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修羅

「こっちに到着したのにロノスさんの姿が見えないのに心配して探してたんですけれど、氷の壁に囲まれた島が見えたので来てみたんですよ」


 何時もの明るい声と明るい笑顔、普段通りのアリアさんは黒い翼を羽ばたかせて舞い降りる。あっ、服の裾から見えたら駄目な所が見えたとビックリしたんだけれど、よく見たら水着だ。アリアさん色白だし、逆光の状態だと白い水着が肌に見えたんだよな。……流石に素っ裸にシャツだけって有り得ないよね。


「アリアさん、その魔法をちゃんと使えるようになったんだ。あっ、紹介するよ。彼女は……」


 ネーシャを紹介しようと思ったんだけれど、ちょっと思う。気まずい、告白して来た相手に婚約者候補を紹介するとか凄く気まずい。でも紹介しようとしたのに途中で止めるのもどうかと思うし、ちゃんと紹介した方が良いよね。じゃあ、ちゃんと彼女を……わあっ!?


「ネ、ネーシャッ!? どうして少し脱いでるの!?」


 振り返ったらハイレグの肩の部分の布地をずらして胸の谷間を大きく晒した彼女の姿。ちょっと間近で上から見れば先端部分の肌色じゃない部分が見えてしまいそう。僕は慌てたんだけれど、そんな格好の彼女は余裕の笑みだ。え? アリアさんが居なかったらどんな状況になってたの!?



「いえ、ちょっと暑くてずらして冷気で冷やそうと。汗ばんで気持ち悪かったですので」


「あら、ビックリしちゃいました。だってこんな野外で脱いで迫ろうとしたと勘違いしちゃいましたよ」


 そんな明らかに嘘だけれど見えている本意を指摘するのも難しい。”君、僕を誘惑する気でしょう”とか言えないからね。だから僕はスルーを選んだけれど、アリアさんは違った。氷の壁の上に降り立ちながら自然な口調で皮肉をぶつけた。


「まさか。ちゃんとロノス様が背中を向けている間に済ませる気でしたもの。しかし私もビックリしましたよ。太陽を背にしていたせいで白い水着が肌に見えて……変態かと思いましたわ」


 そして返される皮肉。あっ、ちょっと不味い状況? 互いに平気な顔をしているんだけれど火花が散るのを幻視した時、波の飛沫で濡れていたのか氷の壁に降りたったアリアさんが滑って海に落ちた。


「あっ」


「アリアさんっ!?」


 慌てて駆け寄ると氷の壁の向こうから恥ずかしそうに顔を出す。良かった、落ちた勢いで溺れないかと心配したよ。


「大丈夫? ほら、掴んで」


 それでも海に落ちたばかりだし心配して手を差したんだけれど、彼女がそれを掴むより早く氷の壁がその部分だけ低くなって必要が無くなる。ちょっと惜しそうな表情を見せたアリアさんは起き上がったんだけれど、これはちょっと直視出来ないや。


 黒髪もシャツも濡れて肌に張り付いて、透けたシャツと水着の色が同じなせいで逆に肌色が目立つ。さっき以上に裸の上からシャツを着ているだけみたいだ。


「……ロノス様、その格好ですと動きにくいでしょうから魔法で濡れる前の状態に戻して差し上げたらどうでしょうか?」


「う、うん……」


 間近で見ると本当に恥ずかしくって顔を逸らす僕にネーシャが提案するんだけれど、少し不機嫌に感じるな。アリアさんに色々邪魔されたから、だよね? 数秒間見とれて居たからじゃないよね? そんな事よりも……。


「えっと、どうして腕に抱きついているの?」


「あら、迷惑ですの? ロノス様が私と密着するのが嫌だと言うのなら離れますが……」


「迷惑……じゃないけれど」


 僕の腕に抱きつく彼女は肩の布をちゃんと戻していない。つまりは谷間をさらけ出しているから肌と肌が直接触れる上に、アリアさんから目を逸らして向いていた方向からだから、その、上から見るとギリギリ布で隠されている部分がね……見えているんだ。


 迷惑ってよりは嬉しいんだけれど口には出せない。そんな僕の背中に押し当てられるのはネーシャよりもボリューム大な二つの塊。ずっしり柔らかな二つが濡れた薄布を挟んで背中に押し付けられた。


「いえいえ、ロノスさんにそんなお手間はお掛けさせられませんし、シャツを脱いでしまえば良いだけですから。それよりもロノスさん。この姿を見るのが恥ずかしいのならこうやってくっ付いていますね」


