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ロノスの悩み

絵の発注完了です


総合千二百突破!

「さて、どうしたものかな……」


 深夜、寝付けなかった僕は天井を見上げながら呟く。どうも最近は考えなければならない事が多過ぎる。先ず最も重要なのはリアスからもたらされた情報。お姉ちゃんについての事だ。


 あれは僕が妖精の国ターニアから屋敷の庭に直帰した時、僕の姿に気が付くなりあの子は窓から飛び降りた。着地の時の音と地面の陥没は……うん、忘れよう。筋肉は脂肪より重いとか、衝撃を和らげる為に地面を強く踏みしめたとか、色々と理由は見つかるんだし、僕は庭の惨状なんて見ていないし、即座に響いた庭師の悲鳴なんて聞いちゃいない。……あっ、僕の個人的資産から普段のご褒美に特別手当てを出しておこう。


「ちょっとリアス。窓から飛び降りるのは良いんだけれど靴は履いておきなさいって。足の裏が汚れるんだから」


 ベッドで寝転んで僕を待っていたのかリアスは裸足だ。別に素足をさらすのがはしたないと迄は言わないけれど、流石に裸足で地べたを歩くのは見逃せないから注意したんだけれど、何時もは僕の言葉に直ぐに反省してくれる素直な妹はこの時は違った。えらく慌てた様子で周囲の様子を伺い、着地音と衝撃で何事かと慌てた様子で顔を覗かせた使用人達の姿を見るなり僕の腕を掴んで走り出す。


「お兄ちゃん、こっち!」


「ほら、人前ではお兄様って呼ばないと」


「今は許して!」


 今更リアスが窓から飛び降りた程度じゃ屋敷の者はメイド長以外は其処まで反応しないだろうし、実際リアスが原因だと察して直ぐに仕事に戻って行ってるのに何を慌てているんだろう? 急に引っ張られたせいで僕の体は凧みたいに空中をユラユラと動き、子供でもないのにちょっと楽しい。今度リアスにもやってあげたら喜びそうだな。


「リアス、何があったの? 君らしくもない……


 窓から飛び降りるのも、僕をこうやって強引に引っ張って行くのも何時ものリアスだけれど、窓から飛び降りるにしても着地の時に上手く衝撃を殺すのが何時ものこの子だ。でも、今日は乱暴に着地なんかしちゃって随分と慌てている。確かに落ち着きのない子だけれど、これは流石に変だ。


 クヴァイル家の令嬢ともあろう者が窓から飛び降りた衝撃で庭を荒らすだなんてさ……。


「うん、凄く良い事が判明したの! だから内緒の話をしに行くわよ、お兄ちゃん!」


「良い事?」


 普段ならレナも巻き込むだろうリアスが僕にだけ話すって、もしかして初恋でも……は絶対有り得ないとして、順当な所で前世関連か。あっ! もしかして二人共忘れていた情報を思い出したとか、帝国の例のダンジョンに入る方法を思い付いたとかかな?


 何せ情報が少なさ過ぎる。入って来る情報は前世での知識からして厄介な事件に繋がるって分かっていても、それをどうすれば丸く収められるのか、それを判断する為の情報が足りないんだ。だから忘れている情報を思い出す為に帝国に伝わる秘宝を使いたいんだけれど、リアスが何か思い出すなりしたのなら助かるや。




「それで何なんだい? ”魔女の楽園”絡みの事だろう?」


 リアスに連れて行かれたのは庭の隅に設置されたポチの小屋の前。窮屈なのは嫌いだから雨の日以外は自分で扉を開けて外に出ている賢い我がペットは丸くなって居眠り中だ。周囲には牛の骨が散乱しているし、ご飯の後だったみたいだね。


「……キュイ? キュイキュイキュイ!」

 

 スヤスヤ眠っていたけれど、僕が近付くなり気が付いて顔を上げる。そのまま”遊んで遊んで”と、鳴いて甘えてくる愛くるしい姿に胸を締め付けられた僕は思わず寝そべった背中にダイブして羽毛の感触を堪能させて貰ったよ。あっ、脇腹を撫でて欲しいんでちゅね~。分かりまちたよ~。


