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弱点発覚

 アマーラ帝国皇帝の養子であり国を跨いで商売を行うヴァティ商会の娘である私には多くの敵が存在しますわ。 

 それは他の養子を少しでも良い場所に嫁がせたい者達であり、商売敵であり、帝国そのものの敵なのですが、敵だろうと味方だろうと重要なのは利用価値が存在するかどうかであり、個人的な感情は無視すべきであるというのが私の考え。

 

 それが出来ず、庇護対象として下に見ていた二人に良い所を見せようとした結果が現在の私。

 右足に不自由を抱え、皇族との血の繋がりを無かった事にされてでも、次期皇帝となった妹よりも低い地位に就いている。


 私の存在を知る者は僅かながも存在しますが、記録上の存在が否定されれば実在していても存在を否定されるのがこの世の中。

 だからこそ利益こそを第一とし、個人的な敵意など抑え込もうと思っていたのですが……。


「……よりにもよって」


 自分の番号を確認し、人混みの中に遅れずに腕輪に魔力を流した事で表示された同じ番号を発見した時、愚鈍な輩と組まされずに済んだ事に一安心し、誰なのかを認識して歯噛みする。


 アリア・ルメス、無駄な争いは周囲からの好感度を下げるだけと止していますが、どうも仲良くしたいとは思えない相手。

 私が嫁ぐ事になりそうな相手であり……まあ、どうせ婚約するならば心を通じ合わせた方が色々と都合が良いロノス様に好意を抱く恋敵のような存在。


 未だ私のこれは恋心とまでは言えず、心を許しても良い寄りかかれる相手程度の認識ですが、本当に何故か彼女は気に入りませんわ。


 まるで彼女の存在によって一度も恋をした事のない筈の私の初恋が悲恋に終わったかのような錯覚が消えず、そして家の力ではなく私自身の力で彼女に勝ちたいと思ってしまう。


 ……本当にどうしてしまったのかしら?

 命を救われ、何度も守って頂いたからと恋に落ちるような恋に恋する生き方はしていませんのに、家同士の繋がりの為の結婚相手と強い心の繋がりを欲し、利益を生まない争いをしようだなんて私らしくも無いですわね。


「……ですが、私的感情は捨て去りませんと」


 それでも一縷の望みに掛けてお互いの数字を確認し、矢張りパートナーであると確認。

 この世に神は居ないのか、余程ろくでもない性格なのでしょうね。


 「……裏に気が付いています?」


 まあ、理由の分からない敵意は受け入れるとして重要なのは彼女が明言されていないルールに気が付いているのかどうか。

 未だ周囲にいる連中に序盤で知られるのも面倒ですし、私も明言せずに問い掛ければ静かに頷いたのが見えましたし、戦う力だけのお馬鹿さんではないのですね。

 ……そうだったら楽でしたが、今は助かった。



「一つ提案がありますけれど、今回は最初から最後まで力を合わしませんこと?」


 説明されたルールでは①モンスターやゴーレムがポイントを持っている ②倒した相手のポイントが手に入る ③時間終了までに一定以下のポイントだった場合は帰宅


 ……ですが、集めるポイントは二人の合計値なのか各自なのか、そして二人が合格ラインに達する必要があるのか、それらの説明はされていません。

 二人でポイントを分け合う事に集中しすぎて二人共足りない場合、片方にポイントが偏り過ぎている場合、それを考慮して進めるべきですが、どれだけの者が理解しているのやら。


 いえ、どうせ行事の一つだと侮り、簡単にクリア可能な基準だと思っていそうな人もチラホラと。

 そんな危機感が足りない者と組まされるのならば恋敵(・・)と組む方がマシでしょう。


「はい! パートナーとして支え合いましょう!」


 ……向こうも同じ考えで結構ですが、その演技は白々しくありません?

 心配そうに此方を見ていたロノス様に視線を向け、その後で目の前の彼女と握手を交わす、


 ああ、そうそう。

 行ってしまう前に言わなければならない事がありましたわね。



「ロノス様、少し競争をしませんか? 先ほどアンリ様となされていた競争に私達も加えて下さいまし。個人の撃破数を競い勝った方が個人間で済む範囲で一つだけお願いが出来るというのではどうでしょうか?」


