場合によってはポチで即決 逆は無い
前世の時代劇で知ったアレ、何って名前だっけ? ほら、将軍のお城に住んでる女の人達の居住区。お姉ちゃんが”ドロドロしてるから見ちゃ駄目”って言ってチャンネルを変えてゲームを始めてたし、僕もそんなに興味が無かったんっだけれど。……ああ、大奥だ。
僕達が学園に通う為に移って来たこの屋敷だけれど、当然ながら使用人の部屋が集まったスペースが存在する。そんな場所、しかもメイド達女性陣の部屋の辺りに僕が行くのはちょっと抵抗があるんだけれど、急用だからって言い訳しつつ利明日に同行をお願いして目的の部屋の前までやって来た。
「あっ、若様に姫様!」
「ごめんごめん。この奥の部屋に用があるだけだからさ」
休日なのか気の抜けた表情で空を眺めていたメイドが僕達に気が付くなり姿勢を正して仕事モードの顔になる。うーん、会いに行く相手も休みだから私用で呼び出すのも悪いと思ったんだけれど、こうして僕達が足を踏み入れる事自体が他の人達に迷惑だったね。
「ちょっと急ごうか。ドタバタと足音立てて誰か出て来なかったら良いんだけれどさ」
屋敷に住み込みで務めている人は多いし、この女性用の区画だけでもそれなりの数が居るから今日が休みの人は部屋で寛ぐか街に遊びに出ているだろう。そんな心を休める為の休日をこれ以上邪魔したら悪いし、さっさと行かないとね。
足音を立てない程度に早足で進めば幸運な事に誰にも出くわさず目的の相手の部屋の前まで辿り着いた。扉に張られたネームプレートにはレナの名前が書かれている。
「しかしレナに相談する事が有るだなんてさ。自分の事ながらビックリだよ」
そう、今回相談相手に選んだのは乳母兄弟であるレナだ。直ぐに卑猥な方向に話を持って行くから相談相手としてはポチと同レベルなんだけれど、信頼している度合いなら間違い無く上位に入る相手。
「レーナー! ちょっと入るわよー!」
「おっと、駄目だよ、リアス。休んでるメイド達だって居るんだし大きな声を出したら。それに部屋に入る前にはノックをして反応を待たないと」
リアスったら廊下に響く声で呼び掛けるなりドアを開こうとするんだから。慌てて止めた理由は幾ら小さな頃からの付き合いでも最低限の礼儀が必要だし、どんな格好をしているか分かったもんじゃないからね。休みの日の自室だからって全裸でウロウロしているようなのが彼女だ。このままドアが開いたら見ちゃうだろうしさ。
相手は文句を言わず、反対に冗談混じりに誘惑するんだろうけれど、デートの相談をする以上は言い出しにくくなるのはゴメンだ。”普段から好意を伝えてきている相手に他の女性との恋愛相談ですか?”とか泣き真似をしながら言われたら正直面倒だし。
「レナ、僕とリアスだけれど入っても大丈夫かい?」
「おや、お二人ともお出でですか。お呼びになったら向かいますのに。少々お待ちを。今、休みだから全裸ですので」
……セーフ! ノックをして呼び掛けたのは正解だった! 待つ事数分、入室の許可が出たので僕達は中に入る。スッケスケのネグリジェ姿のレナに出迎えられた。
「お待たせしました。部屋着ですが、それは休日と乳母兄弟という関係を考慮してお許しを」
「……」
右手を胸元に当てて流し目で見ながら微笑みを向けるレナからは凄い色気を感じる。呼吸の度に胸が上下に揺れて……あれ? よく見たら透けて見える下着自体が透けて……。
「お兄様、ちょっと部屋の前で待ってって。はい、退室退室」
「え? う、うん……」
つい邪な視線を向けた僕を咎めるように不機嫌そうな声を出したリアスに押し出され部屋から出ればドアが乱暴に閉められる。衝撃でネームプレートが傾き、中からは更に暴れる音。数分後、振動と共に音が響き続け、休日だったらしい子達が何事かと見に来た所で音が止む。
「良いわよ、お兄様。ちゃんとした服を着せたから」
開いたドアの隙間から中を覗いてみよう。ああ、今はノースリーブのワンピースを着ていて隠れている肌面積が広い。……惜しい。
「……お兄様?」
「じゃあ、入ろうか」
危ない危ない。心を呼んだみたいに厳しい声が向けられたし慌てて部屋に入る。それにしても元々の屋敷だったらレナの部屋に遊びに行っていたけれど、こうやってレナがこっちの屋敷に移ってから数年経つけれど部屋に来た事は無かったんだっけ?
