これから
「……こほん。私とした事が取り乱してしまうなんて恥ずかしい。これもお兄様の記憶が戻るのが遅かったせいよ!」
何とか泣き止んだ僕達は躊躇うメイド達を下がらせたんだけれど、リアスが最初に口にしたのが僕への文句だっていうのが何ともらしいって言うか……。
あくまで前世は前世で、価値観や記憶が混じっていても僕はロノスで妹はリアスだ。
多分、そうじゃないと駄目だって思うし、悪ささえしなければリアスがリアスらしいままでいるのは何も問題無いんだ。
ゲームの知識は来る可能性の高い未来程度に考えないと、多分何処か現実感が無い人生を送っちゃうんじゃないかなぁ。
……前世の僕ならこんな考えは出来なかったよね。
「ゴメンね、リアス。でも、お兄様はこれからもお兄ちゃんでもあるから」
泣いてる途中にリアスが教えてくれたんだけれど、前の自分の記憶が戻ったのは死んだ年齢の八歳らしい。
急に前世なんて思い出したせいで家族を失う体験をして、それでもプライドが高いから耐えて何でもない風に装っていたんだ。
「リアス、僕は何があっても味方だから。甘えたい時は甘えて良いし、弱音を吐きたかったら吐いて良いんだよ」
「あら、当然じゃない。お兄様が私の味方じゃないと困るわよ」
「今まで気が付いてあげられなかったからね。ちょっと兄として情けないや」
「何を弱音を吐いてるのよ。私のお兄様なんだからしゃんとしてよ」
確かにゲームでは悪役だったけれど、僕はリアスが賢くて誇り高くて心を許した優しい子だって知っている。
……今みたいに嬉しいのに偉そうにして何でもないみたいに振る舞う辺り、ちょっと素直じゃないけどね
それが甘やかされて、悪い事を悪いと思わない我が儘な子になってしまうのは……いや、されてしまうのは絶対に避けたい。
「まあ、本当に良かったよ。リアスに前世の記憶や価値観が有るならゲームみたいにならないだろうしさ」
「当たり前よ。まあ、甘やかされたらあんな風になるんじゃないかって自分でも思うけれど、客観的に見たら馬鹿じゃないのと思うわ。……多分疑問を抱かない様に誘導されたのでしょうね」
リアスがあんな風に育ったのは甘やかされた結果だけれど、そっちの方が都合が良いからだ。
そんな相手の顔を、来ただろう未来の自分に呆れる僕達は思い浮かべる。
「……お祖父様どうする?」
「今の私達じゃどうにも出来ないけれど、その内何とかしないと駄目ね」
”ゼース・クヴァイル”、今の僕達の祖父であり、僕達の従兄弟である陛下を傀儡にして国を支配する宰相。
一応クヴァイル家の当主で屋敷に部屋だって有るけれど、僕達が生まれる前から城で活動しているし、話をした回数だって記憶の限り数えても両手の指で十分だ。
……先代の国王夫妻は暗殺されて、お祖父様の活躍で暗殺者を送った犯人を捕まえたけれど、僕達は真犯人がお祖父様だってゲームの知識で知っている。
「取り敢えず二つの大きな悩みの片方だね」
「もう片方はどうにかなるのか、それともならないのか分からないけれど……お祖父様は何とかなりそうよね。もう結構な年齢だし、ゲーム通りならロノスの力で……あっ」
慌てて口を塞ぐリアスの顔が青ざめているのは僕の事を思ってだ。
だって、ゲームではお祖父様の命を僕が握っているにも関わらず身内の情もあって逆らえずに従っていたけれど、最終的にはリアスを殺そうとしたから手に掛ける事になった。
「……うん。大丈夫だから気にしないで。ゲームと違って命令通りに動かないから」
ゲームではお祖父様が実の娘さえも孫を傀儡にする為に殺した事も、リアスを騙して大勢を手に掛けた事も知らなかった。
でも、今の僕は違う。
「ゲームとは違うかも知れないし、同じでもやっていない悪事を罰するのは駄目だよ。あの人は確かに悪人だろうけれど、急に居なくなったら国が混乱するしさ」