「ちょっとお兄ちゃん! もー! 相変わらずポチに甘いんだから。……お姉ちゃんの行方が分かったから教えてあげようと思ったのに」


「……へ? 今、何て?」


 左右の手でポチの脇腹をワシャワシャ撫でていた僕の耳に入ったあまりにも予想外の情報。思わず手を止めればポチが不思議そうに顔を向けて来る。ごめん、今はちょっと遊んでいられない。慌てて起き上がりリアスの目を見る。冗談じゃないのか。いや、そもそも冗談でこんな事を言う子じゃない。そして僕はお兄ちゃんだ。妹の言葉を疑うものか。


「えっとね、実はテュラが私に接触して来たの。ゲームでは私達の人生を狂わせた奴だし、何よりもお兄ちゃんを襲った奴だから気の済むまで顔面殴打してやろうと思っていたんだけれど……話をしてたらお姉ちゃんだった」


「ちょっと待って。お姉ちゃんが僕達みたいに転生している可能性は考えていたけれど、テュラっ!?」


「うん、そうなの。ドライアドから貰った嘘を見抜く薬を使ってたから騙そうとしていないって分かるし、抱き締めて頭を撫でて来たんだけれど、間違い無いと思うの」


「……そうなんだ。君はそう思うんだね」


 妹の事は信じる、それは間違い無い。絶対に僕に向かって嘘は言っていないんだろう。でも、テュラは別だ。そもそもゲームでも言葉だけで傲慢な悪役が従うなんて実に怪しいし、女神なら洗脳や精霊の薬を誤魔化す事だって可能な筈。記憶を読みとって話を合わせるって事も可能だろう。


「あのね、確かにお兄ちゃんも襲っただろうけれど、お姉ちゃんはお兄ちゃんがロノスになっているだなんて知らなかったし、私達が居るって事だけは神の力で知っていたらしくって……」


「……そう。安心して。相手がお姉ちゃんで誤解の末なら僕は恨まない。知っている話の世界でたった二人を捜す事になったとして、まさかドンピシャで悪役に転生しているなんてどんな低確率だって話だよ。それこそ誰かの意志で転生したんじゃなかったらさ」


 不安で悲しそうな顔の妹の頭に手を乗せる。兄と姉が敵対するだなんて甘えん坊の妹には耐えられないんだろう。だから嘘は言わない。本当にお姉ちゃんだとしたら、僕達を探す為の行為の末なら許すし、巻き込まれたアンリへの償いは僕がする。誰かの意志でのって話だけれど、テュラは女神だ。そんな存在に転生させられるだなんてどんな存在だから有り得ないとは思うんだけれど。


 いや、この世界への転生の時点で尚更か。それでも限度って物がある。


「相手がお姉ちゃんで、ちゃんと僕達の事が伝わっているなら何も問題無いさ。リュキの悪心と神獣にのみ警戒しよう」



 ……お姉ちゃんが転生したってのが本当なら、の話だけれど。


「良かった。お兄ちゃんが”例えお姉ちゃんでも絶対に許さない”とか言ったらって不安だったの」


「僕がリアスの話を信じないって不安は?」


「え? 何で? お兄ちゃんったら変な事言うのね。そんな事よりもご飯の時間が近いし急ぎましょう。ポチ、後で遊んであげるわね」


 すっかり安心した様子でポチを撫でたリアスは屋敷の方に向かって行く。多分メイド長が怒りのオーラで待っているんだろうけれど言わないでおこうか。


 ……あの子、分かっていないのかな? 僕達が前世の記憶を取り戻しても人格が塗り潰された物じゃなく混ざった感じになったみたいに、お姉ちゃんだって僕達の知るのとは別人なんだよ?


 前世のままの人格の僕達が武器を持って魔法で戦えた? 無理に決まっているじゃないか。日本の一般人として生きて来た僕達が転生して過ごしたのは魔法が存在する世界の貴族社会。二つの意味で別世界で別人として生きて、僕達がどうなったのか考えてごらん。


 ……僕達でさえこうなのだから、神としての人生を過ごした人がどうなるのか。あの人のままなら邪魔者だからって人を殺そうとはしなかった。



「でも、気持ちは分かるんだよね」


 僕がこうして考えていられるのは実際に会っていないから。会った時、僕はどんな風に考えるのだろうか……。

五章スタート

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