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酷い言い草

次で章最後

 私が彼女と出会ったのは……いや、正直に言おう。私が彼女に心奪われたのは七歳の時、従兄弟である二人の所に遊びに行ったのが切っ掛けだ。


「鬼族のメイド? ああ、”武神”レナスの娘か」


 従兄弟ではあるものの領地が離れているからか会う機会の少ない二人、その乳母兄弟だというメイドとは話は聞いていても会うのは初めてだ。まあ、従兄弟と遊ぶのは楽しい。それなりの家であるクローニン家の次期当主である私は周囲の遊び仲間は取り巻きと呼ぶべき者が殆どで、特に家同士の事を考えずに済む相手との遊びは本当に楽しかった。


 二人が二歳下だというのもあっただろうな。私は一人っ子だったから兄弟が居るみたいだったんだ。だから今回は遊び相手にメイド見習いの少女が居ると聞いて少し不満だった。子供心に嫉妬を覚えたのだろう。相手はずっと一緒に暮らしていると聞くし、従兄弟を盗られる気分だったんだ。


「……鬼族は戦闘欲求と性欲が激しい種族と聞く。二人に悪影響が無ければ良いのだが。うん、あの二人は私が守らないとな」


 今思えば何を思い上がった発言をしているのだと思うが、この頃の私は無駄に万能感を持つ子供。自分に根拠の無い自信を持ち、知識だけで相手を判断する愚か者。だが、その思い上がりは直ぐに消え去った。



「貴方様がジョセフ様ですね。私の名はレナ、クヴァイル家に仕えるメイド見習いで御座います」


 お初にお目に掛かります、そんな風に笑みを浮かべながらお辞儀をする彼女は想像の中の粗野で下品な親の七光りの娘とは違い、清楚で真面目で可憐な少女だった。何故か従兄弟二人が笑いを堪えている風に見えたものの気のせいだろうし、心奪われていた私には彼女について以外は殆ど頭に入って来ない。


「レ、レナさん。突然ですが好みはどの様な……?」


「好みですか? 甘い物でしょうか」


 子供の分際で、しかも初対面の相手に向かっての質問の内容としては問題があるが、初恋に突き動かされた私は衝動を押し止める事が出来ず、かと言ってそのままな愚か者では無かった故に我に返って羞恥心に襲われる。これで幻滅されたかと思いきや返ってきたのは少しズレた反応で、けれども表情を見れば全てを察して赦す慈愛に満ちた物。



 この初恋は未だに続いている。従兄弟に会うという口実で向かった先で彼女と過ごせるのは僅かな時間だが、それでも私の人生を彩った。……彼女は英雄であるレナスの娘であるし、地位としては問題無い筈。何時の日か求婚すべく私は己を磨きつつ彼女との絆を結んでいった。


 ああ、会う度に私は彼女の虜になる。レナさん、好きだー!!





「やっほー! 久し振り、って程でもないか。最近は忙しいみたいだったけれど今日は暇なのね、ジョセフ兄様」


「……ああ、久し振りだな」


 そんな初恋の相手との逢瀬の時間は脳天気で騒がしい声によって終わりを告げられた。その忙しさの三割はお前のせいだぞ、リアス。だが相変わらず元気で嬉しい。……はぁ、レナさんとの二人っきりの時間は終わりか。


「あれ? 残念そうね。レナの胸をチラッチラ見ていられないのが残念だった?」


「うわっほっ!? 何を言ってるんだ、馬鹿者っ!」


 此奴、本人の前で何を言うか!? チラッチラ見ていない! チラッと見ただけだ。ぐぬぬ、此奴は本当にとんでもない奴だな!


「えー? 何時もレナと居る時は胸を見ているじゃない。レナだって気が付いてるわよ」


 ……マジか!? 私、そんな分かりやすく胸を見ていたのか!? これは好感度が大幅に下がったのではないかと恐る恐るレナさんを見れば相変わらず美しい笑みを穏やかに浮かべているだけ。嫌悪も軽蔑も一切感じない。


「姫様、あまり悪戯が過ぎるならメイド長に言いつけますよ? ジョセフ様もお年頃の殿方。気にする事でも無いでしょう。寧ろ私が魅力的だと誉めて下さっている気分です」


「レナさん……」


 全てを理解しつつ包み込んで赦す慈愛。貴女は女神か! うん、駄目だ。此処まで美しい方に求婚など私には早過ぎる! 今日は帰って己を磨こう。所で私は何の口実で彼女に会いに来たのだろうか? うーむ、思い出せないが、それなら大した理由ではないのだろう。明日以降の私に丸投げだ。


 レナさんの素敵な所を沢山見られた喜びで心が弾み、何時の間にか鼻歌交じりに私は去って行く。送り迎えの場所が待ってはいたが、今日は歩きたい気分だとばかりにスキップで街に繰り出した。




 この三十分後、犬の糞を踏んだ事によってショックを受けた瞬間に今まで忘れていた疲れが一気に押し寄せるのだが、そんな事は今の私に知る由も無い。更に言うなら私の屋敷とクヴァイル家の屋敷の間は結構な距離がある上に坂道も多い。まさか自分から言い出した手前や受け入れた御者の為にもヘトヘトになって帰る訳にも遅くなる訳にもいかない私。


 結論から言おう。私ってポーカーフェイスの才能が有るのかも知れないぞ。





「ジョセフ兄様って頭は良いけれど何処かアホなのよね」


「姫様にアホと言われたのを知ったらショック死するでしょうから本人の前では言わないように。ですが少し気持ちは分かります。あの方、凄く面白可愛いのですよね。男性としては一切好みでは有りませんが」


 ジョセフ兄様は何というか、昔から打てば響く人で弄くるのが楽しかった。お兄ちゃんより年上だけれど、実年齢以上にお兄さんぶって背伸びして、それでヘマをする面白い人。まあ、遊んでくれたから会うのが楽しみだったわね。最近は口うるさくなったんだけれど。


 てか、何しに来たのかと思いながら話題を振ればレナは被っていた猫を脱いで腹黒い笑みを浮かべる。ほら、漫画とかで眼鏡キャラが浮かべる額から目の辺りが影になってる奴。それにしても勘違いしたのに気が付いてキャラ作りを続けるんだから。ったく、どうなっても知らない……事は絶対にないんだけれど。


「アンタ酷いわね……。あれ? 最初のって一体どんな意味? あれ? レナ?」


 突然周りから音が消え、周囲は途端に真っ暗闇。そして私の服はブッカブカ。うーん、何が起きているのか思ったけれど、よく考えたら誰の仕業なのかは丸分かりなのよね。




「お姉ちゃんったら、私じゃなくってお兄ちゃんの方に行けば良いのに」


「うう、だって襲っちゃったし……」


 振り返れぱ威圧感とかオーラは凄いのに妙に自信の無いテュラ(お姉ちゃん)の姿。あれ? 大きくなってない?


 

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