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彼女にとって……

 ……私が育った領地には頭が悪かったり性格が悪い連中はそれなりに居た。普通に考えて具体的な理由も知らずに持って生まれた魔法の属性だけで実の孫娘に死ぬ危険のある仕事を平気で押し付けたりする祖父母、一応は当主の直系なのに堂々と蔑む領民達。


 まあ、それが常識だとされているのだから少しは理解してやろう。納得はしないし、絶対にしてやる気はないが。だって私は本人だ。常識だからって理由で迫害を受け入れてやるものか。


「うわぁ……」


「変態ですね……」


 そんな私の人生だけれど、学園に入ってから随分と個性的な人に出会えています。一人称が”俺様”な人とか、名門中の名門で聖女って呼ばれているのに実際は戦闘好きなゴリラとか、ペットや妹を溺愛しているのに他はマトモで素敵な方とか、後は鬱陶しい眼鏡とかマザコン王子とかその他。


 でも、あんな奇抜な服装で堂々と出歩く人は生まれて初めて見た。ドラゴンの帽子は……男の子なら別に良いし、まだマトモな方だろう。趣味は人それぞれだし、子供っぽい服装でもそんなに驚かない。別に筋骨隆々の人がフリフリのピンクの服を着て町中を歩いている訳じゃないのだから。


「ねぇねぇ。お姉さん、一晩幾ら? 今からでも遊んで貰える?」


「……は? アンタ、初対面のレディに何を言ってるんっすか? 常識無いっすね。ったく、ウサギと人間は年中発情期なんだから。女を見たら抱く事しか考えられないとか……はぁ」


 真昼間の飴屋でお客相手に売春の交渉を仕掛けるという非常識な男。もう酔っ払っているのかお酒臭いし足取りもフラッフラ、サーカスが来ていてお祭り騒ぎだからって随分とご機嫌だ。……仕事は休みなのだろうか?


「あれは間違えますよね、絶対に」


 本人に聞かれたら悪いから小声で話すのですが、普通に考えて街中でコートの下は水着だけって普通に考えてその手の職業の人だ。まあ、今はお仕事の時間じゃないのだろうが、声を掛けられても仕方無いのでは?


 本人は真っ当な格好なのに馬鹿に声を掛けられたって迷惑そうな顔で随分と不機嫌なんだけれど、自業自得だ。私だってその手の人だと思うし、誰だって思うだろう。


「……あれ? あの人の髪って……金…髪…?」


 そう、あの露出狂の髪の色は金、光属性であるリアスさんと同じ。何割かの確率で属性と髪の色は関係しているから十歳になれば行う属性判断前に大体の属性は予想されるし、だから私も幼い頃から虐げられたのだけれど、あの人はもしかして……。


 そう言えばロノスさんが露骨に顔を逸らしているし、もしかして……。


「あの、彼女って……」


「……神獣。正確には神獣将。この前、リアス達が戦った相手」


「え……」


 まさかの発言に我が耳を疑う。あれが? え? ”巻き込むから”と読ませて貰った古文書の一部の翻訳に乗っていた人類の脅威。あの決闘騒ぎの時に乱入して来た怪物達を率いる存在。


「……ごめんね。三人中二人があまりにもあれな物だから言い出せなくってさ。それで今戦いになっても被害が大きくなるし、向こうも騒ぐつもりは無いみたいだから今は放置しようか」


 あの酔っ払いも相手がその手のお仕事をしているのじゃないと分かってか、散々言われても逆上する様子も無い。それにしても金髪なのに反応しないのは驚いたけれど、私みたいにリアスと知り合いじゃないのなら偶然似た色になっただけとでも思ったのだろうか? 金色っぽい色に生まれ、光属性だと期待されて実際は違ったってケースは実際に在るし。


「じゃあ、気付いて襲って来る前に……」


 相手がリンゴ味を諦め、違う味を何にするのかに夢中になっている間に私はロノスさんと共に席を立つ。折角のんびりとしていたのが台無しだが、あの痴女と一悶着あった場合は即刻デート中止になるのだから我慢だ。


