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不機嫌な女神

「……あー、結構疲れたな」


 フリートの救援から一夜開け、事情聴取を終えた僕とアリアさんは最初にポチを預けた宿に戻っていた。そこそこ値段が張る宿だけあってベッドもフカフカだし(ポチの羽毛には劣る)、個室一つ一つにシャワー室まで完備だから助かるよ。この宿、戦闘になった後で色々とゴタゴタするのを見越して二日分取っていたんだけれど正直言って良い判断だったよ。……アリアさんとは別の部屋にしたのもね。


「彼女も今頃は寝てるのかな。シャワーをちゃんと浴びてさ。……うん、これ以上は止めておこう」


 フリートは僕を通じて関わったから蟠りは殆ど無いんだけれど、基本的に闇属性の彼女は嫌悪の対象だ。事情聴取だって普通の対応がされるとは思わなかったから多少強引に同時聴取して貰ったけれど、フリートの口利きが無ければどれだけ面倒な事態になっていた事やら。


 そんな風に精神的な疲れを感じつつ目蓋を閉じれば思い出すのは連れ込み宿や水浴びの時に見た彼女の姿。戦いの興奮が冷めきってないみたいだね。ちょっとムラって来た。


「屋敷に戻ったら夜鶴に……いや、ちょっと恥ずかしいか、個人的にも人としても」


頼んだら受け入れてくれると思うし、大体最初にそんな関係になったのも二回目も向こうが積極的だったから問題は無いと思うんだけれど、そんな関係だからって平然と頼むのはちょっと倫理的問題が……。


「今の言葉、護衛として来ている分体に聞かれていないよね? 迫られたら拒みきれない気がするし。でも、アリアさんとデートに出掛けた先で他の子に手を出すのは失礼だし」


 色々と考えるも全く事態は解決してくれない。あー、今レナとかアリアさんからの誘惑を受けたら理性が持ちそうにないや。幸いレナは屋敷だし、アリアさんは疲れて部屋の前で眠っちゃったのをベッドまで運んだのは僕だ。


「あっ、フリートのお見舞いにその手の本を差しれようっと。どんなのが良いかは後で決めるとして今は……睡眠欲の解消だ」


 性欲は後回しにして今は泥のように眠りたい。興奮した状態でも目を閉じてあれこれ考えるのを止めていると頭が徐々に働かなくなって行き、多分僕は眠ったのだろう。




「漸く繋がりましたか。さて、仕事は山どころか山脈レベルで積まれていますし、さっさと用件を終わらせるので話を聞きなさい」


 目を覚ました時、何となく夢の中に居るんだって思ったよ。僕が居たのは壁も床も天井も古今東西の時計が埋め込まれた変な部屋。チクタクチクタク五月蠅いし、足元から鳩時計の鳥が飛び出していて鬱陶しい。何処かの神殿っぽいけれど、こんな場所を用意したのはどんな変人だろう?


「誰が変人ですか、誰が。イメージ商売なのでそれっぽいのを用意しただけですよ。ああ、でも確かに鬱陶しい」


 この時の僕は既に今自分が夢の中だと分かっていて、更には自然に心を読んで来た相手が呼び出したのだとも分かる。銀髪で中性的な男装の麗人。アンリは何とか性別を誤魔化して居るけれど目の前の彼女は男装と言っても燕尾服を着ているだけで男装としては微妙なライン。ビール腹でハゲた中年男性がスカートを穿いた程度の女装と同レベル。


「……私が何者か分かりますね?」


 あっ、またしても心を読まれたのか睨んで来たよ。この場所に来た時点で僕への不満を感じる態度だったし、初対面の好感度はイマイチだ。向こうだって僕への好感度は低いみたいだけれどね。


 そんな彼女は不満そうにしながら問い掛ける。面倒だからさっさと答えろって感じだし、正直に答えるか。……はぁ。夢の中でも休めないなんてさ。


「あっ、いえ……全然知りません」


 そう、僕は彼女を知らない。何時か何処かで見た気がするんだけれど、こんな感じの悪い相手なら印象に残るだろうし……そもそも人間じゃないからね。


 身長は僕より下なのに巨人でも目の前に居るかのような存在感。立っているのに玉座で悠々と君臨して居るみたいな風格。僕の知る中で最も威厳と圧力を見る者に与えるのはお祖父様だけれど、目の前の彼女はそれ以上。


