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此処では拳を使って欲しい

 魔法とは基本的に先人が創り出した物を学び、人によっては其処から発展させて行く物だ。


 アリアさんが見せた魔法も似た感じの物を水や土の属性持ちなら使えない事も無いけれど、それでも闇という水以上に不定形なイメージが付きまとう物だからか異質さが凄い。


「ちょっと驚き過ぎじゃない? 水だって自在に動いて高水圧とか氷の槍とか可能でしょ?」


 アリアさんの魔法への反応が理解出来ないらしいリアスは不思議そうにしている。

 まあ、一見すると同じなんだけれど、違うんだよ。


「水は液体から固体になるし、個体から液体になりはするけれど、その時に熱や冷気を発生させる必要が有るから一つの属性だけで自在には変えられないんだ。でも、闇は形態や性質があやふやだから結構自在みたいだね。……光も同じじゃないのかな?」


「あっ、そうね」


 あと、闇の魔力って高エネルギーの塊らしいし、圧力や質量による水や土とは威力が段違いだね。


「所で昨日、闇と光は同じみたいな物だって説明したって聞いたんだけれど……」


 あっ、目を逸らされた。

 さては勢いで物を言ったな。



「ロノスさん、リアスさん、見ていてくれましたか!」


 テストを終えて柵から出て来たアリアさんは此方に駆け寄って来るんだけれど、僕はその姿に犬の尻尾と耳を幻視した。

 女の子相手に失礼だけれど、ちょっと懐いている子犬の相手をしている気分だね。


 まあ、僕は犬よりグリフォン派だけれど。

 正確に言えばポチ派。


「ちょっとぉ。私が鍛えてあげたのにお兄様の方を先に呼ぶとか有り得ないわよ」


 リアスったらそんな事で拗ねちゃって頬を膨らませているし、相変わらず嫉妬深い子だなぁ。

 言っておくけどさっきの事は誤魔化されないからね?


「凄かったよ、アリアさん。頑張ったね」


 アリアさんへの評価は十点中七点で評価は高い順からS、A、B、C、DのB。効果の薄い魔法を連発して魔力を無駄にした点が減点対象になったけれど、最後の魔法の威力の高さで少し評価された結果らしい。

 それが無ければA評価だったらしいけれど実力を示せたから良いのかな?


 正直言って普段は何処か嘘臭く感じる明るい態度の彼女だけれど、今こうやって僕達に駆け寄って来る姿は自然に見えるし、少しは友好的な間柄を結べて何よりだよ。


「うりうり。反省しなさい」


「ご、ごめんなふぁ~い」


 あっ、リアスがアリアさんのほっぺを引っ張っているから止めないと。

 友達同士のじゃれ合いにしか見えなくって和やかな雰囲気だけれど、今は授業中で他の生徒達も見ているからね。


 忘れちゃ駄目だよ、僕達貴族!

 それなりの立ち振る舞いが必要だから気を付けて!


「リアス様ったら……。ロノス様、私が止めて来ます」


「あっ、そう? ありがとうね、チェルシー」


 ほら、チェルシーが頭を押さえて溜め息を吐いちゃっているし、もう少し立ち振る舞いを考えて貰わないとね。

 友達だと思っているなら少しは迷惑を掛けるのを控えないとさ。


「リアス様。いい加減にしないと言い付けますよ。叱られても私は知りませんからね」


「うげっ。はいはい、分かったわよ」


 慌てて止めに入る彼女の姿にほっと一安心しながらも余計な心配が増えた時、眼鏡の位置を直しながら眼鏡が本体の男がアリアさん達の横を通り過ぎた。


「さて、次は僕の出番か。……まあ、属性以外で恥の上塗りをしないだけの力は有った訳だ」


 冷静な態度でアリアさんに嫌味を向けているアンダインだけれど手を当てた眼鏡が震えているのに気が付いていないのかな?