部屋に入るなり一番先に目に付くのは無骨で巨大なバトルアックス。その辺の肉体労働者なら腕を振るわせながら数十センチ持ち上げる事も無理そうな重量で、レナは片手で平気で振り回す。手入れもちゃんとされているし、流石は鬼族、好戦的な種族なだけあるな。
「にしても相変わらずゴチャゴチャした部屋ね。私には棚に何でもかんでも置くなって五月蠅いのに」
「私はあくまでメイドですので。それに掃除は私達の仕事なのですから構わないでしょう?」
「私には私の拘りと使い易い配置って物が有るの! 時々何を何処に置いたのか忘れちゃうだけで!」
「それって使い易い配置と言えますか? ……はぁ」
「う、五月蝿い! 第一、アンタの部屋が汚いのと私の部屋の棚がゴチャゴチャしてるのは無関係じゃないの!」
「……また始まった」
レナの部屋はリアスの言葉の通り、物が至る所に置かれて全体的にゴチャゴチャした状態だ。聖王国の屋敷でもこんな感じだったし、掃除はされているんだけれど空いたスペースが少ない。持ち込めるだけの物を持ち込んで床や棚に置きまくったって感じだ。
あれ? あの棚に平然と置かれているのってアダルトグッズじゃない? しかも虹色オオミミズのお香まで。卑猥な絵の本が開いて放置されているし、ベッドの上には脱ぎ捨てた下着が平然と置かれている。……大きいな。絶対アリアさんよりレナの方が大きいぞ。身長はレナスが上だけれど、胸の方は既に親子で互角じゃ……。
「欲しいのでしたら差し上げますよ? ええ、下の方も。使っている最中の方のが良いですか?」
「何の話?」
ニヤリと笑い前屈みになったレナの胸元からチラッと覗く黒い布。リアスは理解してなくて良かったけれど、妹の前で何言ってるんだ、この淫乱メイド! 乳母兄弟だろうと度が過ぎたら流石に怒るよ?
「そ、そうだよ!」
さて、何とか誤魔化そうとするけれど声が上擦って、リアスに何かあったと悟られたのか疑いの眼差しを向けられる。くぅ! 他の人なら迷い無く僕を信用してくれるんだけれど、幼い頃から一緒のレナが相手なら別だ。
「お兄様、何を慌てているの? 何か変ね」
「いえいえ、若様は何一つ変では御座いませんよ」
「そうだよ、リアス。誤解だって」
「そっか。変な事言ってごめんなさいね、お兄様」
よーし、誤魔化せた! レナの事だからもう少しかき回しに来ると思ったんだけれど心配し過ぎだったかぁ。ホッと胸をなで下ろして一安心。リアスが素直な子で良かったよ。
「全く姫様ったら。そんな風に肩肘張って誰かを疑って過ごしていては疲れるだけ。私みたいに胸が大きいわけでもないのに肩が凝りますよ?」
「ふーん、そうなんだー。かたがこるんだー。しらなかったなー」
うわっ、何やってるのさ、レナ!? わざとらしく胸を揺らして胸の大きさでリアスを弄くるなんて何が起きるか分かっているでしょ!?
リアスの眼からは既に光が失われ、言葉も棒読みだ。……僕知ーらない。
「その胸、ぶっ潰す!」
「あらあら、血気盛んですね。姫様みたいな胸は嫌なので抵抗させて貰います」
そっと目を逸らせば聞こえて来たのは飛びかかるリアスと応戦するレナの荒そう音。まあ、数分有れば収まるでしょ。
止める必要? 無い無い。こんなじゃれ合い、昔からやってるんだからさ。……僕は巻き込まれないようにするだけさ。だって僕……この三人の中で一番非力だし。
応援待っています 1250突破です




