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暑苦しい男

二百話達成です

 アース王国における暗黒期は国の歴史からして少し前だし、短い。貴族の多くが悍ましいと感じ、それでも口を閉じるのは暗黒期を作り上げた女、先代王妃が関わっているのだから。


 夫である王が出先で浮気をした、それによる嫉妬で狂った王妃が行った悪政。取り巻きであった悪徳貴族がそれに追随し、王妃がそうなったのは自分の浮気が原因だとして強く止められない王。まともな貴族は王妃の権力によって力を削がれ、重税や無慈悲不公平な裁判によって多くの血が流れた。


 その王妃が酔って階段から足を滑らせた事で、宴に参加していた皇帝を巻き添えにして死んだ。暗黒期が終わったのはそれからだ。王妃への自責の念から愚行を止められなかった王は目を覚ましたかの様に政策を転換、漸く悪夢が終わったと喜ぶ人々。母を強く慕っていた王子だけは何時までも王妃の味方であり、新しい王妃と比べられた母が侮辱されるのに耐えられず継母の一族や父の浮気相手にさえ怒りを向けるのだが。





「君はロノス・クヴァイル! 君も筋トレに参加しよう。前々から俺は君の筋肉に着目していてな。魅せる為に膨らました筋肉ではなく戦う為に引き締めた良い筋肉をしている! 是非俺の下で更なる飛翔を目指そうじゃないか!」


 この暑苦しい上に喧しい男はそんな暗黒期に王妃を止めようとした一族の一人、ニョル・ルート。ルート家は王妃を諫めようとして粛正された貴族の一つ。”精神が荒れているのは生活が乱れているからで、体を鍛えて健全化を目指そう!”と王妃を連れ出し、屋敷で徹底的に管理をしながら筋トレを強制した。


「いや、デートの途中だから。楽しませるって約束をしたんだし、約束は守るべきだろう?」


 そんな家の暑苦しい男は車の窓を掴むと爽やかな様で暑苦しいだけの笑顔を浮かべて勧誘して来た。流石にネーシャは杖が目に入ったのか誘わないけれど、誰かと行動しているのなら誘わないで欲しい。ネーシャはネーシャでさっさと立ち去りたいのか車輪を凄い勢いで動かすんだけれどビクともせずに砂を舞い上げるだけ。どんな足腰をしているんだ、この男は……。


「うむ! それならば仕方無いな! 俺は何時でも君を待っているし、君の筋肉だって更なる高みに進むのを欲しているだろうからな!」


 一々言葉の一つ一つで叫ぶ彼には悪意も打算も一切無い。彼の身内で王妃を攫った人達も国を憂い王妃に変わって欲しくって筋トレで変われると思っていたのだろうね。……いや、確かに不健全な生活って心身共に悪いんだろうけれど、だからって貴族が王妃を攫って筋トレを強制って。しかも極秘に動いてなかったから直ぐに発覚したんだしさ。


 これが脳みそまで筋肉になった一族か。何と言うか、凄いって言葉しか浮かばないぞ。



 ……因みに王妃の救出後、軍の名門で功績は大きかったから一族郎党処刑で取り潰しは免れたけれど領地の殆どが没収されて監視下で謹慎という名の監禁、領民も大切にされていたから見せしめにかなり酷い目にあったとか。




「……何というか嵐の様な方でしたわね。ルート家の噂は存じていましたが、まさか尾鰭背鰭が付いた状態ではなかったとは」


 彼の姿が見えなくなってからネーシャは呟く。何とも言い難そうな表情だった。


「寧ろ控えめな方だと思うよ。誰もが耳にして思うんだ。”そんな馬鹿な話があってたまるか”ってさ」


「そうですわね。私、割と本気で振り解こうとしていましたのよ? なのに車輪は空回りするばかりで……」


 さっき彼が掴んでいた窓枠は既に直して居るけれど、さっきまで指の形に窪みが出来ていた。軽く叩いて調べた限りじゃ並の金属よりも頑丈だろうにどんな握力をしているんだ?