 闇という一般的に蔑視される属性だけでなくて参考にする相手はいないから無様な真似を晒すと思っていたんだろうけれど見通しが甘かったとしか言えないね。


「ったく、わざわざ……むぐっ!?」


 アンダインの態度が気に入らないのか話し掛けようとするリアスの口を塞いで止める。

 目で抗議してくるけれど、暴れない所からして僕への信頼が勝ったみたいだね。


 ほら、彼処をご覧とばかりに指先を向ければ少し怒った様子のマナフ先生の姿が見えた。


「アンダイン君、生徒同士は尊重し合って下さいね。そもそもリアスさんとの決闘騒ぎだって君の不躾な発言が原因だと聞いています」


「しかし……」


「しかしも歯科医もありません。双方の間で決まった決闘を止める校則は有りませんが、”互いを尊重する”という校則を破ったのは君ですからね! ……リアスさんも怒る理由は理解しますが、その時の言葉に少し問題が有りましたし、後でお話があります。具体的に言うとお説教です」


「……はーい」


 見た目は十歳程度だけれど、マナフ先生は僕達よりもずっと年上のベテラン教師だ。

 アンダインは流石に教師には反論出来ないみたいだし、そもそも理は向こうにある程度は分かっているんだろう。


 リアスも流石に不味かったとは思っていたのか大勢の前で叱られないのなら文句は無いみたいだ。


「今、君が何か言っていたら一緒に叱られていたね、リアス。この大勢の前でさ」


 この場には四カ国から集まった生徒達が居るし、少し恥ずかしい程度じゃ済まないだろう。

 実際アンダインは拳を握りしめて震えていた。


「じゃあ始めようか。……と言いたい所だけれど今の君じゃ本来の力を出せそうにないから放課後に来て下さい。じゃあ次は……」


 今は敵対している訳でも無いけれども友好的とは言い難い国同士の貴族も集まるこの場で自国の生徒を叱る、一見すれば悪手な様だけれどこれで暗に告げる事が出来たよね。


 ”馬鹿をやらかせば容赦無く罰する”ってさ。


「リアスも注意しなよ? 君は少しお転婆なんだからさ」


「あら、大丈夫よ。お兄様は心配性ね」


「心配性なだけで済むならそれが一番なんだけどさ……」


 自覚が無いのは少し困るよ、全くさ。



 そんな風にしている間にもテストは過ぎて行く。

 結果だけ先に言えば最初のゴーレムを倒せたのは半分にも満たなかったんだ。

 倒せたのはアイザックの護衛役だと思わしい帝国貴族や各国の軍人の家系出身だけど、仕方が無い話でもある。


 だって未だ学生だし、普通は内政の勉強とかを優先させてモンスターと戦ったりしないからね。

 一目置かれる様なキャラが初期レベル一桁なのが多かったし、そもそも倒せる生徒を選別する目的だってゲームでは語られていたからね。


 チェルシーとフリートは当然ながらそれなりの評価を貰っていたよ。


「ストーンストーム!」


 チェルシーの属性は風。


 彼女が編み出した魔法により、地中から吹き上がった風が土砂を巻き込み、風の刃で切り裂きながら同時に土砂で削って行く。

 巨大なゴーレム相手でも削り落とした破片を加えて威力を上げていたけれど、最終的には分厚く巨大な相手に押し切れずに時間切れのA評価。


「フレイムリング!」


 そして”俺様フラフープ”の理由となったフリートの戦闘中常時展開魔法は彼の腰を中心に炎の輪っかとして発動し、どの方向に敵が現れても炎を放ち、時に上下に広がって壁になる。


「がはっ!?」


「まあ、ゴーレムが炎程度で怯んだりはしないよね」


 炎の壁をゴーレムの豪腕が突き抜けて一撃喰らい、結局Bランク。


「あはははは!」


「こら、笑っちゃ駄目だって、リアス」


「……あの馬鹿」


「まあ、穏便にね」


 チェルシーも頭を押さえて溜め息だ。

 大変だね。




「次はリアス・クヴァイルさん!」


「待ってました!」


 そして遂に残り三人となり、リアスの順番がやって来る。

 途端にアリアさんの時以上のざわめきが起こったし、他の国の連中が探るような目に変わる


「別に良いさ。じゃあ、僕の自慢の妹の力を特とご覧じろ」


「アドヴェント!」


 その声が響いた時、校庭は静まり返った。

 天から光の柱が降りて来てリアスの体を包み、やがて全ての光が彼女に吸い込まれて行く。

 この時のリアスは神々しさすら感じさせる光を全身から放って居た。


 ”聖女”と呼ばれるのが相応しいと思える位に……。






「ホーリーキック!」


 まあ、次の瞬間にドロップキックでゴーレムを粉微塵にしなかったらの話だけどさ。


「リアスさん、矢っ張りゴリ……凄いですね」


 ……アリアさん、ゴリラって言い掛けなかった?


 取り敢えず幾らホットパンツを着ているからってスカートで跳び技は止めなさい。

 周囲に身内しか居ない時は構わないから!

 



「せめてパンチで粉砕して欲しかったなぁ」

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