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狼の恐怖 筋肉の魔法

また短編の案が……

 勇猛果敢にして獰猛で、されど仲間の絆を何よりの宝とする誇り高き神獣。

 フェンリルである我に恐れる物など創造主の怒り程度だと、我は信じて疑わなかった。


 だが、違ったのだ。


 幾夜明けようとも決して覚めぬ悪夢がある


 幾人屠ろうとも決して拭えぬ屈辱がある


 幾ら力を得ても決して消えぬ恐怖がある。


 あの日、我……いや、我等”神獣フェンリル”は圧倒的な力の差によって壊滅的な被害を受けた。

 同族の屍の山に隠れ息を殺し、それでも存在を悟られながらも気紛れで見逃された後、感じたのは安堵ではない。

 あの様な化け物が存在する世界で生き続けるという地獄に震えたのだ。


 我等は人を滅ぼす為に光の女神によって創造された存在であり、生物として人間を圧倒している。

 例え同じだけ肉体の質の上昇を体験したとして、それは差が開く一方で、生半可な数の差では埋められぬ……筈だった。


 だが、あれは一体何なのだ?

 鬼族、女だけしか存在せず、魔法に関する力が劣るものの埋め合わせ余りある身体能力を持ち合わせた種族。

 しかし、あれは綻びが生じていたとしても我等の封印を解き放ち、酒盛りの前の軽い余興の代わりに我等を屠った。


 才も、肉体の質を上げた回数も、既に常人が百度の生涯を繰り返し経験を蓄積しても至れぬであろう領域。


 敵を討とうとは思わず、関わるくらいならばこの心の底に存在を続ける人を滅ぼしたいという欲求すら捨て去り自害を選びたい程に我の心は敗北している。


 血煙が香る中、ほろ酔い気分で去って行った女だが、去り際に我の鼻に残り香が届くように布を落とし、我の方を見向き見せず指で指図する。


 ”この者を襲え”、人に従う謂われは無いのだと無視できる筈も無く、どの様な形であろうと奴と関わり合いになりたくないと引き伸ばしにしていた先日、風上に立った奴の匂いと僅かな殺気に心臓が止まりそうになった。





「ちょっとお前に命令するのじゃ。捨て駒にした人間じゃが、送り込むタイミングを間違えたので回収して来い。私様のミスが露呈する前にな」


 そんな折り、一刻も早く襲うべき相手を捜し出そうと焦る我に少し頭の足りなさそうな将が命令を下す。

 どうも操っている人間だが、捨てる際にさせる事があったにも関わらずそれより前に複数の命令を下して出発させてしまったとか。


 最終的に向かう場所は分かっているので先回りしていたが、漂って来た匂いは恐怖の対象から命じられたターゲットの物。

 想起してしまった女の姿によって心臓を潰されたと錯覚する程の恐怖に失禁し、意識が僅かな間だが完全に失われてしまう。



 だが、此処で奴を仕留めれば良いはずだ。

 奴なら容易く屠れる相手を何故我に任せたかは知らぬし、命令は今咥えている人間の回収。

 しかし、此処で殺してしまえば奴との関わりが切れる筈だ。




 神が従えと命じた将の命令に背こうとも、想起を続ける恐怖に震えようとも、奴との関わりを断ち切れるのならば……。



 むっ、別の人間が何かする気だな。

 練り上げている魔力からしてそれなりに鍛えられたようで、普通に戦えば我とて手こずるだろう。

 


 普通に戦えば、我がフェンリルでなければ、奴と同等の者が複数居て武装などの準備を整えていればの話ではあるのだが……。

 


 ……所で水着でもないのに何故上半身裸?

 露出狂の変態ならば少し怖いと思う我であった。



「先ずは様子見……等とまどろっこしい事をするべき相手では無さそうだ! 最初から全力で行くぞ!」


 ……ほほぅ。頭の変な人間かと思いきや、我の力を察して格上と判断したか。

 変態ではなく、それなりに出来る相手だと我も相手を評価し、獲物ではなく敵と見做す。

 もし奴がフェンリルを知っている様子なのに我に対して舐めた様子を見せるのならば様子見の攻撃の被弾など無視して突っ込み、絶望と後悔の表情を浮かべた頭をかみ砕いてやっていた所だが運の良い奴め。

 では、此方は何をするのか見せて貰おう。


 相手は此方を知っており、此方は相手の姿だけでは何をするのか皆目見当も付かない。

 未知とは戦いにおいて警戒に値すべき物の一つであり、敵と見なすべき相手なら尚更だ。


「大地よ! 筋肉を震わせ力を示せ!」


 ……うん? 大地の……筋肉? 全く意味が分からない!


