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この世界のドラゴン=ペンギン

爽やかな風が頬を撫で、夏草の香りが鼻に運ばれる。朝の走り込みに夢中になり、気が付けば見覚えのある街の前。国境付近の少し他より警備が厳重な街で、此処を通った時は不安を感じていたのを思い出す。


「あの時は本当に大変だったのよね」


 私達は王妃の甥と姪で入国には何の問題は無かった。ナイア叔母様は少し革新的な制作を推し進めているけれど、国境の街に配属されているのは優秀な騎士達だったし、得に揉めはしないで済んだ。まあ、それは別に良いのよ。あの人に反抗してるのは駄目な貴族が殆どなんだし。



 問題は・・・・・・ポチ。グリフォンってドラゴンに匹敵する危険で強力で狂暴な生物だし、飼い馴らせる方が珍しい。だから手続きに手間取って、お兄ちゃんったら本当に落ち込んでたのよね。これからゲームで描かれた学園生活が始まるって緊張感があったし考える事も多かったから表面上は取り繕って居たんだけれど。


 お兄ちゃんはポチを溺愛しているしポチだって凄く懐いてる。餌は生きた馬や牛だし、手続きが大変なのは解るし、王妃の身内だからこそ厳しく扱えと指示されてから。私の身内って本当に・・・・・・。



「私もペットが欲しいわよね。ドラゴンとか飼いたい。アンリの相棒のタマとかキュートだったし」


 この世界のドラゴンはトカゲの進化系みたいな格好良いのじゃなくってペンギン。野生のと敵対した時にぶん殴った時にフカフカの感触だったし、巨大なのにダイブして寝転がりたい。ポチはポチで良いんだけれど、お兄ちゃんと私に対する態度の差が見て取れるし。私に懐いてくれる子が良いわよ。


「犬とか猫も好きだけれど、私もお兄ちゃんと同様に鳥が一番好きだし。でも、チェルシーさえ”ドラゴンは止めろ”って言うのよね。あんなに可愛いのに分かってくれないし」


 小さい瞳に一見すれば短いけれど実は長い脚も、フッカフカの羽毛も、あの姿の可愛さを殆どの人が”恐ろしい”だの”勇ましい”だの口にする。いや、ゲームではドラゴンって名前のペンギンだったけれど、見た目の感想までペンギンなのにドラゴンって、本当にこの世界ってどうなっているの? 普通に鳥は可愛いって思われてるのにね。うーん、疑問だわ。本当に何で・・・・・・。


「よし! 分からないから終了!」


 思考開始から十秒、私は思考を放棄した。だって私が考えても分からないんだし、感性の理由とかは難しいもの。私は力任せにすればオッケーな事が一番好きだし。


「さて、小腹も減ったから何か食べようかしら。国境側の街ならリュボス料理も・・・・・・うん? 小腹? 国境側?」


 再び考え込む私。非常に嫌な予感がして、流石に考えなくちゃ駄目だと思ってたら理由が分かった。



 今日、臨海学校当日


 今、国境近く


 私、ちょっと汗ばんだ状態。



「やっば! 汗・・・・・・はどうせ海に入るから良いとして、朝ご飯食いそびれる! 今朝は私の大好物のシェフ特製フレンチトーストなのに!」


 こうなったら魔法で強化して一気に帰る。トレーニングの効果が落ちるのは嫌だけれどフレンチトーストが食べられないのも嫌だし、海でトレーニングすれば良いし。まあ、全力で走ればトレーニングになるわね。


「確か臨海学校のイベントボスは鮫みたいな奴だったわよね。戦ったら楽しそう!」


 ゲーム画面では広くて複雑な水没洞窟で何度もボスを追いかけ回してたけれど、お兄ちゃんの魔法で逃走経路を塞いだり壁を拳でぶち破ったりすれば良いから血がたぎって来た。帰り道、遭遇したモンスターを蹴り飛ばしながら突き進む。雑魚だからレベルアップには繋がらないんだけれどね。



「あら? 随分な大所帯が来るじゃない。朝も早くから大変ねぇ」


 その帰り道の事、向こう側から大急ぎで走って来る場所の集団が見えて来た。どの馬車も貴族の家の家紋の旗やら何やらで所属をアピールしているんだけれど、大きい旗に描かれた家紋と馬車の幌の家紋が別々のもチラホラと。


 大きな旗は王家のだったり眼鏡の実家のフルトブラント家のだったりで、そっちより目立たなくした家紋は取り巻きの貴族の家のね、確か。一応覚えていなさいとメイド長に同級生の家について勉強させられたからギリギリ覚えているわ。


「下っ端って大変ね。貴族なのに荷物運びまでしちゃって……」


 面倒な事に今回の臨海学校って現地集合なのよね。前世の学校なら遠足とかで遠出するなら一旦学校に集まってバスなり電車で行くんでしょうけれど。まあ、私って六歳で死んだから近所の公園に徒歩で行った事しか無いんだけれど。


