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誤解

最近短編投稿が楽しいと思える 昨日もしました

 ……何と言うべきか、私の計画は思ったよりも順調に進んでいましたわ。駄目で元々、少しでも意識する方向に持って行ければ幸いという程度だったのに何故か予想以上にロノス様は意識した様子。初対面の時から観察していましたが、こんな簡単な色仕掛けや好意アピールでどうにかなるという相手では無かった筈なのですが。


 ……私の観察眼は自己評価過大だったのか、それとも彼は私に恋の片鱗でも抱いた?



「ロノス様、本当にマッサージは宜しいのですか? 未熟ですが気持ち良いさせる自信は有りましてよ。その後でロノス様も私を気持ち良く……というのは不敬でしょうか?」


「マッサージをお願いしたからって不敬に問われる立場じゃ無いでしょう、今の君はさ。まあ、元々ヴァティ商会の令嬢に多少の冗談で不敬だの何だの追求する気は無いしさ」


「それは安心しましたわ。貴方に嫌われでもしたらショックで寝込みそうですもの」


 思った以上に反応が返って来たから更に一歩踏み込む積もりだったのですが、マッサージは拒否されてしまったのは少し残念。私には男性との成功の経験も御座いませんが、将来的に結婚相手を籠絡、相手側が持つ物を実質的に掌握する為に高級娼婦を教師として道具を使った実践練習もしましたのに。


 マッサージに格好付けて誘惑、本番とまで行かないまでも決定的な一手を打つ予定でしたがどうも急いていたらしいです。


「では、折角ですのでゆっくりと語り合いませんこと? 私、ロノス様の学園生活についてお聞きしたいですわ。授業をどんな風に受けているのか、先生は生徒から見てどんな方々なのか、学園の周辺についても。学園に通うのですもの。是非聞かせて下さいません?」


「そうだね。君は学友になるし……多分君と婚約するんだ。まあ、プライベートな事は控えめにするとして、先ずは何から話そうか」


 辿り着いた小島はモンスターが生息しない小さな花畑と岩場だけの地味な場所。それでも海から飛び出して来るのは厄介だから私の魔法で氷の壁を生成しました。……ロノス様ったらあっさりと受け入れましたが、自分が壁を作るとは言いませんでしたわね。


 ……あの街での戦いに敵と交わした会話とこの事からして、彼の魔法は一度使えば一定時間保持されるのではなく使い続けるタイプ? ”魔王”が未だに健在な理由として疑われる彼の魔法、前代未聞の時属性。その片鱗を掴んだ……のかしら? ええ、ブラフの可能性も考慮しませんと駄目ですわね。



「じゃあ学年主任のマナフ・アカー先生だけれど、一部の生徒に執拗に狙われているんだ」


「狙われている……ですか? 学園内で生徒から狙われるだなんて……」


 予想外の情報。確かに数年前まで暗黒期が続いていた王国ですが、教師を生徒が狙う程に物騒だなんて。マナフ・アカー、情報では”四属性を使いこなす複合属性”であり女神リュキの敬虔な信者である事は分かっていましたが、そんな彼が狙われるのは実力から目障りだと感じていた何者かが? これは情報を手に入れるべき?


 ですが同時に嫌な予感も覚える。聞いた事で同じく狙われる可能性も有り、しかしこの様な会話で……いえ、有り得ますわね。正直言って調子に乗りすぎた気もしますし、危険視されてクヴァイル家とは別の勢力に始末させる計画も考えられる。私が態度に出すか、彼が何かしらで漏らせば……。生徒という事は貴族。それが刺客になると言う事は裏に大きな力が?



「……厄介な話ですわね」


「ああ、僕も関わり合いになりたくない。エルフの血を引くってのは面倒だなって思うよ」


「エルフの血……?」


 その言葉で私は彼が何を伝えようとしているのかを察し、始末する気なのではと疑った事を恥じた。エルフの血を引く教師を生徒が狙う理由、それは多種族への排斥思考。四属性全てを扱い貴族の生徒相手に教鞭を執るのがヒューマンではないだなんて許せない、今時そんな鼻をかんだ後の塵紙一枚分の価値も無い思想の持ち主が裏で動いているのですわね。


 ……しかし何らかの既得権を脅かされるかでもした恨みの可能性も有りますが、生徒を動かせる時点でその者の立場も目的も油断して良いとは思えません。そんな事、悪徳貴族への締め付けを強める現王妃への挑戦……まさかっ!