「”ザ・フォーマー”!」


 半裸の男が大地を殴りつけ魔力を流し込んだ瞬間、土が耕され緑が芽吹く。

 ……植物操作、変異属性という奴か。


 人の子が使う魔法には時として他とは全く別物の場合が存在するのは与えられた知識で知ってはいたが、植物操作とは珍しい。

 我はこの時代に復活した瞬間に母の腹から生まれ落ちた身故に知らぬが、封印される前から存在した大人達ならば相対していたかも知れんな。


「”キャロットボム”! ”パンプキンクラッシュ”! ”ビーンズガン”!」


 相手の実力評価を上方修正、|頭まで筋肉で出来ているタイプ《鬼族の同類》かと思いきや、連続して別種の魔法を放つとは。

 最初の魔法が下準備を担っているのか? 宙や水上等大地が手近に無ければ使えぬのだろうが……ふむ。


 逆向きに生えた人参が葉の部分から魔力を噴出しながら飛び出し、小屋ほどもある巨大なカボチャが我に向かって弧を描いて飛び出す。

 最後の魔法は巨大な豆の木が地中より出現し、膨らんだ鞘の部分が破裂し中身が高速で飛んで来る。


 左右から挟み込むように人参が、頭上よりカボチャが、正面から豆が我に襲いかかる中、前足に力を入れた事により咥えた男の肉体に食いしばった牙が少し深く入り込んだ。


 だが、生きていれば使えるのなら些事である。

 この男、我と同様に力を底上げされているらしいが、その方法が全く違い、故に使い捨てだと判断可能だ。

 力を水、扱う肉体を水差しに例えた場合、我が神獣将シアバーンに水差しそのものを変えられたのならば、この男は注ぎ口が小さく一度に出る量が少ないからと上の部分を切り落とした、と、その様な負担を考えず切り口から亀裂が広がる方法を選んだのだから間違いは無い筈。


「ウゥゥ……」


 まあ、故に多少手荒に扱っても出血死に繋がる四肢欠損等に至らなければ良いのだろう?

 首を動かし男を後方に放り投げる。

 放置すれば海に落ち、出血が悪化するか溺死するかだろうが、その前に回収すれば良いだけ。

 

 この程度の者を背中に乗せる屈辱に耐えられぬ以上、今から行う事に邪魔なのならば許される筈!



 さて、とくと見よ、人間。

 これが我の……否、フェンリルに眠っていた力。

 圧倒的な肉体の差を埋めるべく代々積み重ねて来た弱者の研究と研鑽を嘲笑う……強者の咆哮だっ!



「アァァァァァァァァァオォォォォォォォォォォォンッッ!!」


 我の声は物理的な破壊力を持って前方広範囲に広がり、海水を押し流しながら突き進む。

 空気が震え、声量に人間の女達が思わず耳を塞いで竦む中、我の咆哮と男の魔法が正面からぶつかり合った。


 拮抗? 威力の削減? その様な物は一切存在しない。



「なっ!?」


 どうやらフェンリルは知っていても黄金の毛を手に入れたフェンリルについては知らなかったらしく、男は自らの魔法が消え失せた事に動揺を見せる。



 これこそ我の力、人間を滅ぼす為の牙。

 今の我の咆哮には四属性全てを消し去る力が存在し、それは複合も変異も力の大小も無関係。


 磨き抜いた技は圧倒的な力の前には無意味なり。

 では、先程投げ捨てた男を回収しよう。


 余計な荷物を抱えた状態ではあの化け物が我をけしかけた相手と戦う危険は犯せない。

 今は去り、直ぐに戻って来よう。


 万全の状態で正面から叩き潰し、その肉を食らう事で我はあの恐怖から解放されるのだから。

応援待ってます  もう直ぐ千五百


突破したらサイトでクーポン出るの待って四p発注したい

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