 だから自然と敬語になるし、何となくどんな存在かは察したので跪いた。不満そうに鼻を鳴らされたけれどさ。相手が誰かは依然分からないけれど、相手が何かは分かる。



 神、絶対なる存在。それが僕の目の前に居た。


「余計な世辞も祈りの言葉も不要よ。時間が勿体ない。あの馬鹿……ではなく、あの御方が行った無茶な尻拭いの尻拭いの為に私は来たわ。流石に次は有り得ないし、適当だった恩恵を手直ししてお別れよ」


 神だとは分かったけれど、それ以外は全く分からない。ああ、でも一方的に用件を告げて話を進めるのは神らしいのかも。あくまでも僕のイメージだけれど、神様ってそんな感じだろう。


「ん? ああ、いや、違うな。これだけヒントが有るし……時を司る女神のクノロ様か」


「やっと分かったの、遅いわね。自分の属性を司る神に興味が無いの?」


 呆れ顔に呆れ声。出会って速攻で分からなかったのが気に入らないらしい彼女はポケットから取り出した懐中時計を僕に向かって乱雑に放り投げ、当たったかと思ったら体の中に吸い込まれる。僕の中で何かが変わった気がした。



「はい、終了。……ああ、最後に一つ、この言葉は忘れてしまうけれど聞きなさい。時間の無駄だと思ったら神罰を与えるわ。……貴方の所のメイド長には敬意を払う事。これを命じます」


 それだけ告げると目の前からは誰も居なくなり、同時に周囲も闇に包まれる。僕の意識もまた強烈な眠気によって閉ざされて行った。



 ……にしても女神様に敬意を払う事を指示されるメイド長って一体? まさか神様……な訳が無いか。なんで神様がメイドやってるんだって話だし、多分巫女とか司祭とか気に掛けていた信者の末裔だな、きっと。



「本人なら何か知って……あっ、忘れるんだった……」


 いや、忘れるなら何でわざわざ? 神様の考えって理解不能だね。それが神様なんだろうけどさ……。





「変な夢を見たって訳じゃなさそうだね。確かに体の中に変な力が漲るのを感じるし、あの夢は実際に神からの接触があったって事なんだろうけれどさ」


 目を覚ました途端に覚える強烈な違和感。僕に宿る時属性の力が変化した、それを感じていたんだけれど、例えるならば魔力という燃料を使って魔法を発動するエンジンの燃費が大幅に向上、より複雑で大きな力の行使が可能になったって所かな? 創作物に有りがちな唐突な強化イベントだけれど、その発生条件……あの時の女神が僕に力を与えた理由がさっぱりだ。


 リアスやアリアさんが強くなっているし、それを粛正する役割を僕が持っているから? 


「いや、違うな。うん、多分違う気がするし、そんなので力を与えられても従う気は皆無だけれど。うーん、少し気になる事を言っていたな。”尻拭いの尻拭い”とか、内容は忘れたけれど最後に告げられた何らかの言葉とか。なんか僕が嫌いみたいな態度だったけれど、何でだろう? ちょっと最近エロい方に思考が向かってるから? 唯一の時属性だから時の女神には全部筒抜けだとか? ちょっと迷惑な話だけれど……」


 何にせよ力を得たのは間違い無く、その理由は推測しか出来ない。ああ、力も朧気に可能になった事が分かるけれど、安定して使うには試行錯誤と反復練習が必要そうだ。まあ、それはそうとして……。



「急激なパワーアップとかお祖父様にどうやって説明しよう? 嘘は見抜かれるだろうし、でも”神様が力をくれました。多分妹や友達を殺すためです”とか正直に言うのもなあ……」


「ロノスさーん。起きてますかー?」


 思い悩んでいるとノックの音と共にアリアさんの元気な声が聞こえて来る。何か凄く上機嫌で、普段は明るい態度は演技なのに今は本当も混じっている。何故かは分かるけれどね。




「はいはい。起きてるよ」


 待たせるのも悪いからと鍵を開ければドアが開いて笑顔のアリアさんが飛び込んで来た。ただ、慌てていたから躓いて転びそうになったんだけれど。慌てて受け止めれば正面からハグする体勢に。



 あー、狙ってやったな。まあ、良いんだけれどさ。胸が押し当てられているし……。





「アリアさん、お早う。今日はデートの続きでもする?」


「え? どうして私がしたかった事が分かったんですか!?」


 可愛いなあ、アリアさんって。本気で驚いているよ。



応援待っています 最近終わった短編も

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