不意打ち
短編完結しました 宜しくお願いします
「見えて来たよ。如何にもってのがねっ!」
フリートの独特の臭さ……もとい匂いを手掛かりにポチが向かった広野の向こうに発見した天井部分と外壁の一部に穴の開いた大地のドーム。さて、彼処に何かがあるかは間違い無いんだけれど、フリートが戦っている以外の事はさっぱりだし、これであのドームはフリート側の作戦とかだったら……。
ゲームではあんな物を作り出した場面無かったし、せめて有ったなら同じ事を誰が出来るとかの参考になったんだけれど……どうしようか、本当に。
「ポチ! あの中からどんな連中の臭いがする?」
「キューイキュイイイ」
「え? ”近寄りがたい臭さのフリートと、人間以外のが三つで、その内の一つはお馬鹿のリアスと戦ったらしい奴の残り香に似ている”だって? そうか、これは躊躇しちゃ駄目だな。どの道、脱出口は開いてるし。にしてもポチ、ちょっと口が悪いよ。めっ!」
ポチの速度からして突入まで数十秒、迷っている暇は無い。今の僕達は説明を省く為に変装していないし、どの道、時と闇だ。変装が変装の意味をなさない。
「アリアさん、分かっているね? 僕達はサーカスに来たついでの空中散歩の途中で遭遇しただけだから」
「は、はい! 巻き込まれただけですし、私達は積極的にレイム家の問題に介入した訳じゃない、そうですよね?」
「流石はアリアさん。……あっ、こんなので誉めるとか馬鹿にしている訳じゃないよ?」
そんな風にお喋りしている間にもポチは空中を突き進みドームへと迫る。穴から内部を見れば足に炎の蛇が絡み付いたフリートに向かって岩の武器が殺到している光景だった。あれを受ければフリートが確実に死ぬと感じた時、既に僕は魔法を発動していた。
「”マジックキャンセル”!」
こんな時に声を出すのは此方に意識を向けさせる為。援軍が来たなら先に弱っている方を片付けるのが定石。なら、少しでもその判断を送らせる。今の僕達はドーム内部に進入したばかりで敵らしい連中とは少しだけ距離がある。声で存在アピールしても一秒しか稼げないだろうね。でも、一秒稼げれば十分だ。そうすれば……。
「ポチ! アリアさん、ゴメンね!」
そうすれば、ポチが間に合わせてくれる! 僕がアリアさんを抱いて背中から飛び降りた。フリートに向かって飛んでいた岩の武器は来た方向へと戻り、そのまま大地へと帰る。僕はアリアさんを抱えたままフリートと神獣らしい牛柄ビキニアーマーの間に降り立ち、ポチは残った二人と僕達の間に割り込んでうなり声で威嚇する。さて、あっちの痴女一号は神獣将ラドゥーンか。リアスから貰った情報通りの相手だね。
服装だけでなく感じる力も話の通り。普通の人間なんて大熊猫と蟻位の差が在る程に巨大な力が内包されているんだけれど、どうも僕が先に会っている二人に比べれば歴然とした差がある。……うん、このパターンはあれだよね。落ちこぼれだとかの判断は安易過ぎるし……。
「やあ、フリート。僕達、サーカスに来た後でポチに乗って散歩していたんだけれど、どうやらピンチみたいだね? これは見捨てたら問題だと思うんだけれど、どうする?」
「はっ! 俺様の返答前に介入してるんじゃねぇかよ。それにサーカスは未だ終わっちゃねぇだろ。あれ、夜通しやるので有名なんだぞ」
え? そうなの? おっと、口に出す所だったな。どうせ途中で抜け出すからって下調べが足りなかったよ。フリートから知らされた情報に感じた動揺を隠しつつ僕は言い訳を考える。って、面白くなかったから抜け出した、とかで良いよね? 本当の事だしさ。
「どうせ途中で何処かに行ってたんだろ。連れ込み宿にでも行ってヤってたのかよ。……っと、この冗談は下品だな。チェルシーには言うなよ?」
「えぇっ!? どうして分かったんですか!?」
「アリアさんっ!?」
ちょっと何正直に言ってるのさ!? あっ、未だに動揺が残ってたのか、彼女。だから占いの通りにしたからと言えど実際に行ったのを言い当てられて口が滑ったって所か。……そうだよね? 彼女、結構腹が黒いから外堀を埋める為とかじゃ……ないよね?
