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許すからこそ

短編も投稿しているよ

「リュボス聖王国の金山町で起きた襲撃事件の犯人と憑喪神、そして魔法を打ち消す咆哮を放つ巨狼、ですか……」


「うむ! にわかには信じられぬ話だろうが、信じて欲しい! この俺の筋肉に誓って嘘偽りは存在しないと誓おう!」


「筋肉に誓われても……」



 臨海学校、それも初日の午前に起きた襲撃事件。

 当然僕達は引率のマナフ先生に報告をしたけれど、話が進むにつれて胃痛でも発症した様子を見せた彼の言葉は予想の範疇ではあった。


「では、私が警戒を強めますので皆は夜に備えて休んでいて下さい。あっ、監督補佐の二人には働いて貰いますが、昼と夜で交代するように。どっちで休むかは二人で話し合って下さいね」



 僕達の話……気のせいでなければ特にルート先輩の話を聞いた事で困り顔になった彼だけれど、結論を口にする時には普段の教師としての物に戻り僕達に指示を出す。


 先輩は去年の付き合いがあるし、僕やチェルシーは何となく察しているんだけれど、アリアさんとネーシャは驚いている。

 アリアさんは僕達の様子から何かを察した様子だけれど、ネーシャは別だ。

 まあ、アザエル学園の詳細な学園生活については校外の人間には秘密にされているし、当然だろう。


「え? あの、先生? 今回は不測の緊急事態として臨海学校を中止にしませんの? 此処に来る間に冷静になって考えれば中止が望ましいのでは?」


 その結果、先生が下した結論は予定の継続で、ネーシャは当然だけれども理解出来ていない。

 まあ、普通ならば中止が当然なんだろうけれど、それはあくまでも普通の場合でしかないし、アザエル学園は普通の貴族が通う名門校って訳じゃない。

 ……王子やら大公家の嫡男、他国の貴族やらが通うんだから当然なんだけれども、そんな普通の対応をしないからこそ今回の合宿があるのさ。


「ええ、確かに不測の事態ですが……世の中には不測の事態がありふれていますよね? モンスターの異常発生や縄張りの変化から来る予想外の遭遇、そして王侯貴族ならば国内外に敵が多い筈。そんな生徒達だからこそ今回の合宿で鍛えるのですよ。不測の事態に対する対応を。だから不測の事態が発生したからと尻尾を巻いて逃げ出す訳には行きませんし……対処出来ない生徒は可哀想ですがふるい落とさせて貰うので大丈夫でしょう」


「振るい落とし? それは一体……?」


「おっと、話し過ぎですね。ルート君、後輩達には内緒で。ルルネード君にも伝えて下さいね」


「うむ! クヴァイル家の関係者の家だが黙っておかないと不公平だからな!」


 マナフ先生は口持ちに人差し指を当ててはにかみ、ルート先輩は豪快に頷く。

 振るい落とし……まあ、予想は出来るけれど、どちらにしてもトアラスが教えてくれるとは思えない。

 お祖父様がそんな甘やかしを許してくれるとは思わないから絶対口止めされているよ。


「大丈夫、僕達も聞き出す気は有りません。じゃないと今回の合宿を厳しい物にしている意味が無いですし」


 使用人は連れ込めない? 身の回りの事を自分達だけでする?

 甘い甘い、そんなのは序の口で、運動で例えるなら動き出す前の深呼吸みたいなものさ。


「……あ~、君は気が付いてましたか。でも話したら先生が困っちゃいますから勘弁して下さい。緊張で力を出せない生徒が居ると困りますし……昼に遊んでも夜に動ける力も無いのに遊び回っている子達は放置の方向で居たいので」


 相変わらず子供みたいな見た目に見合った物と教師としての顔が混じるなあ、この人。

 ……サラッと恐ろしい事を口にしているし。


「さて、僕達もご飯を食べたら休もうか。……リアスにフェンリルの件を話さないとね」


 あの子がどんな反応を見せるのか、怖い想いをしないのか、それがちょっと心配……なような、杞憂なような……。


「リアスだからなあ……」


 僕の呟きにネーシャが不思議そうにしているけれど、チェルシーとアリアさんは察した顔をしていた。




「え? 魔法を消したんだ、そのモンスター。厄介ね、少し。あっ、チェルシー、ソース取って。辛口の奴」


「はいはい、それよりも口元のソースをどうにかして下さいね。ほら、ジッとして」


 フェンリルとの遭遇を報告してから戻って直ぐ、ちょっとアリアさんとネーシャが笑顔で怖いオーラを放ちながら喋っていたんだけれど、砂浜では既に網焼きの準備がされていて海産物が並べられていた。

