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疲労

「逃げた……いや、退いたのか。何にせよ助かった」


 突然の襲撃者、更にそれに不意打ちを食らわせた半裸の先輩、そして現れた通常とは違う個体の神獣。真ん中は何か違う気がするけれど、巡るましく変わる事態に僕は精神的に疲れていた。


「あ、あの、ニョル先輩? 水着でもないのに何故裸ですの?」


 あー、ネーシャったら気にしなくて良いのに。

 まあ、これで”趣味だ!”とか”俺の筋肉を相手に見せる為だ!”とか言われたら金輪際関わりを断ちたいけれど、あの植物を操る魔法は興味深いからね、少し分かるよ。

 実益と忌避感の狭間で僕の心は揺れ動き、後者に傾きながらも返答を待つ。


「うむ! 海の上を走る際に最低限の消費で済ませる為に草を足元に出現させる事にしたのだが、落ちた時に服を着ていたら泳ぎ辛いからな! 未熟で恥ずかしい事に金鎚では無いが泳ぎが達者でも無い!」


 因みに”!”一回につきポーズを変えているけれど、その理由については誰も尋ねようとはしない。

 尋ねたくない、の方が正しいか。


 だって、尋ねたくないんだから。


「……尤もですわね」


 あっ、質問の答えはマトモな内容だよ。

 確かに筋肉は沈むし脂肪は浮かぶから体脂肪率が少ない上に筋肉量が凄い彼では確かに泳ぐのは大変と納得させられる一方、先代王妃の一件や普段の筋肉信仰的な発言に僕は混乱させられる。

 この人、マトモなのか変なのかどっちか分からないんだよなぁ……。


 まあ、筋肉信仰の時点でアレな人には変わりないんだ、善人には違いないんだけれども。

 何でも筋肉に変換しちゃうし、何となく理解している自分が嫌だ。

 レナスとかリアスなら息をするように理解しそうだけれど僕には到底だろうね。


「しかしあのモンスター……フェンリルでしたっけ? 魔法を咆哮でかき消した風に見えましたわ。神獣と呼んでいましたが、一体アレは……」


 一度サマエルに襲われたネーシャだけれど、流石にリュキに関わる存在だとは思い当たらない様子だ。

 まあ、”神獣”って総称は知っていたとして、所詮は伝説上の存在だから個体名全てを把握してしている訳も無いだろう。


 だから神獣と呼んでいても神が創造した本物ってよりは伝説のモデルとなった珍しいモンスターって認識だろう

 サマエルとかに関しては宗教関連の組織の構成員って所だと思う。

 まあ、宗教関連には違いないけれど。


「ロノス様、あのモンスターに関して何か情報は御座いまして?」


 うーん、未だちょっと話すのは早いかな? 話すとしても、それを切っ掛けにお別れって事になれば情報だけ持って行かれ、弱みとなりかねない。

 巻き込んでおいて不誠実な気がするけれど、ごめんね。


「ちょっと情報が少なくて何とも言えないよ」


 ……それに今は黄金の毛を持つフェンリルについて考える時だろう。

 あの咆哮による魔法のかき消しは力技で相殺した風には見えず、魔法を魔力の段階まで巻き戻す”マジックキャンセル”って魔法を使う僕だから理解した事がある。

 あの咆哮に込められた力も魔法の強制解除、それも広範囲に及ぶ上に咆哮自体に攻撃能力がある厄介な代物だ。


 ……光と反する闇にも有効な風に魔法の属性を無視して解除可能なのか、力の強弱によっては解除されないのか、消耗具合や前方にいる味方の魔法は解除しない取捨選択が可能な物なのか、そんな風に分析すべき事は多いけれど流石に一度見ただけで分かる程に僕は頭が良くない。


 いざ戦闘になった際、時属性なら平気なのに駄目だと判断して使わずにいたり、逆にあの力を使っていない咆哮を先に出して油断した所を魔法解除を込めた咆哮を使う可能性も有るし……。


