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特殊な兄 馬鹿威力の妹 なら、彼女は?

短編楽しい

 私の友人はアホである。そしてゴリラである。……あと、序でに言うなら凄い家のお嬢様で聖女(笑)。


 幼い頃から一緒に居て、色々とお世話をして、地獄にだって巻き込まれた。いやぁ、修行という名の殺人未遂をドン引きしながら眺めていたら巻き込まれるだなんて。おのれ、あのゴリラ姫。咄嗟に私に助けを求めるなんて殺す気か!



「チェルシーさんは泳ぎに行かないのですか?」


「……今寝ておかないと夜が辛いわよ?」


「大丈夫! これでも夜遊びには慣れてますので!」


「あっ、そう。悪いんだけれど出掛けるんだったら窓とカーテン閉めてくれない? 潮の香りって苦手だし明るいと眠れないのよ」


 えっと、彼女の名前は……エリネだったわね。どうやら大公家に嫁入りする私と仲良くなりたいらしく、エリネはしきりに私を遊びに誘おうとしているんだけれど逆効果だって分からないのかしらね? 

 臨海学校のスケジュールに書いていたじゃないの、夜に備えて身体を休めておけって。夜遊びなんかとは比べ物にならない面倒なイベントの匂いがプンプンするからフリートですら私を誘わずに身体を休めているってのに。


 正直言って危機管理能力その他諸々が不足よ。羨ましいレベルでね。どれだけ呑気に暮らして来たのやら……。

 家柄とは関係無しに彼女を派閥に加える事のメリットが低い事を確認しながら布団にくるまる。潮の香りが苦手なのは本当の話だし、風を操作して誤魔化しながらウトウトしていた時、私の耳に僅かに鳴き声が届く


「ロノス様の友達のペットかしら? 昼動いても平気な体力お化けは羨ましいわね。……って、違うっ!」


 遠くから聞こえて来たから確証は無いけれど、あの鳴き声はドラゴンが威嚇をする時の物。一瞬だけ面倒臭いと思いながらもログハウスから飛び出せば遠くの島の上空を飛ぶポイズンドラゴンの姿が目に入った。


「あれ? チェルシーさん、矢っ張り外で遊ぶんですね。だったらご一緒に……あれは何でしょう?」


 エリネじゃ距離が結構ある位置のドラゴンは豆粒程度にしか見えないのか呑気にしている。あー、これだから普通の連中は! いっぺん地獄を見なさいっての!


「先生か監督補助の先輩達を呼んで来なさい! 緊急事態だからって!」


「え? それは一体……」


「さっさと行く!」


 こんな生息地から遠く離れた場所にポイズンドラゴンが来るなんて普通は有り得ないし、そんな普通じゃない事態が起きた場所に居るであろうなのは一瞬見えた魔法からしてロノス様やアリア、後は氷の壁からしてロノス様の友人であるアンリか皇女! 偶然にしては最悪な展開。


「これが偶然なら神様ってのはどれだけ性格悪いのよ……」


 エリネをさっさと行かせた私は一気に魔力を練り上げる。私はリアス様みたいなバトルジャンキーゴリラじゃないのに本当に面倒。でも、面倒だからって見過ごしちゃ駄目よね、流石に。


「さっさと終わらせてさっさと寝る! 寝不足はお肌の大敵なのよ!」


 相変わらず不愉快な潮風を感じながら私はポイズンドラゴンと、その背中に乗っていた人物を睨み付けた。肌荒れでも起きたら香油代とか請求してやろうかしら、割と本気で!


「”メテオサイクロン”!」


 私の周囲の空気はゆっくりと渦を巻き、それは急速に規模を拡大させて行く。そして……。






「おっと! よっと! 下手糞さん! 鬼さん此方、手の鳴る方へ」


「手は鳴ってませんけれどね」


 巨大な鎌を振り上げて飛び掛かって来た仮面の男。あれだけ大きな鎌を楽々と振り回す姿からは小柄でモヤシみたいな肉体からは想像も出来ないけれど、動きは正直言って雑を通り越している。振り回されているって感じかな。


 因みに両手が塞がっているから実際手は鳴っていない。それよりも水着を直した途端に余裕になったね、君。


 殺気はビンビン、それもアリアさんを無視して僕とネーシャをあからさまに狙っていた。巨大な刃で二人纏めて切り捨てようとしているけれど足の運びはガタガタで鎌を振った勢いで前につんのめり、ネーシャを掴んで後ろに跳べば無理に追おうとしてローブの裾を踏みつけ転んでしまう。


「……」


「かんしゃくでも起こしたのかな?」


 転んだ姿勢のまま片手で力任せの投擲。回転しながら飛んで来た鎌を空気の壁で弾き返し魔法を掛ける。経年劣化でボロボロに……ならない?


