運も実力の内 組み合わせも運次第
「ふふふ、これは試験だから仕方無いわよね?」
「そうね。これはそういう試験なんだから」
臨海学校前の試験の最後は実技試験、校庭でのバトルロイヤルだったんだけれど、アリアさんと対戦する事になった女子生徒達は示し合わせたかのように取り囲んだ。いや、実際に示し合わせていたのかな? 対戦相手が発表されてからの短時間でよくやるよ。クジで選ばれたから派閥同士で集まるとかは無理なのに、アリアさんも嫌われたものだ。どうせ”闇属性をボコボコにすれば偉い相手に取り入るチャンス!”とでも思っているのだろうね。
「彼奴達、馬鹿ね。腹も立たないわ」
試験だから仕方無いとか言いつつも顔を見ればアリアさんを集団で嬲りたいって感じだし、リアスに馬鹿と言われる始末。……所で馬鹿王子ことルクスが凄い顔で彼女達を睨んでいるけれど、彼女達って確かアース王国の下級貴族……あっ。成る程ね。彼女達は不干渉派か。
アリアさんへの対応だけれど、現在の所は大きく二種類に分けられる。初日のアンダインみたいに直接的な嫌がらせこそしないものの、陰口を叩いたりちょっとした陰湿な真似をする連中と、今の対戦相手みたいに話を聞くって形でさえ関わりになりたくないって連中だ。
数百年続いた闇属性への嫌悪は根強いし、彼女達の気持ちも理解しない訳じゃない。友人であるアリアさんへの態度としては腹が立つんだけれどさ。まあ、そんな感じだから交友関係に関して知らないし、知っても有り得ない話だと否定する。大多数が嫌うのだから、噂で仲良くしているという人達も彼女を嫌っているだろうって感じなんだね。
「ねえ、フリート。どうなると思う?」
「掠り傷の一つでも負わせられたら満点じゃねえのか?」
「彼女達は実技の授業の間、ずっと今から袋叩きにしようとしている相手から目を逸らしているのか? それとも多少強くても囲めば勝てるとでも?」
こんな風に僕の友人達もアリアさんが一方的に嬲られる事は有り得ないと考えている。大体、あからさまな事をしているのにアカー先生が注意しないのも実力差を把握しているからだ。この状態で漸く試験として成り立つってね。
「それでは場外か降参、もしくは気絶した生徒から脱落とします。始め!」
試験の舞台は校庭に描かれた円の中で始まる。初期位置は自由とし、わざわざ真ん中にアリアさんが向かったのを好都合と円の端ギリギリに陣取った対戦相手達。開始の合図と共に次々に魔法が放たれた。
「狙いが雑。あれじゃあ隣を通り過ぎて向かいの味方に当たりそうだけれど、どうするのやら」
炎の矢も隆起しながら直進する土も風の刃も確かにアリアさんの方向に向かっては行っているけれど、ちゃんと命中しそうなのはその内の半数にも満たない。彼女を取り囲むのは四人だけれど、次々に魔法を放ちながらも殆どが見当違いの場所に向かっていた。
まあ、飛び道具を当てるのって難しいからね。実家で魔法を使う特訓は受けても、魔法で戦う特訓を受けているのはごく少数だろう。勿論中にはアリアさんに当たりそうなのも有るんだけれど、彼女には慌てふためいて逃げる様子は見られない。そんな必要が無いからだ。
「”ディスパイアレイン”」
アリアさんの呟きは静かに響き、頭上に放たれたのは巨大で荒々しい魔力の塊。円よりも巨大で魔力が空気を叩く音が五月蠅い位に響く。あっ、一人があの魔法に込められた力に腰を抜かして、残りも固まってしまって魔法の連射が止んだ。でも、一度放たれた魔法は解除されず突き進む。詠唱無しで連射性重視だったから威力は低いんだけれど流石に命中すれば掠り傷じゃ済みはしない。残る傷でも負えば良いとでも思って放たれたんだろうね。
此処まで考えた僕だけれど、アリアさんの心配はしていない。だって不要だもの。空に浮かぶ魔力の塊からは拳大の魔力が放たれ、地面に向かって降り注ぐ。
「ひっ!」
