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叶わぬ夢の果て それとブラコン

 アマーラ帝国皇帝の弟である”アイザック・アマーラ”がゲーム内においてどんな扱いだったかと言うと、”凄く悪かった”としか言えないのを何となくだけれど覚えている。


 先ず、好感度を上げるのは凄く楽で、最初は話し掛けるだけで怯えていたのが数回話すだけで好感度がマイナスからプラスになり、特にイベントをこなさずに最大値まで上がる……のは良いのだけれど、本番は上がってからだ。


 先ず、暗殺に巻き込まれて刺客に襲われたり、潜っているダンジョンの適正レベルよりも強いモンスターに襲われたり、アイザックと主人公の二人だけで強いボスに挑まなくちゃ駄目なのにアイザックはゲーム屈指の弱さだったりと苦労が多い。


 ……っと、此処までが私が覚えているゲーム内のアイザックの情報で、此処から先は諜報部隊の仕事やら普通に入ってくる噂からの情報何だけれど、お兄ちゃんが出来れば関わるなって言うだけの事は有ったわね。


 兄である皇帝は既にアイザックの一個上の娘が居るけれど、その跡継ぎが誕生した喜びで酔っ払った先代の皇帝がメイドを勢いで抱いた結果生まれたのが彼らしい。


 皇帝に仕えるメイドなだけあって当然それなりの家の出身だけれど皇族の側室になれる程でもないし、皇帝には男の子供が生まれないせいで少し面倒な事になっているらしい。

 それも先代が生きている間は良かったのだけれど、アース王国との小競り合いが勃発した理由である先代王妃の死に関わる一件の時に死んじゃっているから……。


 結果、不遇な人生を送った上に元敵国に留学させられ、お供は兄の配下で不祥事を報告する為の見張りであり、何か起きるのを期待されて今こうして一人で行動している。



 って言うか、どうして私に求婚しているのよ!?

 どうにかしてよ、お兄ちゃん!



「あ、あの、それでお返事は……」


 夕暮れ前の人通りが多い中での求婚は大勢の通行人の注目を集めているけれど、目の前の男は気が付いていないのか私をオドオドとした目で見ているだけ。

 今まで交流の機会なんて無かった……筈だし、学園に入って今日で二日目、私に惚れる理由なんて美少女な事程度。


 後は才能に溢れていて家柄も良くて……あれ? 完璧ね、私ったら。


「……失礼ですが急な話ではありませんか? この様な場所でその様な話を持ち込まれてリアス様も混乱しています。今回は一旦お引き取り願えませんか?」


「は、はい! ごごご、ごめんなさ~い!」


 取り敢えずどうやって断ろうと思っていたけれど、私が口を開く前にチェルシーが厳しい口調で要求して、アイザックは一瞬で臆すると慌てて走り去って行く。

 あっ、指輪を落としてるわ。


「……行きましょうか」


「えっと、指輪を拾って届けてあげた方が良くないの?」


「此処は無かった事にすべきですよ。……全く、此方が下手に断れない状況で求婚とは姑息な真似を。いえ、あれはそんな事を考える余裕すら無いみたいですね」


 どうやらアイザックの急な求婚に対して怒っているみたいだけれど何故かしら?

 まあ、チェルシーが言うなら指輪は放置で良いでしょうね。


 去り際、道に落とされた指輪を横目で見たけれど随分と安物に見えた。

 皇帝の弟なのに自由になるお金が少ないのかしら?




「リアス様は彼奴が求婚して来た理由を理解していますか? まさか”私が魅力的で一目惚れしたから”なんて世迷い言は口にしないですよね?」


「と、当然じゃない!? それよりもチェルシーの意見を聞きたいわね!」


 暫く歩いてカフェに入ったのだけれどチェルシーの不機嫌は直らないし、下手な事は言えない空気。

 てか、私に一目惚れしたからじゃないのね、ビックリだわ。


 取り敢えず今は誤魔化して理解したって態度を見せましょう。


「……はぁ」


 あれ? ちゃんと誤魔化せて居るわよね?

 何故か凄く呆れられたのだけど……。


「良いですか? アマーラ帝国ですが、現在一部の反皇帝派がアイザックを担ぎ上げて居るのですよ。このまま皇帝に男児が生まれないのなら次期皇帝はアイザックにして、自分達の傀儡にする腹積もりです。……此処までは理解していますね?」


「……うん」


 そうだったんだ!