「……今は考えても無駄か。ネーシャ、悪いけれど襲撃があった以上は報告が必要だし、四方を海に囲まれた此処に何時までも居られない」


「あら、それは残念。折角ロノス様と二人きりで居られましたのに。まあ、途中でお邪魔虫が……失礼、ちょっと迷い込んでしまった方が居ましたけれども」


「……それにしてもビックリしちゃいました。急に襲ってくる人が居ましたし、私とロノスさんの共同作業で無事に済みましたけれど」


 ネーシャとのデートが台無しになった事を謝るけれど、彼女は気にした様子を見せずに僕に歩み寄り、密着まで後少しという距離でニコニコと笑顔を向けてくる。

 これで安心、とは行かないんだよなあ。


 明らかにアリアさんに言葉を向けているけれど、状況が状況だった上にポイズンドラゴンの相手を任せた以上は強く言及は出来ない。

 でも、迷惑だったと言外に伝えているし、アリアさんも笑顔だけれどネーシャには遠回しに戦いで活躍しなかった事を指摘する。


 これが女性同士の戦いって奴、なのか……?


「まあ、何はともあれ今は向こう側に戻ろう! 酷使した筋肉は心身両方休ませねばならないからな! では、俺は再び走って戻る!」


 そう言うなりニョル先輩は海面に僅かに草を出現させ、それを足場にもの凄い勢いで走り去って行くけれど、出来れば置き去りにしないで欲しかった。

 この状況で去るってまさか逃げ……いや、止そう。


「と、兎に角僕達も戻ろうか。ネーシャ、氷の馬車ってもう一度出せる?」


「あら? 帰りはポチに乗って戻る筈と記憶していますわよ? 私、もう一度ロノス様と相乗りするのを楽しみにしていましたの。それに……」


 僕の真正面に居た彼女は立ち眩みでも起こしたかのように倒れ込み、僕の胸に受け止められる。

 慌てて肩を押さえれば上目遣いで此方をのぞき込んでいた。


「未だ元気そうなルメスさんと違い、情け無い事に私はもう限界でして。か弱い姿をお見せして情け無い限りですが、運んで下さると幸いですわ」


「う、うん……そうだね」


 この状況で断る事が出来るのは無謀な奴だけれど、ポチを呼んでから来る時間がこれ程長く感じたのは初めてかも。


「じゃあ、私も並んで飛んで行きます。前に一日使ってデートした時には未熟だった魔法も使いこなせるようになって来ましたし、ロノスさんに見ていただきたくって」


「一日使ってデート……」


 だって二人共、笑顔なのに凄く怖い。

 アリアさんの好意は知っているけれど、ネーシャの場合は籠絡の邪魔だからか?

 少しは好意を感じるけれど恋愛には発展していないだろうし……。


 アリアさんからは想いを伝えられていて、彼女が側室候補に挙がっている事も伝えているけれど、ネーシャの場合は存在する筈のない記憶が明確な臨場感やらその時の感情込みで蘇る事がある。


 これが修羅場とか複数相手に恋をする場合の心境って奴なのかと思う中、少し眠そうにしているポチが降り立った。



 ……寝ていたんだね。ごめんよ、ポチ。

 お昼御飯食べたら好きなだけ寝て良いし、遊びにも付き合ってあげるよ。


 眠そうにしながらもネーシャが乗りやすいようにとポチは自分から伏せの姿勢を取り、僕達が乗るのを待ってくれている。

 その姿に癒される反面、自分が疲れているのに気が付いた。


 クヴァイル家のアレコレに神獣やら何やらのゴタゴタは貴族としての教育を受けていても重く、時に貴族として育ったからこそ負担が増してしまっている。


 そうか、僕って本当に疲れていたんだね……。


「キューイキュイ?」


 そんな僕の心を察したのかポチは”大丈夫?”と心配そうな鳴き声を出し、頭を撫でやすいように持って来る。

 気が付けば触れていて、存分にモフモフの羽毛を堪能していた。










 あ~も~! か~わ~い~い~! 僕、完全回復! アニマルセラピー最高!


 こうして疲れからの脱却を果たした僕はネーシャと共にポチに乗って砂浜を目指し飛び立った。


 さて、リアスにも相談してみよう。

 野生の勘的な何かで良い案が出る可能性は0ではないし。


くっ! 少し評価下がったぜ!

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