしリアス様じゃないけれどアリアは大きいわね。
胸だけ残して簡単に痩せられる魔法みたいな方法でも使ったみたいに肉が少し足りない体付きの癖に胸だけは大きい。
「……何食べたら胸だけ大きくなるの?」
「そうよね! 秘密があるなら教えなさい! 揉むの!? 揉めば良いの!?」
「うっかり口にした私が言うのも何ですが落ち着いて下さい。彼女が困っていますし、そもそも揉めない大きさでしょう。ゴリラなだけ……鍛えているだけあって健康的に引き締まっているリアス様は魅力的ですよ?」
「今、ゴリラって言ったわよね!?」
「失礼、噛みました」
やれやれ、騒がしい入浴になりましたが、此処までの騒ぎにも一切表情を変えないクヴァイル家のメイドは本当に凄いと思うわね。
「さて、今日は帰りにフリートへのプレゼントでも買おうかしら? 流石に放置したお詫びをしてあげないとね」
「本当にどうやってそれを育てたのかしら!?」
リアス様に肩を揺さぶられる度にユサユサ揺れるアリアの胸を見ながらそんな事を呟く私だった……。
「新入生歓迎の舞踏会も近いし、買うなら装飾品かしら? 彼奴、ダンスが苦手なんだから練習相手になってやらないとパートナーの私まで恥ずかしいじゃない。」
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