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魔女の気持ちと俺様フラフープの体臭

短編書いてて遅くなりました

 プルートの予言の内容で連れ込み宿まで来た僕とアリアさんだけれど、まさかのハプニングでとっても気まずい空気になった時、タイミングを見計らっていたみたいに下を通り過ぎて行くレイム家の家臣達。会話の内容からしてフリートの身に何かあったのは間違い無い。


 そうと決まれば迷い無し。懐から取り出した笛を吹き、待つ事数秒、ポチがこっちに向かって飛んで来るのを視認した僕は窓から飛び降りる。アリアさんには悪いけれど待っていて貰おう。いや、最初は戦力として連れて行くって了承を得たけれど、流石にあんな事が起きたばかりだと気まずくって連携が取れそうにないし……。


 まあ、要するに僕は彼女を振り回しっぱなしって事で、その内埋め合わせが必要だな。どんどん借りが増えて行く事に悩みつつも落下する僕をポチは背中で受け止めて、アリアさんが身を乗り出した窓の高さまで飛び上がった。


「キュイ?」


「いや、彼女は良いよ。アリアさん、さっきみたいな事が起きたばかりだし、僕と一緒に居ると恥ずかしいよね? それじゃあ戦うに連れて行くのは危険だし、此処か元の宿屋で待っていてっ! 行くよ、ポチ!」


 彼女の返事を聞かないで置き去りにするのは酷い行為だけれど実際の話として動揺した状態の上に戦闘経験の少ない彼女を神獣との戦いに連れて行くのは論外だ。いや、本当にごめんよ。この償いはちゃんとするからさ。


「じゃあポチ、フリートの所に急いでくれ!」


 ……あ~、そういえばデートの途中で巻き込まれたって口実で向かう筈だったのに、僕一人で巻き込まれた時の口実はどうしようかな? デート中に二人っきりになるのは気まずい空気になったから? あっ、ヤッバ。それだとルメス家の長女がクヴァイル家の長男に嫌な思いをさせたって判断する連中が出て……。


「何だっ!?」


「キュイ!?」


 背後から感じる禍々しい圧力。ポチも一瞬身を竦ませて羽毛を逆立てる。ほら、落ち着いて。僕が何とかするから落ち着くんでちゅよ~。


「待って下さ~い。私も行きまーす!」


 ポチの首筋を撫でつつ警戒しながら振り向くと、炎みたいに揺らめく翼を広げて僕達を追い掛けて来るアリアさんの姿があった。リアスが使う”エンジェルフェザー”は本人同様に可愛らしい金色の天使の翼だけれど、アリアさんのは漆黒の翼。感じる力はちょっと禍々しいから僕やポチも警戒したんだけれど、実際に見ると違う。


「アリアさん、凄く綺麗だね」


 そう、その翼は妖しい美しさを持っていたんだ。


「き、綺麗!? ……あれ? 翼が……ひゃっ!?」


 だから思わず口から出た言葉なんだけれど、アリアさんったら耳まで真っ赤になって、魔法の制御まで乱してしまったのか翼が片方消える。本人は慌てて羽ばたくんだけれど、それで飛べる筈はないよね。


「ポチ!」


 当然の様に落下して行く彼女の真下にポチを回り込ませて受け止めるけれど、無理な体勢で受け止めたからバランスが悪い。アリアさんも慌てた様子で僕にしがみついた。もー、飛行魔法は制御が難しいんだし、創ったばかりの魔法なら低空飛行で慣れるのが基本なのにさ。


「危なかった。アリアさん、新しい魔法はちゃんと練習をしてから使わないと危ないパターンがあるんだからさ」


「ご、ごめんなさい。ロノスさんに置いて行かれそうになったから慌てちゃって。でも、こうやって受け止めて貰ったのはラッキーでした」


「……はぁ」


 落ちそうだからとしがみついていたと思ったら嬉しそうに密着して来るし、さっきハプニングで裸で抱き付いて来た時の反応とは全く別物だね、この子。なんか変に心配して損した気分だよ。ああ、でも……。