「え? まあ、家が関係しない範囲なら良いよ」


「まあ、嬉しい。ロノス様ならば受けて下さると思っていましたわ」


 ふふふ、寧ろ大勢の前で申し込まれて断れる筈が有りませんわよね。

 こうやって機会を逃さずに動くのも力の内。

 チャンスが現れるかどうかの運も同じく……。


「では、お先に。”アイス・チヤリオット”」


 スカートを摘まんでお辞儀をし、頭を下げた後で出したのは全て氷で作られた二頭の牛が引く戦車。

 これを使う機会の為に用意しておいたクッションを敷き、アリアと共に乗り込む。


「……会った時から凄い成長だね」


「いえいえ、ロノス様に命を救われた代わりに心を奪われた日からそれほど経っていませんし、種がありますの。でも、種を手に入れるのも力の内でしょう?」


 理想も夢も力が無ければ所詮は絵空事、お馬鹿さんの妄想。

 でも、力さえあれば現実ですの。



 もう私は何も手放す気も、欲しい物を諦める積もりも御座いません。

 ええ、全て手に入れてみせますわ。


「では……蹂躙を開始致します!」


 別に掛け声を出せば何かあるという訳では有りませんが、此処は気分を盛り上げる為にと叫びながら右腕を前に突き出す。

 声が響くと同時に二頭の牛は前足を高く上げ、一気に掛けだした。


 まあ、自動で動くタイプの魔法では有りませんので私が動かしているのですが、激しく地面を踏みしめる度に蹄の触れた地面が凍り、そして踏み砕かれる。


「……未だ余裕が有りますわね」


 危急の事態に備えて魔力を温存しつつも使うべき時には使う。

 皇女に戻った時、母から預かった腕輪を指先で撫でて埋め込まれた石の輝きを確かめましたが、この日まで節約をしていましたし臨海学校の間は保つでしょうね。


 ……危急の事態にさえならなければ、ですが。


 日中に戦った相手といい、ルールが不明確なハンティングといい、嫌な予感の根拠は揃っている。

 楽しい臨海学校で開放的になったのに付け込んでロノス様を籠絡する予定でしたのに予定通りには行かない物ですわね。


 少し腹立たしさを覚え始めた時、目の前に大型犬程の巨大な芋虫が現れました。

 頭が幾又にも分かれていて体色自体は普通。

 頭それぞれが別の方向に行きたいらしく一向に進めていない。


「何たる無駄無意味。余分な頭を活かせて居ませんわ」


 図鑑で一度見た覚えがありますわね、あのモンスター。

 確か”ヤマタノイモムシ”でしたっけ?


「突っ込みますわ!」


「えぇっ!? あ、あれにですかっ!?」


「当然でしょう!」


 此方が向かって行く事により、敵の排除を優先すべきと全ての頭が判断したのかヤマタノイモムシの頭が一斉に此方を向き、小さい牙をビッシリ生やした口を開いて向かって来ようとする。


「遅いっ!」



 そう、あまりにも判断が遅かった。

 結論に達したばかりの頭は牛の角によって貫かれ、瞬時に芯まで凍り付いて砕かれる。

 端の頭は凍るよりも前に衝撃で千切れて飛び、戦車の真横すれすれを通って行ったのですが……妙ですわね。


「ずっと黙っていますが、一体全体……あぁ」


 短時間の付き合いでもモンスターに恐れをなし動けない腰抜けではないと分かっていたのに援護すらなく、様子見かと思いきや顔が真っ青。

 明るく活発なのは演技で実際は殆ど感情の動かない女だと思っていましたが、完全に動かない訳ではないのですね。


「あら、その様子じゃ同じモンスターの相手は私がした方が宜しいですわね。今と同じく挽き潰してやるのでご安心を」


 彼女、芋虫が苦手ですのね。

 良い情報を手に入れましたわ。



 目下の敵であり目の上のたんこぶである相手の弱点を知り、暗に今後も突撃すると伝えるような油断っぷり。

 後で思えば所詮私は戦士ではなかったと、そういう事ですわね。



「キキッ!」


「”トリオモンキー”!?」


 僅かに生じた隙を見計らい、隠れていた木の上から現れた三匹の……いえ、正確には三匹で一匹の猿。

 尻尾にリンゴの実が成っている”フルーツモンキー”、尻尾がガスを詰めた袋になっている”バルーンモンキー”、尻尾が岩の”ロックモンキー”。

 命を共有するという他に類を見ない珍しいモンスター、それが私に迫り、迎撃は間に合わない。


「くっ!」


 咄嗟に腕で顔を庇おうとした時、影が槍の形になって伸び、トリオモンキーに突き刺さると内部で枝分かれしながら貫きました。




「じゃあ、今みたいにネーシャさんが危ない時は私が対処しますね」


 ……あら、言いますわね。

 

  どうやら思った以上に強敵らしいと認識を改めつつ、私は戦車を前に進める。







「……」


 そして、音も無く、姿も見せず、一切の気配を感じさせず忍び寄る異形の影に私達二人は気が付いていませんでした。


応援待っています 発注した漫画は12月とのこと

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