「おいおい、マジかよ。クヴァイル家の次期当主がルメス家の長女を連れ込み宿にねぇ」
「フリート、君、まさか……」
もう結構なダメージを受けているし魔力だって尽きてそうな様子なのにフリートはフラフラしながらも臨戦態勢を取りつつ僕の方を見てニヤニヤと笑う。これ、何か理由があっての事だって分かってるな。
「……あくまでも普通のデートだよ。口止め料として個人間の貸し借りは無しだ」
「流石は親友! 話が早くて助かるぜ」
元から個人間の貸し借りを言及する気なんて無かったけれど、これで絶対に口に出せなくなった。フリートだって僕が何か要求する気が無いのは分かってるだろうに、アリアさんの失言を使って僕を弄くる気だな。
「それで戦えるの? 随分と消耗しているみたいだけれどさ。あの三人程度に。僕が戦おうか? ポチもアリアさんも居るし、楽勝だと思うよ。君が戦うのと違ってさ」
「まあ、俺様が大分追い詰めたしな。弱った連中の後始末程度は譲ってやるよ。俺一人でも超楽勝なんだが、そっちは三対三でなら戦えるんだっけ?」
「「はっはっはっはっはっはっ」」
ちょっとムカッとしたので脇腹を小突きながら嫌みを言えば足を踏みながら返して来る。うわっ、言うね。
「えっと、あの露出狂みたいな方が怒ってますよ? 良いんですか?」
「ああ、あのビキニ女の褐色の方はミノタウロスって名前らしいが怒っても別に良いだろ。俺様なら三人纏めて指先で勝てる相手だし、ロノスが言うには二人と一匹で挑む気らしいしよ。じゃあ、お手並み拝見だ。俺様は座って見学させて貰うぜ」
そんな事を言って崩れるように座り込むフリート。強がってはいるけれど肩で息をしているし意地で意識を保ってるって状態みたいだ。……腹が立つなあ。僕の友達を此処まで追い詰めるだなんてさ。
「ラドゥーン様、彼奴の相手は私にお任せを。二度と大きな口を叩けなくして……」
「らぁっ!」
目の前で敵じゃなく味方に意識を向けるだなんて侮ったな。意識を外した瞬間に魔法で加速させた僕の膝蹴りがミノタウロスの顔面に叩き込まれる。岩でも蹴ったみたいな感触と共に鼻の骨を潰したのが伝わり、着地と同時に鳩尾に拳を放った。
「うわっ。重っ!」
またしても岩でも殴ったみたいな感触で、重量は巨岩だ。足が地面から離れたけれど予想に反してそんなに飛んで行かない。接近戦が得意なタイプか。内臓幾つかとアバラ数本は貰ったし深追いは無しだ。ああ、それに必要も無いし。
僕がこれ以上の追撃を止めた時、鼻血を流しながらも鬼のような形相でミノタウロスが睨み付けて来た。
鼻血のせいで全然迫力無いけれどね。
「貴様っ!」
「……パフォメット、一旦帰るっすよ。もう計画は失敗っすからね」
ダメージはあっても闘志は更に燃え上がるミノタウロス。でも、ラドゥーンはそんな彼女の姿を冷めた眼差しで見詰め、無感情に呟くとパフォメットって呼んだ黒山羊頭の神獣の肩を掴んで転移して消える。その光景にミノタウロスは絶句した様子を一瞬見せ、続いて激怒へと変わった。
「あの女っ! 私が既に負けたみたいに扱ったのか!」
「いや、もう終わりだよ」
ラドゥーンは気が付いていたみたいだね。魔力をギリギリまで抑える事で発動を遅らせてまで気が付きにくくしてたのに。それが将とされる者の実力なのか、アリアさんに注目していたのか。多分後者だろうな。
「”シャドーランス”」
目の前の敵にばかり注目していたミノタウロスの体を周囲の影から伸びた槍が空中で貫き、内部で枝分かれして飛び出る。まるで昆虫標本みたいになったミノタウロスは断末魔の叫びも上げず痙攣する間も無く絶命し、その肉体は霧散して消え失せる。
「あっ」
それと同時に崩壊を始める岩のドーム。ああ、矢っ張りこれって彼奴の魔法で形成してたんだ。だから死んだ途端に維持されないと。
崩れ落ち降り注ぐ岩石。でもアリアさん達は一切慌てる事もなく逃げ出そうともしない。さて、期待に応えて全部防ごうか。落ちて来る岩の時間を急速に進めて風化させる。もはや砂粒同然になった物を風の時間を操って飛ばし終えた時、遠くから向かって来る集団が見えた。
「やれやれ、漸く俺様を助けに来たか。まあ、俺様なら一人でも大逆転勝利は間違い無かったけれどな」
「うん、そうだね。僕だったら楽勝過ぎて”逆転”って言える状況には陥らなかったと思うけれどね」
全く口の減らない奴だなあ。ボロボロの癖に減らず口を叩く友人に手を貸して起こしてやる。次期当主が座り込んでお出迎えじゃ格好悪いからね。
「……助かったな、二人共」
顔を見もせずフリートは呟く。全く相変わらずだよね、君はさ……。
「あっ、お礼はポチにも言って。君の独特に臭い……じゃなくて、君の匂いを頼りに此処まで来たんだしさ」
「相変わらずだな、テメェはよ……」
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