「成る程、恐ろしい話ですわね」


「……理解したんだ。ネーシャも注意して。欲望のままに暴走した相手は後先考えないからさ」


 この様な場所で水着姿の若い男女が二人だけ。そんな状況でする話が教師に対して生徒が刺客として送り込まれたという血生臭い話だと思いましたが、私の予想をロノス様が肯定する。


 黒幕の目的。それは恐らくエルフとの関係を悪化によって小規模でも小競り合いを発生させる事。その混乱に乗じて現王妃を暗殺するという恐るべき計画ですわ! 反王妃派の王国貴族か聖王国の反クヴァイル派の貴族なのか、もしくは帝国や共和国の仕業なのか。


「ロノス様ったら相変わらず甘いのですわね。ふふふ、ご忠告は深く心に刻みましょう」


 それを私に教えるだなんて、計画の妨害に支障が出かねないというのに優しい方。私、そんなに気に掛けて下さる程に彼の中では大きな存在でしたのね。……助けて貰っただけで身も心も捧げる程に安い女ではありませんが、ロノス様相手ならば心を許し共に居る事で安らげる相手になるかも知れませんわね。


「え? 何の事? 僕はその生徒達が見た目が美少年の先生を……」


「皆まで仰らずとも大丈夫。ちゃんと注意はしますので、それよりも私はロノス様のお話が聞きたいですわ」


「うーん、何か妙な感じだけれど、君がそれで良いなら話すよ。僕とリアスは基本的に屋敷から馬車で通学しているんだけれど、放課後になったら時々直帰しないで……」


 私の役目は皇女としてクヴァイル家に嫁ぎ、少しでも帝国の利益に結びつける事。それは正式に命じられた訳ではなく、私が理解すると評価しているのと、何かあった時に全責任を押し付ける事になっているのでしょう。


 私は別にそれで良かった。このままクヴァイル家に嫁げなければ別の嫁ぎ先、つまりは帝国貴族の妻として一切合切凡庸な双子の妹に忠誠を捧げなくてはならないという事だから。それに上手く行けば私を不要として妹を選んだ母に認めて貰えると思った。


 でも、今は別の目的も生まれましたわね。一緒に居るのが楽しいと思える方と、ロノス様と一緒に居たい。恋心とまでは行きませんが、親愛や憧憬に似た何かは私の中で芽生え始めたのを自覚していました。


 そして色々と話を聞かせて貰い、そろそろ島から出る頃だと名残惜しい思いを感じた時でした。不意にロノス様からこんな事が告げられたのです。


「あっ、そうだ。ネーシャも話を聞かせてよ。僕も君の事が知りたいな」


「私の事を、ですか?」


 一瞬何かの策かと疑ったのですが、今までの人生で培った対人の観察眼がそれを否定します。ああ、この方は本当に私の話が知りたいのですね。私が籠絡する筈なのに、もしかしたら……。


 ロノス様は狡いです……。


 もう予定を変更して色仕掛けでも使ってみましょうか? そうすれば私の目的は色々と叶いそうですし、彼だって私を特別視してくれるかも知れませんから……。


「じゃあ、ポチを呼ぶね」


 彼が浜辺を向く為に背を見せた時、私の手は水着の肩の布地に指先を滑り込ませます。でも、こんな方法で本当に後悔しないのかという想いが浮かび上がった私は動きを停めてしまいました。野望の為のチャンスは目前なのに、何故か動けません。





「あっ、ロノスさーん! そんな所で何をなさっているんですかー?」


 そして、そんな彼との二人きりの時間に水を差す野暮な声。黒い翼を羽ばたかせた魔女が私達の前に舞い降りたのです。


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