 ……ウツボダコは何故か無いけれど、下手な事を言ったら出て来るかも知れないんだから黙っておかないと。

 だってリアスの事だから忘れている可能性が有るんだし、沈黙は金なりって奴だ。


 そんなリアスはフェンリルの咆哮について聞いても平気な顔でホタテに真っ赤な激辛ソースをダバダバ掛けて食べている。

 それじゃあ味が全然分からないだろうにさ。


 それと口元は自分で拭きなって。


「ええっ!? 魔法が無効化されるんですよっ!? リアスさん、どうしてそんなに冷静なんですか!? まさか何も考え……いえ、何でも無いです」


 アリアさん、大丈夫。

 リアスはちゃーんと考えているからさ。

 ……気持ちは分かる。


「ええ、本当に怖いですわ。私なんて襲われたら何も抵抗出来ませんし……ロノス様、守って下さる?」


「……そうだね。”絶対に守る”なんて平気で言える事態じゃないけれど、君を守るのに全力を尽くすよ。でも、手が届かない時に何かあるといけないから可能な限り僕達の誰かと一緒に居た方が良い」


 不安そうにしながらもネーシャは計算高く僕に密着して顔を見上げて来る。

 まあ、これで二回目の彼女からすれば自分が狙われたのだから不安になるのも仕方が無いよね。


「そうですわね。ルメスさんと違ってドラゴンと正面から戦う力も持っていませんし、是非ロノス様のお側に置いて下さいませ」



 腕に抱きついて押し当てられる胸の感触にさっきの光景が浮かびそうになる。

 戦いの最中で集中して見なかったけれど、奇襲を避けた時に水着がズレて……いやいや、忘れろ!

 そもそも彼女が半分脱いでいたのが原因だし、意識しなければ……。


「あら? 私がどうかしまして?」


 意識しちゃ駄目だと言い聞かせたとしても視線はついつい向いてしまう物。

 当然彼女はそれを見逃さず、微笑みながらも更に胸を強く押し当て、時折左右に動かす。

 この子、予定外の露出には恥ずかしがって居たのに、今は平気だなんて……。


 短い付き合いで分かったけれど、彼女は利益や目的達成の為ならば感情を切り捨てられるタイプの人間だ。

 だからこうして色仕掛けを行っても平気だし、戸惑う僕を見て嬉しそうにしている。

 僕もレナが何かとボディタッチとかセクハラとかセクシャルハラスメントとか猥談を仕掛けて来るのもあって普通の相手なら受け流せる。

 心にちゃんと防具を装備して接するのさ。


 でも、心を許しだした相手なら防具を貫通して来るし、ネーシャにこうも反応させられるのはそんな理由からだろうね。

 これがリアス相手なら実の妹だし(しかも前世から)、素っ裸で寝ている姿を目にしてもお腹を冷やさないか心配するだけ、風邪は多分引かない。

 そんな当たり前の事は兎も角として、僕って経験有るのに動揺が酷くない? 

 

 寧ろ経験があるからこそネーシャをそんな光景に頭で当てはめてしまう事に戸惑いやら罪悪感を覚えつつある時、片方の腕にも少し違う質感の物が押し当てられた。


「あ、あの、私は魔法が通じなければ無力ですし、ロノスさんの側で守って頂けたら……嬉しいです」


「……私はこの足ですし、お邪魔でしょうが本当にお願いしますね」


「それならポチちゃんに乗ればロノスさんの危険も減りますね」


「ええ、貴女は飛べますし、私とロノス様で乗れば良いですわ」


 当然それはアリアさんの胸でネーシャ同様に不安そうにしながら強く抱き締めて来て、僕を挟んで火花が飛び散る光景を幻視する。

 うーん、奥さん複数人居る場合はこんな光景を前にどうにかしないといけないのか……。


「……」


 そしてリアスの沈黙が怖い!

 二人の胸に視線が注がれて居るし、根深い問題だぞ、これは。





「キュイ……」


「あっ、ごめんごめん。ほら、食べなよ、ポチ」


 ヨダレを垂らしながら良い焼き加減の海老を眺めるポチ。

 慌てて与えたら飛び跳ねる勢いで喜んで、殻をバリバリと噛み砕きながら食べている。


 可愛い! 凄く可愛い! 超癒される!

 


 ……ああ、今度時間を作れたらポチと一緒にのんびりしよう。絶対に!

応援待っている! 目標まで後少し

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