 ……気が付いていない隙を狙って最高火力を叩き込むのは駄目なのだろうか? 世界の為だし、お店が多少壊れても構わないと思うけれど、ロノスさんが戦闘回避を選ぶのなら従おう。周りの被害を考えない野蛮な女だと思われたくはない、



「なあ、ちょっと待ってくれ」


「……何ですか? 今、恋人とのデートの最中なのですが」


 そんな風に葛藤しながらも店を出てデートの続きを楽しむ筈が、あの酔っ払いによって取り直したばかりの気分が台無しになる。初対面にも関わらず腕を掴もうとしたのをヒラッと回避、そのままロノスさんの腕に抱きつきながら背中に隠れる。こっちは迷惑だって感情を隠す気は無いのに向こうは気にした様子を見せず、胸や腰の辺りを無遠慮にジロジロ見て来た。


「そんな事言わずによ…ヒック! 俺と一緒に遊ぼうぜ。さっきカジノで一山儲けたから良い気分だってのに、エロい格好している癖にお高く止まった女が俺には買われないって言うんだよ…ヒック! 嬢ちゃんはあんなまな板と違って立派な体だし、ちょいと遊んでくれよ」


 下心を隠す様子もなく目の前の酔っぱらいは私に手を伸ばす。男連れなのも気にしないのか。私は恋人と一緒だと言った筈だ。……うん、勢いで言ってしまった。


「嫌です。向こうに行って下さい」


「まあ、そんな事言わずによ。俺も嬢ちゃんも気持ち良くなれる事だぜ? 金ならたんまり有るんだから……」


 まだ逆上しないだけ初対面で因縁付けた癖に今度は露骨に好意を向けてくる恥知らず眼鏡よりはマシだけれど不愉快なのには変わりない。話を聞かずに伸ばして来た手が向かうのは胸の辺り。触って良いのはロノスさんだけなのに不愉快だ。ちょっと痛い目に……。


「止めて貰える? 彼女は僕の恋人だ。……要するに触るなって事だ」


 無言で軽めの魔法を叩き込んでやろうかと思ったけれど、実行に移さずにいて良かった。まあ、流石にこのような人混みで闇属性を放てば大騒ぎになるし、益々”魔女”の悪名が広まってしまうだろう。だが、そんな事は特に重要ではない。だってロノスさんが私を庇ってくれた上に、恋人って……。


 この場限りの言葉だとしても胸の中が熱くなる。男の手を払った時の音が結婚式の鐘の音にさえ思えたけれど、こんな酔っぱらいの手を叩いた音なんて結婚式で聞きたくないか。



 ……ああ、駄目だ。ロノスさんと一緒に居ると何時もの私ではなくなってしまう。いや、駄目なのだろうか? よく…分からない。



「じゃあ、僕達は先に進むから。行こうか」


 ロノスさんは私の手を取り、酔っ払いを置き去りにしてこの場を後にする。曲がり角に進む時、あの痴女みたいな人類の敵が店から出て来るのが見えた。


「材料も残っていないって。超アンラッキーっすよ。あの馬鹿に秘蔵のお菓子を全部取られたし……」


 肩を落とし大きく溜め息を吐きながらトボトボと歩いている。どうやら私達には気が付いて居ないらしく、観察してたら気が付かれそうだしロノスさんが先に進みたそうだったので何処に行ったのかは分からないけれど、あんな存在を放置して良いのだろうか?


「それにしてもあの酔っぱらった人は言動の割に意外と大人しかったですね嫌いな人ですが、あの眼鏡よりはマシです」


「眼鏡って……アンダインの事?」


「……」


 おっと、口が滑った。流石にロノスさんが相手でも他の貴族への嫌悪は口に出来ない。


「今の僕達は変装中だよ。愚痴なら付き合う」


「嫌いです! 初対面であーだこーだ言って来たのは興味無いけれど、自分が何をしたのか忘れたみたいな態度で家柄が上なのも忘れたみたいに好意をぶつけて来るし……最悪最低です」


 これは紛れもない本音。演技ではなく、本気の嫌悪から言葉が湧き出る。だってロノスさんへの恋心を邪魔するのだから当然だ。



 私にとって重要なのは彼への恋のみ。それ以外は割とどうでも良い……。





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