 でも、今は私が帰るのを急ぐ時間帯とはいえ、時間的には未だ早い。じゃあ、何でこんなに慌ただしい集団なのかというと、現地に早めに向かって派閥の上の方や中心の奴等の為の下準備。合宿中は使用人は居られないけれど、合宿が始まる前に出来るだけの準備を整えて、ついでに荷物も運ぶ。後から来た連中は集合時間ギリギリに悠々と到着って訳よ。


「……うん、お祖父様には本当に感謝ね。クヴァイル家は既に絶大な力が有るからってリュボス以外の学校に通うんだけれど、そうでなかったら取り巻きが鬱陶しかったでしょうね」


 っと言っても他の国の貴族と仲良くなれってよりは力を見せつけろって意味が多いんでしょうけれど。


 それはそうとして、今必死になってる連中みたいにご機嫌取りに走る同級生が周囲をチョコマカ動くのを想像しただけで疲れを覚える。確かに身の回りの事は使用人にやって貰っているけれど、名を覚えて貰ったり機嫌を取ろうとしたりとか、事情は分かるけれど魂胆が見え見えの相手ばかり周囲にいるって耐えられそうにないわ。


「……そういうのは聖女の仕事の時だけで十分。派閥の連中みたいのが周りに居るなら色々と態度を変えなくちゃ駄目だろうし」


 お兄ちゃんだって色々頑張ってるんだし、私も聖女の時はそれらしい態度を頑張っている。下手な相手との戦いよりも厄介なのよね、あのお仕事って。ったく、勝手なイメージ押し付けるなってんの!


 正直言って私は演技が苦手で、聖女の役を演じている自分に鳥肌が立ちそうになる。貴族として色々得しているのは分かるるけれど、如何にも”お嬢様”って態度は難しい。


「あっ、”眼鏡が本体”の所の奴ね。あのストーカーの機嫌取らなくちゃ駄目だなんて同情するわ」


 集団に少し遅れるようにして走るのはフルトブラント家の家紋の旗を掲げる馬車。他の馬車より少し小さいし、多分家の力も弱いんでしょうね。今回の臨海学校では野営訓練みたいなのも有るし、上の連中の為の良い場所の争奪戦に遅れたら睨まれるでしょうに。アンダインは兎も角、派閥上位の貴族とかにね。


 その派閥の中心であり、ゲームでは攻略キャラの一人で、本来なら私が付けていた因縁をアリアにふっかけた癖に、その相手に惚れて待ち伏せとかしているストーカー男ことアンダイン。

 この国の価値観じゃ馬車で送る為に待ち伏せするとかは私からすれば気持ち悪いんだけれど、この国じゃ情熱的だの紳士的とか恋愛の常套手段とからしい。


「……嘘だぁ」


 思わず呟く程に実に理解不能な価値観だけれど、お姉ちゃんによると日本の漫画とかも昔はヒロインを待ち伏せとかしていたらしいし、価値観なんてそんなものかしらね? 本人が迷惑だって思ってるからストーカー確定だけれども。


 ざまあ!


 まあ、そんなストーカーだから当然アリアを臨海学校まで送るって申し出るのは読めてたわ。

 断るにしても家の力の差があって、それで仕方無いってしてたらチャンス有るって勘違いされちゃうだろうから私が先に誘ったわ。


 あの子、馬車持ってないから先生の馬車に同乗させて貰う筈だったから、頼みに行くだろうって職員室の前で待ってた眼鏡は爆笑だったけれど。

 何も知らずに待ち惚けてたから思わず指さして笑ったんだけれど、後でチェルシーに怒られちゃったのよね。


「思い込みが激しいけれど変に生真面目だし、下の奴に八つ当たりとかはしないでしょうけれど、落ち込んでいたり私達に逆恨みして不機嫌になってたりしたら下のは怖いでしょうね」


 だからと言って臨海学校中に彼奴とアリアが一緒に行動出来るように協力する気は少しもない。だってアリアはお兄ちゃんが好きなんだし、だったらお兄ちゃんとくっつけば良いんじゃない? 私も友達が近くに居るなら嬉しいし。


「あの子は私の友達だし、ちゃんと守ってあげないとね」


 前世の私も今の私も基本的に守って貰う立場だ。それは別に良いんだけれど、お兄ちゃん達に守られるだけなのもムズムズするし、私だって誰かを守りたい。私を守ってくれる人を守るだけじゃなく、私に一方的に守られるだけの相手でも守れるようになりたいの。


 だって強さってのは弱さを補う為でしょう? だったら当然じゃない。貴族だから守る相手に制限は有るんだけれど、それでもね。



 ……まあ、アリアは急激に成長してるから守られるだけの存在じゃないけれど。




「もし。すこし宜しいかしら? 道を尋ねたいのですが」


 街に入った時、不意に声が掛かる。……あれ? 何処かで見た気がする顔ね。

 




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