「……良かったわ。変な事を言って悪かったわね」
僕の言葉にリアスは胸をなで下ろすけれど、伝えていない事が有る。
前世の僕なら躊躇った事も、ロノスだったら躊躇わない。
僕にとってお祖父様は身内であって身内じゃないから、もしもの時は……。
「私達、頑張って良い貴族になりましょうね」
「そうだね。お祖父様が居なくても国が大丈夫な位に優秀な貴族にならないとね」
僕達にはやる事が、やらなくちゃいけない事が多いけれど、僕達兄妹なら絶対に乗り越えられる。
死んで異世界に転生しても離れない兄妹の絆だったら……。
「お姉ちゃんも来ているのかな?」
「きっと来ているわ。だから探すし、向こうも探しやすい様になりましょう。悪役だった私達の名声を響かせて、お姉ちゃんに見付けて貰うの。今は血が繋がっていなくても……あの人は私達のお姉ちゃんだから」
どうして僕達がこの世界に転生したのかは分からないけれど、こうして兄妹が再会出来たんだから、きっとお姉ちゃんとも会える。
根拠は無いけれど、僕達はそれを信じて疑いもしなかった。
「ただいまー! お姉ちゃん、オヤツー!」
少し前の夢を見ている。
スイミングスクールから帰った僕が水着を洗濯機に入れてからリビングに向かえば指定席にしている膝に上に妹を乗せたお姉ちゃんが”魔女の楽園”をやっていた。
「……数の暴力には勝てないわね。まさかソロでのクリアが此処まで……あっ、もう三時? もう負けそうだしレベル上げするから先にホットケーキでも作ろうか」
両親が仕事で家を空ける日が多かったから、僕達の面倒は主にお姉ちゃんが見てくれていた。
この日だってゲームを直ぐに切り上げて僕達の世話をしてくれて、僕達はそんなお姉ちゃんが大好きだったんだ。
「お手伝いしてくれる人は居るかなー?」
「はーい!」
「僕も!」
「二人共良い子ね。じゃあ、早速作ろうか!」
何かをする時は三人一緒が僕達のルールで、そんな日が何時までも続くと思っていたんだ。
ああ、本当に懐かしい……。
「ちょっとお兄様。そろそろ王都に到着するわ」
肩を揺り動かされて目覚めれば隣に座るリアスが少しだけ不機嫌そうだったのは、多分会話の途中で寝てしまったからだろう。
僕達は今、馬車に揺られて旅の目的地に到着する所だった。
馬車の中は広々としていて、テーブルを挟んでフカフカのソファーが有るのにリアスはわざわざ隣に座っている。
この子、もう十六なのに僕限定で甘えん坊だからね。
……そう、僕が前世の記憶を取り戻してから六年が経って、原作の開始が近付いていた。
「あっ! お洒落なカフェあるわ。お兄様、後で行きましょう!」
「先ずは荷物を置いてからね。屋敷の使用人との顔合わせだってあるし」
「そんなの後で良いじゃない。お兄様ったら真面目ね。……はいはい。分かったわよ」
リアスは成長に伴って少し我が儘になったけれど、僕に向ける事が殆どだから多分大丈夫。
金髪をショートボブにして宝石みたいな碧眼を持つ少し気の強そうな美少女になってくれて兄として嬉しいな。
まあ、幾ら美少女だろうと胸は小さかろうと、僕は実の兄だから別に関係無いけどさ。
「……今、余計な事を考えなかったかしら?」
「気のせいだよ。ああ、それとフリートの屋敷が近くだから会いに行く? ……えっと、覚えてるよね?」
この六年間の間に知り合った原作の主要登場人物の名前を出すけれどリアスは首を傾げるし、もしかして忘れちゃったのかな?
「……確か”俺様フラフープ”だったかしら?」
「ネットでのあだ名は忘れようね。この世界、ネットどころかフラフープも無いんだしさ」
宣伝用漫画 取引進んでいます
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