「……あー、まさか」


 頭を過ぎった嫌な予感。




 甲高い金属音を立てて跳ね返った鎌の刃は岩に深々と突き刺さる。普通の鎌じゃないとは思ったけれど、かなりの切れ味みたいだ。だけれども僕が警戒したのは別の事。妙な魔力を感じたから呪いの類でも込められていると思っていたら誰も触っていないのに揺れながら刃を引き抜こうとし、柄の一部が盛り上がってコウモリの翼を広げる。同時に刃の腹に切れ目が走り、爬虫類に似た瞳が見開かれた。


『キィヤァァァァァァァァァァァァッ!』


「な……何ですの、アレは一体!? まさかゴーレム!?」


「ゴーレムだったら良かったんだけれど、アレは似ているけれど別物、”憑喪神”。要するに命を与えられた半物半命の存在さ」


 憑喪神、器物百年何とやらって前世では伝わっていた妖怪の類。カサバケとか琴古主とかの類だけれど、この世界では魔力で動くゴーレムと同様に魔法によって生み出される存在だ。


 但し厄介さではゴーレムよりも上。命を持つからゴーレムみたいに魔力を使い切った事で活動停止もしないし自立思考しているから創り出した奴が死んでも問題無く動ける。身体も特別だから回復魔法だって効果が有るんだ。逆に物体だから毒や洗脳の類は効かないし、出血や痛みも無い。


「……東の大陸に存在する桃幻郷の魔法技術による物だけれど、協力者に出身者が居るのかもね。あの国とは四カ国全部が敵対しているしさ」


『キィギィィィィィィィィィィィッ!』


「きゃっ!? なんて声ですの!?」


 金属を擦り合わせる音に似た不愉快な鳴き声が響くけれどネーシャをお姫様抱っこしているから耳を塞げない。あー、面倒だ。仮面の男も手を前に突きだして火球を徐々に巨大化させながら放つ機会を伺っているし、鎌だって刃を引き抜くと威嚇するように刃を上下に激しく振る。



「せめて武器が有ればな……」


 素手で勝てないのか、と問われれば勝てると答えるし、苦戦だってしない自信がある。でもさ、正直言って格下である仮面の男と鎌の憑喪神なんだけれど、強化された力を全く見せずにってなると話が違って来る。


 あの男は捨て駒だ。つまりは本命が様子を伺っている可能性が高い。なのに全力を出すのはちょっとな……。


「ロノス様、私が戦いましょうか? ……私も他人事ではありませんし。襲われたという意味でも、将来的にって意味でも……」


「いや、断らせて貰うよ。気持ちには感謝するけれど、意地を通す為に守ろうとした女の子に戦って貰うのは格好悪くないかい?」


 この場で力を隠していたとしても、控えて居るであろう本命相手に使えるアドバンテージは一回。たかが一回、されど一回、それでも一回は一回だ。正直言って手間取っているのは無価値な意地なのが大きい。もっと強い相手と戦う気なんだから武力偵察の捨て駒相手に舐めプで勝たないでどうするんだって馬鹿みたいな理由さ。


「あら、でしたらロノス様の格好良い所を間近で見せて頂けるのですわね?」


「格好良いと思えるかどうかは君次第だけれど、君の心を射止める出来映えを目指そうかな」


 まあ、女の子を巻き込んでまで通す意地じゃない。どの道直ぐにバレる手の内だったらバレた上で相手を叩き潰せば良いだけだし……ネーシャには良い所を見せたいって何故か強く思うんだ。どうしてかな? 記憶が蘇っていない僕の大切な相手だったけれど、僕にとっては違うのに。


「……って思ったのに、ナイスタイミングって言うべきかタイミングが悪いって言うべきか」


 仮面の男の背後、かなり遠方の浜辺で中規模な竜巻が発生する。それは先程まで確実に浜辺には存在していなかった牛ほどの大きさの岩だけを巻き込んで宙を舞わした。


「砂の瞬時の超圧縮。そして風に乗せて……。何と言うべきか、これ程の実力者が未だ居たなんて……」



 ネーシャが感嘆の声を漏らし、岩は風によって削られ鋭角を付けられて行く。回転の速度は急激に増し、遠心力を乗せた勢いで岩が次々に放たれた。



「チェルシーったら、相変わらずえげつない射程の魔法だなあ……」


 僕やリアスなら広範囲を巻き込む感じだけれど、彼女の場合は正確無比なコントロールが売りだ。授業の時はわざと隙を見せる為に適当に手を抜いているけれどさ。


 ……それにしてもイキッた直後に援護が入るなんて少し情けない気がして来たよ。


 飛来した一つ目の岩が命中して柄が折り曲がりながら吹っ飛ぶ憑喪神の姿を眺めながら肩を落とす僕だった。


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