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ブラコンゴリラ=兄想いの聖女

「あっ! 今、お兄様が無自覚に女の子を口説いた気がするわ! 何か変な電波を受信した私には分かる」


「はいはい。あの方なら有り得そうですが、リアス様は世迷い言を口にするのを止めて下さいね。電波って何ですか、電波って……」


 放課後、アリアの件で大勢に放った挑発じみた言葉への注意も終わり、私は待っていてくれたチェルシーと一緒に街中を散策していた。


 クレープの屋台を発見したから買い求め、口元のクリームをチェルシーが拭ってくれていた時に感じた謎の予感に私は思わず叫ぶけれど、チェルシーは慣れた様子で呆れ顔だったわ。


 ……へーこらしてご機嫌取りばっかの連中よりはマシだし、付き合いの長い友達では有るけれど、最近ちょっと厳しい気がする。


「仕方有りませんよ。此処は他国で他の国の貴族だって居るんですから。馬鹿な真似をすれば私が叱られるんですよ? あの闇属性の彼女と関わった一件だって言い訳が大変だったんですから」


「うん、正直ごめん。じゃあ、今後も誤魔化しとかお願いね?」


「……本当に宜しくお願いしますよ?」


 抗議の意志を込めた視線を向けたけれど、向こうから抗議が返って来た。

 それにしてもチェルシーは本当に頼りになるわ。

 多分お兄ちゃんやレナを除けば一番じゃないかしら?


 私が今後の事を頼めば自重を要求せずにジト目で見て来るだけだし……あと数年経ったらフリートに嫁いで私の側から居なくなるのは正直寂しいけれど、本人が幸せなら私は止めようとは思わない。


 ……それはそうとして彼奴は気に入らないけれど。


「それにしても個室で長々と叱られていましたね」


「……もう限界よ」


 長い、あまりにも長いお説教の時間だったわ……。

 あの”人型眼鏡起き器”を含める周囲への挑発行為は如何なものかと怒鳴るでもなく情けなさから泣くでもなく、只ひたすら淡々とした口調で続けられるお説教に私の心は疲弊する。


「まあ、大勢の前ではないんですから長くするのは仕方有りませんよ。あの眼鏡なんて大勢の前で叱られる屈辱に震えていましたし」


「そうだけど……長いお説教には慣れてないのよ。乳母はそんなタイプじゃなかったし……」


「考えるよりも前に手が出る方ですからね。それでも乳母の役割のままなら大人しかったらしいですが……」


「……それはそうとしてチェルシーはアリアの事をどう思ってるのかしら? 付き合うなとは言わないけれど」


 正直これは凄く気になっている事よ。

 関わって三日程度しか経っていないアリアだけれど、それなりに仲良くは慣れていると思う。

 何処か一線を引いている所も、将来的に関わる関係じゃないと思っているのか媚びて自分を売り込もうともしない所も私は気に入っている。


 難しい事は全部お兄ちゃんに任せている、アリアとは付き合いがあった方が都合が良いとは私も理解しているわ。

 でも、チェルシーとアリアのどっちを優先させるかと問われたら……当然チェルシーよ

 だって長い付き合いだし、お世話になっているもの。


「……そうですね。世間一般の評価からして厄介事の種とは思いますが、リアス様達が仲良くしたいのならば私からは何も。……そもそも”光”やら”時”やらのお二人とどれだけ一緒に居ると思っているのですか。今更ですよ、今更」


