ポチとタマとアホの子
間違って完結設定にしていました
「キュィィィ」
ふあ~あ、眠くなっちゃったよ。でも、何か食べたいしなぁ……。
お兄ちゃんもリアスも学校の行事で出ちゃったし、僕は退屈で大きな欠伸をしながら砂浜をゴロゴロ転がるの。
砂浴びは楽しいな。
『ポチ殿は随分と食べていたが不足か。矢張り育ち盛りよの』
僕が砂を沢山浴びた後で体を振るって砂をばらまいているとジッとしていたタマが話し掛けて来た。
めーそう? とかをしたけれど飽きたのかな?
「キュイ!」
うん! 沢山貰ったけれどまだまだ食べられるよ!
でも、お夜食はお肉を食べたいな。
僕はお魚も好きだけれどお肉の方が好きなんだ。
『左様か。小生は肉よりも魚が好き故に満足であったが、それならば共に狩りにでも行きたいのだが……』
「キューイ」
うーん、でもお兄ちゃんが”誰のペットなのか分からないから無闇に狩っちゃ駄目”って言っていたし、お留守番していないとね。
ドロボーが来たらいけないし。
『然り。此処暫くはアンリ殿の転校に同伴した事により自由に飛べなくなっていた反動か、この様に広い場所でいると野生の血が騒ぐが命令は絶対なり。まあ、ロノス殿は森に向かった事だし、土産を狩ってくるかも知れぬぞ』
「キュイ!」
お肉! 僕、お肉が良い!
そっかー! お馬鹿のリアスだって何か持ち帰ってくれるかもだし、いい子にして待っていないとね!
『ポチ殿は普段から良い子であろう。だが、リアス嬢への呼び方には少々問題があるな。親しき仲にも礼儀は必要で……デカい魚が跳ねた! すまぬ! ちょっと狩って来るので待たれよ!』
話の途中、海の方で大きな魚が飛び跳ねたのを見た途端にタマは野生の本能に従って飛んで行っちゃった。
僕にも分けてくれるかな?
鯨とか出たら嬉しいんだけれど……。
『獲物が沢山! 一匹たりとも逃さぬぞ!』
あっ、タマったら雷落とす気だ。
そう言えばお兄ちゃんに教えて貰ったけれど、表面を流れるだけの普通に落ちた雷と違ってサンダードラゴンの雷は……。
「ピィィィィッ!!」
タマが激しく翼を動かしながら叫ぶと全身の羽毛が膨らんで、周囲に電気の球体が幾つも現れる。
勿論タマの全身からもパチパチって音がしてたんだ。
『夜食万歳!』
その球体とタマの体から放たれた電撃は海面を貫き、そのまま其処を中心に半径十メートル位に広がっていったんだ。
円の外には一切電気を漏らさず、中に居た魚達にはちゃんと届いて次々に浮かんで来る。
電気の熱で焼けたのか美味しそう!
『少し範囲を広げすぎたか。ポチ殿、回収をお願いしたい』
「キュ!」
うん! 分けてくれるなら良いよ!
僕も海の上まで飛んでいくと翼に風を集め、海の中に送り込む。
海面に現れた渦を中心に海水が盛り上がり、空に向かって水を含んだ竜巻が昇って行った。
じゃあ要らない海水は捨てて、魚だけ回収を……あれれ?
沢山の魚やエビの中に変なのが混じって居るや。
赤いドレスとリンゴみたいな日傘の……思い出した!
『ぬっ!? 人の気配は感じなかった故に居ないと思ったが、まさか巻き込んだ?』
「キュイ」
大丈夫、大丈夫。
此奴、お兄ちゃんを狙って襲って来た敵で人間じゃないから。
それにしても海の中で日傘ってアホだよねー。
『左様か。して、名前は?』
……あれ? このアホの子の名前って何だっけ?
お兄ちゃんに名乗っていたけれど僕は聞いていなかったからね。
えっと、えっと……サマエル! 此奴、アホのサマエルだ!
『アホノ・サマエルか。しかし敵、それも人外ならば……小生の全力を叩き込んでも問題あるまい?』
「キュイ」
僕は構わないと思ったから合図すると同時にアホのサマエルを竜巻の中から放り捨てる。
濡れた髪が電気で少しチリチリになっていたサマエルは白目を向いたまま宙を舞い、それを狙って雷を纏ったタマが高い場所から急降下、体当たりすると砂浜に突っ込んだ。
空に向かって凄い雷が昇り、周囲が照らされて眩しいや。
砂煙だって凄くって様子が分からないね。
そして砂煙が晴れた時、少し疲れたタマの足下ではアホのサマエルが白目を向いて気絶していて、髪の毛は完全にパーマになっていた。
「キューイ!」
面白い! もっと遊ぼうっと!
