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僕が好きなのは……

昨日、追放系の短編書きました

「所でネーシャ。この氷の車って船になるの?」


 波打ち際までやって来た僕達だけれど、ふと疑問が湧いて出た。氷って水に浮くから大丈夫とは思うけれど、小島って遠目に何とか見える距離だしさ。お昼ご飯の時間までのんびり過ごすにしても往復にだって時間が必要だし。


 ……正直こうやって他の事を考えていると楽になる。いや、だって誘惑っぽい事をされたばかりだし、二人きりで人目の届かない場所に若い男女が行くってのは。僕が体験していないのに蘇った事のある彼女との記憶には永久の別れになるのを察し、せめて存在を深く刻みつけるって理由で……うん。勢いで行動していたけれど、ヤったら不味い事も有るんだよね、後先考えずにさ。


「船にですか? 出来ませんわよ? 実家が所有する船には外輪を付けたパドル船って代物が御座いますが、氷では帆は張れませんし。ええ、ですが案はありますので。それでお願いが二つ程有りまして……」


「何だい? 今すぐ婚約者にしろってのは無理だよ?」


 平然と言い切った後でモジモジと言いにくそうにする彼女だけれど、僕は深く指摘せずに冗談で返す。やばい、少しドキッとした。知らない記憶だけれど関係を持った記憶が有るからなあ。本人からすれば勝手な妄想を現実と混同してるって感じだろうけれど。……普通に気持ち悪いよね。絶対言わないでおこう。


 って言うか絶対に言えない。


「ふふふ、そんな内容ではありませんわ。だって私は選ばれるのは自分であると絶対の自信が有ります。それだけの価値を磨いて来たのですから。だからお願いとは別の話。……先ずはこの氷の乗り物の魔法に名前を付けて下さいませんか?」


「魔法に名前を? 普通は制作者が付ける物じゃないのかな?」


 僕の葛藤なんて知りもせずに悪戯でもするみたいに笑う彼女のお願いは意外な内容だった。本来魔法を一から創り出すのは至難の業で、だからこそ創り出した人は誇りを持って名前を付ける。僕だってゲームで使われていた魔法はそのままだけれど、一部の僕が考えた奴には名前を付けているんだ。


「ええ、疑問に思うのはもっともでしょう。ですが、この魔法はロノス様の為に創り出した物。故に名前を付けて欲しいというのは浅はかな私の願いですの」


「うーん、そう言われると悩むな」


「あら、考慮して下さいますのね。胸が躍る気分ですわ。どんなお礼を差し上げるべきでしょうか」


 お世辞が混じっているとして、此処まで言われてv断るのは失礼に当たる。それに引き受ける素振りを見せれば予想通りに微笑んでくれるし、別に良いかな? 名付けるデメリットは無いんだし。じゃあ、氷の車だし……。


「”アイス・ホイール”とか? 即興じゃこんな簡単な物しか浮かばなくてごめんね」


「いえいえ、素敵ですわ。私では変に凝って奇天烈名前にしそうですし、披露するのが前提ならば覚えやすくシンプルな物こそ最適かと。感謝致しますわ、ロノス様。では、図々しいお願いをもう一つ。……二人の共同作業で離れ小島に向かいませんこと?」


「共同作業?」


 我ながらセンスが皆無だって名前しか出ない中、それでもネーシャは誉めてくれる。身を預けるようにして抱き付くもんだからドキドキしちゃって冷静さを失いそうだ。それが目的? 今後の為に優位な関係作りとかさ。


 しかし共同作業かあ。うーん、変な妄想が働く予感。いや、変な意味では言っていないのは分かるんだけれど。


「私がロノス様に乗って動けば良いですわね」


「変な意味だったっ!?」


 幾ら車内で二人っきりだからってナニを平然と言っているの、この子!? レナでさえ誘う時はその手の顔になるのに、ネーシャは本当に平然と言い切った。だから思わず叫んじゃったけれど、僕の聞き間違えとか解釈違いって事じゃないよね? もしそうだったら僕は下半身で物を考えるスケベ野郎って事になっちゃうよ。


 果たしてネーシャの反応は……。今は叫んだ僕に戸惑っているけれど、もしかして本当に僕の間違いなだけで……。


「え? 変な意味? だって、私は今……」


 僕が何を言っているのか分からないって様子の彼女に一気に冷や汗が流れるけれど、急にその戸惑い顔が固まって耳まで真っ赤になる。小さな声で自分がさっき言った内容を呟き、途中で止まった。