 これまで何度か当てられた事は有ったけれど、それは自然な形でだ。でも、今は何時もより強い上に上下左右に動かして擦り付ける感じで存在を嫌でも意識させられる。


「あっ、申し遅れました。私、アリア・ルメスと申します。ロノスさんとは入学当初から仲良くさせて戴いていて、何度か一緒にお出掛けもしているんですよ」


「あら、じゃあ私も挨拶をしませんと。ネーシャ・アマーラ、ロノス様の婚約者候補ですが、もう後押しからして決まった物だと思いますわ」


 僕を挟んで再び火花が散っている。これが修羅場って奴なのか。……頑張れ、僕! 何人もお嫁さんにする以上、こんな展開になった時にちゃんと仲裁するのも役目だ。経験が足りないのなら今回の事を経験にするんだ。


 うう、それにしても腕と背中に当たる胸が気持ち良い。


 二人は僕を挟んだまま離れる気が無いらしく、顔を見ればニコニコと笑みを浮かべたままだ。アリアさん、君って争ったら面倒な相手とは争わないタイプだったよね? ネーシャも合理的に考えて無駄な争いをしないタイプだと思ったのに……。


 自分を挟む二人の匂いが鼻に届いて変な気分になりそうだ。このまま二人を襲ってしまうとかは有り得ないけれど、ちょっと意識を外すのは無理だ。



「あの、ロノスさん。……ちょっと変な気分になっちゃいました。エッチな事が頭に浮かんじゃって……」


「わ、私もこうやっていると息が苦しくなって来て……。ロノス様って逞しいですわよね。実はアリアさんの勘違いについて聞いた時から頭の隅で思い浮かべてしまって……」


 あれれ? 僕を誘惑しているだけだよね? もう顔も見れないから上を見ているんだけれど、聞こえて来る二人の声は艶っぽい。まさか場の空気に任せて僕を誘惑しているせいでそんな気分になったとか?


「私、貴方にならこんな場所でも……」


「ロノス様と私は将来結ばれるのがほぼ決まっていますし、今から練習として……」


「ちょっと落ち着こうか!? 此処、屋外だから! 二人共、一旦離れて……」


 僕に密着する力は強くなるばかりで離してくれる気配は無い。ちょっと僕の理性も崩れそうで視線を二人に向けそうになった瞬間、空から向かって来る影が視界に映った。


「っ!」


 それが何か即座に理解した僕は咄嗟に二人を小脇に抱えて正面に飛ぶ。次の瞬間、硬質な物に重い物が勢い良く衝突する音と鳥類の悲鳴が聞こえた。


「ロノス様……?」


「敵だよ、ネーシャ」


 これは経験の違いなんだろうね。アリアさんは直ぐに我に返った様子だけれどネーシャは少し戸惑った様子で襲来して来た存在を目にする。


 その正体は大型のドラゴン。クチバシを真下に向けて急降下して来た所に時間を停めた空気を用意したから見事に激突しクチバシが砕けているけれど動けるみたいだ。いや、ちょっと怒り心頭って所かな? 羽毛は紫の斑模様がある青。


「”ポイズンドラゴン”か。それに……」


 体内で生成した毒を吐き出す少し面倒な相手、更にはその背中に乗っていた仮面の男。ネーシャと出会った日に襲って来た神獣将の手駒。その手には大きな鎌が握られていた。


「やあ、久し振り。今日は一人かな?」


「……」


「黙ってないで何か話そうよ。君の名前くらいは教えてくれるかい? ……無視か。嫌われているね」


 僕の問い掛けに鎌を振り上げるって反応で返す。まあ、敵なのだから予想内の反応だけれど、相変わらず喋らない奴だな。お喋りな奴なら情報を漏らしてくれるんだけれど、喋らないのか喋れないのか望みは薄い。僕の予想では喋れないんだろうね。


 ……正直これで臨海学校が中止になったらトラブルに巻き込んだって見当違いの恨みを同級生がぶつけて来そうだから嫌なんだよね。



 今はそれよりも……。


「み、見ないで下さいませ!」


「あっ、ごめんね」


 さっき咄嗟に掴んで跳んだ勢いなのか大きく水着がめくれたネーシャはいざ肌を見せると恥ずかしいのか顔を真っ赤にして両腕で胸を隠している。



 ……うん。あの鎌から嫌な予感がするけれど、彼女との事でも嫌な予感がするなあ……。




応援待っております


最近短編が楽しい

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