僕は砂浜に降りるとアホのサマエルの頭を踏んで押さえつけ、嘴で髪の毛を咥えながら色々な形に伸ばしていった。
一束ずつ面白いように形が変わって行くし、タマも加わって変な髪型にしていったんだけれど直ぐに飽きちゃった。
うーん、次に多めに咥えて髪型を変にしたらお魚を食べようっと。
早く食べないとお兄ちゃんに夜食のバレちゃうもんね。
『……同意だ。アンリ殿もロノス殿も間食には良い顔をせぬからな。では、小生が右側を弄くるからポチ殿は左側を頼む』
「キューイキュ」
じゃあ、どんな風にしようかな。
僕は左側の髪を大量に咥えて軽く引っ張ろうとして、大きく目を見開いたサマエルにビックリしちゃった。
思わず前脚と嘴に力を込めて、大きく頭をあげちゃったよ。
もー! ビックリさせないで。
僕とタマが一応距離を取って臨戦態勢に入る中、アホのサマエル……いや、サマエルはフラフラしながらも立ち上がった。
「ぐぬぬ。夜襲を掛けるべく海中に潜んでおったのに何事じゃ? 私様の身に何があった?」
成る程なあ。じゃあ、此奴の作戦を邪魔したからって夜食は許して貰えるね。
『ん? ポチ殿、嘴に何か金色の束が……』
そんな事を言うタマだって金色の束を咥えていて、その時に風が吹いてサマエルの髪がなびく。
さっきまで隠れていた部分が見えて、ゴッソリと髪が抜けた部分があったよ。
そっか! 僕達が咥えているのはサマエルの髪か。
ぺっぺ! 気持ち悪ーい!
「ふん。変な物を咥えて居るな、貴様達。金色じゃが、私様のこの美髪…には……」
サマエルは髪の毛を掻き上げようとし、髪が抜けた部分を指先が撫でる。
何度かそれを繰り返すけれどハゲた所は戻らないよね。
「わ、私様の髪が……」
俯いて震えちゃってるし、もしかして泣いてる?
もー! 自分はお兄ちゃん達を襲っておいて、髪が抜けたから泣くとか勝手だよ!
『……これは好機か。昼間の襲撃者の仲間ならば……この機を逃す理由無し』
「貴様達っ! よくも私様の髪…を……」
顔を上げて泣き顔のまま拳を振り上げたサマエルをタマが出した巨大な電気の球が照らす。
僕は眩しいから屈んで目を細めたけれどサマエルは驚いたのか固まっていて、そのまま雷が頭の上から落ちた。
「あばばばばばばばっ!」
うーん、どうして雷を受けている間、ずっと骨が透けて見えているんだろう。
変なのっ!
「がっふっ!」
雷が収まった後、サマエルは凄いパーマになっていた。
いや、どうして其処まで凄い事になってるのさっ!?
「……覚えておくのじゃっ! バーカバーカ!」
サマエルは子供みたいな捨て台詞を吐くと凄い速さで走り去って行く。
上げる砂煙が向こうの山の方に行っても見えていた。
変なのっ!
「ぐぬぬぬぬっ! 完全に油断したのじゃ。まさかあんな連中に……」
遠くからでも上げる砂煙が見える逃走を行ったサマエルは遠目に見える砂浜を睨みつけながら脳天の皮に爪を立て、両側に開くようにして剥ぎ取る。
そのまま服を脱ぐようにして全身の皮を着ていたドレス諸共引き裂き脱ぎ捨てた彼女の姿は傷一つ見受けられず、抜けた髪すらも生え揃っていた。
その様子は不死鳥の復活に似ており、そして蛇の脱皮に近い。
但し身長も胸も一切成長が見受けられないが。
ただ、その姿は神秘的である。
「脱皮は疲れるから嫌なのじゃが。……あっ、勢いでドレスまで破ってしもうた。着替えも持って来ておらんのじゃ」
そして彼女はアホである。
生まれたままの姿のまま、サマエルは山の中で立ち尽くすのであった……。
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