 ルート家、それはヒューマンながら筋トレによって鬼族に匹敵する筋力を自力で手に入れているという非常識な一族。僕やリアスはモンスターを倒して肉体自体の質を上げるのと筋力を合わせているんだけれど、ルート家の一族は生まれ持った物を信じ抜く事を心情にし、それを何代も重ねて続けていたからか素の力自体が常人を超越している。


 さっきのスクワットも巨大なバーベルを担いでやっていたし、過去に国同士の小競り合いでも先祖が肉体一つで大暴れして一兵卒から貴族にまで成り上がったって歴史を持つ。まあ、超実力派の戦士って事だね。悪人でないのが幸いだけれど、可能なら敵対以前に関わりたくない連中だ。


「あの方、何というか……」


「今回は通じたけれど、基本的に他人の話を聞かないって噂だよ」


 ニョル・ルートと関わった時間は数十秒だけれど、その暑苦しい雰囲気と迫力に疲れてしまった。ネーシャも少しグッタリとした様子で車の速度も下がっているし、そのせいか外からこっちの様子を窺っている連中がチラホラと。


「鬱陶しいですわね。”去れ、下郎”とか言えたら楽ですが、皇女が他国の貴族相手にその様な真似をしたと皇帝陛下が耳にすれば首が飛びかねませんわね」


「え? 矢っ張りそんなに怖いの?」


「ええ、怖いです。お目に掛かった時間は短いですが、その威圧感は凄まじく。……はあ。それにしても視線が気になって。ロノス様ならどんな意思が込められているかお分かりでしょう? 私も実家がそれなりの大きさでしたから幼い頃から浴びていまして」


 ネーシャがうんざりしたって感じに溜め息を吐くけれど、視線の内容が内容だけに賛同しかない。あれは取り入ろうって感じの、此方を成り上がる為の道具にしようって連中が向ける物だ。そんなのが明け透けな時点で三流の証拠、取り込んでも利益は薄い所か損しかない。派閥ってのは何らかの利益の為に作られるんだ。


「いやいや、ヴァティ商会って帝国以外にも販路を広げているんだし、それなりってレベルじゃないと思うよ。……視線については同感かな。素直にログハウスで夜に備えていれば良いのに」


 こうして出歩いてデートしている僕だけれど、友人であるフリートとは遊ぼうとしていない。いや、僕が誘っても文句を言われるだけだね。”夜に起きてなくちゃならないから寝るんだよ! 俺様の睡眠時間を奪うな!”って感じでさ。


 フリートだけじゃなく、ルクスやアンダイン、チェルシーだって浜辺には出て居ない。彼等以外にも半数以上の生徒がログハウスでお昼寝の最中だろう。



「僕達も何処かでゆっくりする? 並んで座ってさ」


「あら、素晴らしいですわね」


 何故ならこの臨海学校は遊ぶ場じゃなく、一応は学校行事の一環。一応今は自由時間になっているけれど夜になればレクリエーションって名前の訓練が待っている。僕やリアスは肩慣らしで食料調達をした後で休む予定だったけれど、今外で遊んでいる連中は分かっているのかな? 傘下の家の出身なら兎も角、今こうして入るのを狙っている連中はどうでも良いけれどさ。


「あの中の数人は先程私達を見捨てて逃げた連中ですわね。どんな言い訳をしてくるか楽しみ……ではありませんし、鬱陶しいので離れましょうか」


「それは良いけれど何処に行く? のんびりしていたら”お飲み物です”とか言いながらやって来られても嫌だけれど……」


「ええ、それならば私に思い当たる場所が……お耳を拝借」


 先程まで肩を寄せ合う程度だった彼女は急に密着して、腕に胸を押し当たる様にしながら耳元で囁く。まるで誘惑するみたいな声色だった。






「来る途中、立ち入り禁止エリアギリギリの所に離れ小島を見付けましたの。彼処ならゆっくりと休めますわ。……二人きりで誰の邪魔も入らない場所で……ふふふ」

応援募集中! 二百話達成したし記念に絵でも発注しようか

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