「わっ、あわわわわっ!? ち、違いましてよ!? 私、そんな淫乱な女ではなく淑女ですの! ロノス様から求められたなら兎も角、私からそんなはしたない! もうロノス様以外にお嫁に行けませんわ!」


「落ち着いて落ち着いて。うん、言い間違いは誰にもあるし、もう一度、今度はちゃんと言おうか。僕へのお願いって何だい?」


 あーもー、すっかりパニックだよ。僕に軽い誘惑をして反応を試す筈だったのが予想以上に効果的だからって段階を飛ばせば、今度は飛ばし過ぎたって感じなんだ。



「は、はい。是非ロノス様の魔法で海の表面に道を作っていただきたく思いまして。その道の上を渡りたいって事で、ロノス様の上を動くというのは、その……」


「大丈夫。ほら、それならお安いご用だよ」


 肩を軽く叩いて未だにパニック状態の彼女を落ち着かせる。僕が停止させた海の上を動く、を、僕の上で動く、って言い間違えたのか。



「ほ、本当に今の間違えは忘れて下さいませ。私、殿方に跨がって積極的に腰を振る趣味は有りませんの」


 此処で”だったらどんなのが趣味?”って聞いて弄くってみたい衝動を抑える。セクハラ、駄目絶対。まあ、照れている彼女の反応を見ていたいけれど、今はお願いを叶えて空気を変えよう。


「”ストップ”」


 今回は小島まで離れているから詠唱込みで魔法を発動。万が一にでも落ちないようにガードレール付きの黒い道が出現した。……うーん、ちょっと問題があるな。





「きゃあっ! 結構揺れますわね。ロノス様、もう少し捕まっていても良いですわよね?」


 アイス・ホイールが少し跳ね、ネーシャは僕に掴まる。いや、此処まで来るとしがみ付くとかそっちだ。首に手を回して体を押し付けているし、水着だから感触が分かり易いんだよな。足がスベスベで……。


 落ち着け、ロノス。明らかに楽しんでいますって声じゃないか! これも彼女の作戦だから!


 この道だけれど平坦ではない。だって波がある海を停めたんだから。平坦な道を作ったら上にはみ出た部分で道が濡れちゃうからな。氷の車輪じゃ滑っちゃうよ。


「どうも波を停めた場合はこうなっちゃうんだよね。ほら、大丈夫?」


 よく考えれば少し高い道を空気に作れば良かったよ。海の表面に、ってネーシャが言うから。あっ、まさか展開を読んでいて上手く行けばラッキーって感じで? してやられたな……。


今からでも道を変える? いやいや、海の上と先に言いだしたのはネーシャだし、君の選択は間違っていたって突き付けるみたいだからな。それは駄目それは駄目。


 僕がすべき事は彼女のエスコート。うっかり怪我でもさせないように体を支え、あくまで荒れ道を通るのは僕の責任だって態度を変えない。


「……あら」


「……事故だよ、ごめん」


 でも流石にこれだけ揺れたら大変だ。ネーシャ自身もしがみついた状態で動いて体を擦り付けるし、それに跳ねた時の揺れが加われば事故だって起きる。具体的に言うと背中を支えていた手がずれてお尻に向かったり、更にその時に滑った事に慌てていたから咄嗟に掴んでしまったり。


「いえいえ、お気になさらずに。夫婦になれば幾らでも……これ以上ははしたないのでお口を閉じておきますわね」


 幸いなのは彼女が変に騒がない事で、不幸なのは手玉に取られつつあるって事。もう帰りはポチを呼ぼう。どうせ魔法で出した車だし、ポチのv魔法で運べない事も無いからね。


「もう到着だね。……ゆっくり休みたいよ」


 周囲の取り巻きになりたい連中が鬱陶しいから島に向かったのに、その道中で精神をすり減らす事になった僕。しみじみと呟きながら今の所はネーシャに対して劣勢だと感じていた……。








「ええ、ゆっくり致しましょう。……マッサージは如何ですか? 将来の旦那様にして差し上げようと婆やで練習していますの。お肩にします? それとも寝転がったロノス様の上に乗って腰や肩甲骨の間辺りでも? ロノス様、お尻はお好きですか?」


 どっちかと言うとお尻よりお胸の方が好きです。

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