腰を抜かした子がそれだけ口にして、後は彼女達も彼女達の魔法も数十秒間降り注ぐ闇の魔力の絨毯爆撃によって叩き潰された。それこそ身も心もね。アレは間違い無くトラウマになるだろうさ。
魔法が終わり、朦々と上がった土煙が晴れればアリアさんの周囲だけが無事で対戦相手も地面もボロボロだ。そんな惨状を作り出した彼女だけれど、僕が軽く手を振れば嬉しそうな顔で大きく手を振る。
「……なあ、彼奴ってテメェに対して完全に依存しているだろう……おっかねぇ魔法だな」
「かもね。まあ、今まで寂しかったんかろうから当然じゃない?」
フリートが少し警戒した様子を見せるけれど、僕にとって彼女はそんな必要の無い普通の可愛い女の子だ。……所で今の魔法って本人以外の敵味方に効果を及ぼす魔法だった気が。確かレベルアップじゃなくってイベントクリアで習得可能な奴。
「リアス、彼女に何か今の魔法の参考になる物教えた?」
「えっと、空中に飛んで相手の攻撃を無効化した上でのからの広範囲魔法なら見せたわ」
「そっか。なら安心だね」
急にあんな魔法を創り出したのにはビックリだけれど、ちゃんと其処に行き着く理由が存在するなら問題は無い。
「いや、何処が安心なんだよ。お前達兄妹とチェルシー以外の殆どがドン引きじゃねえか!」
「え? あっ、本当だ。……大袈裟だなあ。フリート達、ちょっと闇属性にオーバーアクションなんじゃないの?」
「んなわけ有るか! 俺様は普通だ、普通! お前達が異常で、チェルシーはそれに慣れちまってるだけだ!」
「え~?」
確かに速度も威力も申し分ないけれど、リアスの方がずっと上だし、今のアリア三じゃ勝ち目が薄い相手だって結構知っている僕達からすれば怖くもないし、逆に特訓に付き合ったんだから誇らしくさえあるよ。
「ロノスさん! リアスさん! 勝ちましたよ! 間違い無く完勝です!」
アカー先生から勝利を宣言されて、気絶した対戦相手達が担架で運ばれて行く中、アリアさんはこっちに駆け寄って来るんだけれど、今まで散々嫌がらせをしていた連中でさえ怯えた顔で道を譲っていた。
そのまま抱き付くのかって勢いで迫った彼女はギリギリで止まり、誉めて欲しいと表情で伝えて来る。
「凄い凄い。じゃあ、次は消耗を抑えて完勝しようか? 僕やリアスも手伝うからさ」
本当に人の縁ってのは分からない。最初は不干渉の予定で、会ってからは少しだけ鍛えるだけの筈で、今じゃ告白されている上に嬉しそうに報告までされるんだから。ああ、何か犬の尻尾が有れば激しく振ってそう。
「……さて、じゃあ次は僕の出番だね。君に言った以上は消耗抑えて完勝して来るよ」
本音を言えばせめてフリートやアンリ、可能ならチェルシーやリアス相手が良かったんだけれど組み合わせに関われていないから諦めるしかない。うーん、この時点で不完全燃焼。
相手を侮り過信している? いやいや、僕は自らの才能と努力の結果を確信しているんだ。そして師匠を信頼している。少なくても同年代で軍属の家系でも無い相手に苦戦するなら既に死んでいるだけの経験は積んでる。
「さて、さっさと終わらせようか」
目標はアリアさんの半分の消費と試合時間かな?
因みにリアスの内容なんだけれど……僕よりも優先すべき可愛い愛しの妹なんだから記すね。
「よーし! 気合い入れて思いっきり行くわよー!!」
「えっと、君は少しは手加減をして下さいね?」
リアスと組が同じになった生徒達はその時点で絶望し、アカー先生が手加減をお願いする程に気合いが入っている事に膝を折る。うんうん、流石は優秀な妹、凄い評価だ。
「先ずは”エンゼルウイング”! からの……”ギガントライトナックル”!!」
光の翼で飛び上がり、振り上げた拳に纏うのは巨人の如き大きさの光の豪腕。それを振り下ろした瞬間、全てが吹き飛んだ。
「流石リアス! 強い可愛い逞しい!」
絵、届きました 近い内に挿し絵にできる話書きます