「僕に見捨てられると思ったのかい? 協力を頼んでおいて、いざ戦いに行くとなったら置き去りにしたから……」


「……はい。少し怖くて、それでつい……」


 嬉しそうな顔から一転して不安そうな顔になる彼女を見ていると良心が痛む。ああ、そうだ。彼女にとって僕は数少ない味方の一人で、他の味方も僕が接点となっている。さっきの飛行魔法の失敗だって基本を教えてくれる人が周囲に居ればこんな事にはならなかった筈だ。


 明るく振る舞って居るけれど内面は何も周囲に期待していなかったアリアさん。そんな彼女と友達になって、異性としての好意を向けられて、そんな僕は彼女を振り回している。結局、さっきの事だって自分が気まずいから置き去りにしたんじゃないのか?


 気が付けば僕は不安そうに震えている彼女を抱き締めていた。


「ごめんね、アリアさん。恥ずかしくって君を置き去りにしちゃったよ。でも、それが君を不安にさせたなら謝るべきだ。最低な事をした僕だけれど、今からでも力を貸して欲しい。僕の友達を助けるのに力を貸して欲しい」


「勿論です。私、大好きな貴方の為に張り切っちゃいますね。でも、その前に……」


 そっと彼女の手が僕の両頬に触れ、あの時と同じく唇が重ねられる。唇をこじ開け一瞬だけ入って来た舌は直ぐに引っ込められて、アリアさんは恥ずかしそうにしながら僕の胸元に顔を埋めた。


 これで彼女からキスをされるのは二回目。此処まで来たら彼女の想いに向き合わなくちゃ駄目だよね。


「えっとね、アリアさん。未だ伝えるべきか迷っていた事だし、これから情勢次第でどうなるかは分からないけれど、実はパンドラが選んだ側室候補の中に君の名前もあってさ……」


 これは本当に言うべきか迷っていた事だ。確かに彼女は可愛いし、異性として意識しているし、貴族の婚姻が当人達の恋心だけで決定される事じゃないって分かっている、分かってはいるんだけれど、未だ自分が彼女を妻に迎え入れたいと思っているのかは分からない。どうしても認識が友達なんだ。何だかんだ言っても出会って数ヶ月だし……。


 だから言い淀む僕だけれど、その唇を彼女の人差し指指が防ぎ、僕の唇に触れた部分を自らの唇に当てた彼女は笑顔を浮かべながら言った。


「ええ、分かっています。ずっと一緒に居られるかも知れない資格を貰えたのなら全力で挑みます。……私は貴方が好きで、それ以外の誰も考えられない。だから私は貴方に妻にしたいと思われる努力をするだけだ。だから……覚悟しておいて下さいね?」


 言葉の途中で素の自分を見せて来た彼女は最後には何時もの笑顔溢れる顔に戻る。端から見れば驚いたり滑稽だったり奇異に映るだろうけれど、僕の目には今までのどの彼女よりも魅力的に見えた。



「あれ? ロノスさん?」


 思わずボーッとしていた僕の顔をのぞき込む彼女にドキッとさせられる。またキスされると思ったよ。


「……ごめん、君に見取れていた。じゃあ、この姿勢は危ないし、何処かに一旦降りて僕の背後に回って。……アリアさん?」


 あっ、今度はアリアさんがボーッとしちゃった。こんな事している場合じゃないし、急がないといけないのにさ。ごめんよ、フリート。君は”要らない”と言いそうな助けに向かう途中で女の子とイチャイチャしちゃってて……。



「じゃあ、今度こそ頼んだよ、ポチ。最高速度最短距離でお願い。フリートの匂いは分かるよね?」


「キュイ!」


「こらこら、そんな言い方しない。じゃあ、これから帰ったら好きなだけポチの空中散歩に付き合うからさ」


「キューイ!」


 気を取り直してポチに乗り直し、背中に抱きつく彼女の存在を感じながらポチに指示を出す。さあ! さっさと助けに行こう!







「今、ポチちゃんが何を言ったから注意したんですか?」


「あっ、うん。フリートって独特に臭いから場所が分かるってさ。独特に臭いって、どんな風に臭いんだろう……」


 本人には聞かせない方が良いよね、これは……。



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