 私の問い掛けにチェルシーは最初は迷った素振りを見せたけれど、直ぐに達観した顔になる。

 確かに付き合いは長いし、偶に修行に巻き込まれていたけれど流石にその反応は傷付くわね……。


 でも、変に嫌がっていないのなら安心よ。

 付き合い長いから私に気を使って嘘を言ってるって事はないのが分かっているしね。


「あー、良かった。チェルシーが怒って止めるんじゃないかって心配してたのよ。じゃあ、今後も頼むわよ?」


「……少しは抑えて頂けると助かるのですが。しかし、ロノス様が女性を口説いているという件ですがリアス様は嫉妬しないので?」


「え? 何で?」


 チェルシーが質問した事の意味が全く分からず、私は思わず聞き返す。


 確かにお兄ちゃんは女の子に結構モテるし、偶にその気が無いのに口説いているみたいに聞こえる事を平気で口にするのよね。


 えっと、今の所特に印象に残っているのは……。


「あの脳筋女にレキアに後数名に……愛人候補はレナがちょっと怪しいのよね」


 色仕掛けに慣れる為だってお兄ちゃんを誘惑しているし、他にも”自分は道具でしかない”とか口にしているのだって将来的にどうなるか分からないし……。


「嫉妬する理由が分からないわ。確かに構って貰える時間が減るのは寂しいけれど、お兄様の妹は私だけもの。妻とかは生まれ変わったら他人だけど、お兄様は生まれ変わっても私のお兄様なのよ? それにお兄様が選んだ相手なら別に誰でも良いわよ。……脳筋女だけは絶対反対だけれど」


 絶壁の私と違って高峰……なのはどうでも良いとして……良いとして、あの女、二年前にお兄ちゃんを襲ったのだけは絶対に許さないわ!


「聞くだけ無駄でしたね。……”生まれ変わっても”とか凄い事言い出したよ、このブラコンゴリラ」


「だ、誰がゴリラよ! 私は少し力が強いだけの普通の女の子じゃない! お兄様だってそう言ってくれるわ!」


「普通の女の子は蹴りで狼の首をへし折りません。所でブラコンは否定しないのですね。それと失礼、噛みました。兄想いの聖女の間違いです。それはそうとリアス様は何方かめぼしい婚約者候補は見付かりましたか?」


「”国を纏める為に勢力を拡大したが、クヴァイル家があまり強くなり過ぎても次の世代以降で政争の火種になる”って理由から、お祖父様の意向で政略結婚は今の所組まれていないし、お兄様も抑えているからのんびり探すわ」


「要するに今は居ないと」


「そりゃ精力的に探しているのは居るし、私の靴箱にもラブレターが入っていて鬱陶しかったけれど、急ぐ必要が無いなら良いじゃない」


 ……あっ、でも”出来るなら深く関わるな”ってお兄ちゃんに言われてるのは居るのよね。

 確かお家騒動とか政争の真っ直中とかの面倒な連中で、ゲームの攻略ルートでも巻き込まれるって奴。

 一年生にも居るし、アリアには何か理由を付けて関わらない方向に動かしましょうか。

 ……どうやるかはお兄ちゃんに任せよう。



「あ、あの! すいません!」


 そんな風に雑談していた最中、人混みをかき分けて私達に近寄って来る男子生徒の姿があった。

 濃緑色の髪は片目を隠す程に伸び、ヒョロっとした体格の上にオドオドとした態度が余計に弱そうに見える。


「……面倒なのが来ましたね。誰に用……ちっ!」


 私達じゃなくて後ろに居る人に用があると思ったのか振り向くチェルシーだけれどそれらしい人の姿はない。

 表情には出さず相手に聞こえない大きさで舌打ちをするチェルシーだけれど、私としても関わりたくない相手なのよね、お兄ちゃんに言われてるから。


「あ、あの! リアス・クヴァイルさん!」


 矢っ張り私に用が有ったのね。

 目の前で立ち止まったヘタレ男子はゼィゼィと息切れを起こしながら懐を漁り、小さな箱を取り出すと蓋を開いて私に向かって差し出す。

 中にはそんなに値が張りそうにない指輪が入っていた。


「ぼぼぼ、僕と交際を前提に結婚して下さい! 必ず君に幸せにされると……じゃなくて幸せにすると誓いまひゅっ!」


「……逆じゃない? しかも噛んでるし」


 ああ、本格的に面倒な事になったって思ったわ。

 お兄ちゃんからなるべく関わらない方が良いって何度も言われた相手……アイザック・アマーラの突然の求婚を受けた私は嫌な予感がしていた。


 アリアに此奴と関わるなって言う予定だったのに……あれぇ?

 

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