「まあ、良いでしょう。結果、余計に目障りになった弟を留学させた皇帝ですが、このままだと殺されるって本人も分かっているのでしょうね。だから後ろ盾になってくれて暗殺されないだけの価値を与えてくれる婚約者が欲しいのですよ。……それで皇帝は抑え込めてもアイザック派の力が増すのを厭う貴族からは暗殺者が送り込まれるでしょうね。それこそ婚約者にも」


「成る程! それでチェルシーは怒ってくれたって訳ね。……あっ。ち、違うのよ!? これは理解していなかった訳じゃなくって……」


 このままじゃチェルシーの中で私への評価が”アホの子”になってしまうと焦って言い訳をするけれど通じた気配はない。

 私が焦る中、チェルシーは再び溜め息を吐いた。


「だから何年の付き合いだと思っているんですか。貴女こそ私の事を理解していないのでは? まあ、それは良いとして、あの様な人前で皇帝の弟の求婚を断れば問題でしょう? だから余計に怒っているのですよ。保身の為にリアス様を利用して危険に晒すだなんて友として許せません。……何を笑っているのですか? 笑い事じゃ無いでしょうに」


「えへへ。ごめんごめん」


 私はチェルシーを友達だって思っているけれど、向こうからこうして友達だって言って貰えるのは本当に嬉しくって、怪訝そうにされるけれど表情が緩むのを止められない。

 だって友達だからって怒ってくれているのだもの、嬉しくない筈が無いわよ。


 ……前世の私にはそれなりに友達が居たけれど、今の私は宰相の孫で大貴族の長女。

 どうしてもクヴァイル家の一員として扱われるし、周りの子供も家の力関係を気にして子分みたいに振る舞うし、乳母姉のレナ以外で気軽に話せる女の子って少ないのよね。


「何時もありがとうね、チェルシー」


「お気になさらずに、リアス様」


 さてと、お兄ちゃんにはどうやって報告するべきかしら?

 他にも色々と抱えているのに苦労掛けたく無いのよね……。




「ご安心を。我らが対処の後に報告致しましょう」


 テーブルの下から僅かに風が吹き、耳元を撫でた時に聞こえた女の子の囁き声。

 ……お兄ちゃんったら心配性ね。


 私に付けていた存在に気が付いて子供扱いされた気分がしたけれど、それでも嬉しい物は嬉しい。


「おや、何か良い事でも?」


「まあね。お兄様は相変わらず優しいし私を愛してるって思ったの」


「今更でしょう。……本当にブラコンですね、この方は」


 ・・・・・・何故か呆れられた。





「あのクズがまたやらかしたらしい」


「せめて大人しくしてくれれば良いものを恥にの上塗りとはな」


 陛下が用意してくれた屋敷に戻った僕の耳に隠そうともしない蔑みの言葉が聞こえて来る。

 ああ、またか。

 もう慣れちゃったよ・・・・・・。



 僕にとって陛下・・・・・・姉上は物心付いた時からの憧れで、その背中だけを追い続けていたんだ。

 誇り高く勇猛果敢にして文武両道、正しく理想の王だった姿に少しでも追い付いて、役に立って、尽くして、何時か認めて貰いたい、それが夢だった。





「陛下は才気溢れる方だというのに弟は残りカスですらない。一欠けらも才能を分け与えられていないな」


 それが叶わない夢で、陛下への侮辱とさえ言われる事だと知ったのは八歳の誕生日に貴族の会話を立ち聞きした時だ。

 僕のは必死に足を踏み出している積もりだったけど実際は足踏みで一歩も近付けていなくて・・・・・・僕は役立たず所か陛下の名前に傷を付けるだけの存在しては駄目な奴だったんだ。


 結果、それから先は褒められる為じゃなくって叱られない為に頑張って、それでも叱られるだけで、更には火種になるからと国を追い出されて・・・・・・彼女を知った。



 リアス・クヴァイル、”聖女の再来”との評判の光の使い手。

 彼女を見た時、感じたのは圧倒的な才能と自信、僕が持っていないものだ。


 羨ましいと思い、妬むより前に憧れた。

 まるで陛下に憧れた時みたいで、気が付いたらなけなしの財産を叩いて買った指輪で求婚していたよ。

 落ち着けば何を馬鹿な真似をって思ったけれど、これは僕の初恋で、新たな夢だ。


 彼女の側に居たい。


 彼女に認めて欲しい。


 彼女が欲しい。


 この夢は諦めたくないんだ・・・・・・。





「万が一にでも受け入れられたら厄介だな。帝国の害になるなら・・・・・・二人には消えて貰う。確か妙な奴が接触して来たな。怪しいが、それ故に切り捨てやすい。確か”ネペンテス商会”だったな」


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