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頑張れサマエルちゃん

絵、連絡したが相手がログインしていない……


あと二日待ってログインしなければ他の人にするって連絡しよう

 仕事に失敗した後というのは非常に気まずいものだ。特にそれを報告せねばならぬとなれば意気消沈は必須であり、此処で更にネチネチと嫌みを言う上司でも居れば尚更だろう。


「うっ、戻るに戻れないのじゃ……」


 そんな嫌な上司が居なくても、一晩眠れば嫌な事をケロッと忘れられるサマエルであっても同じであり、仕事を失敗して拠点まで戻って来た彼女は同僚二人が居るであろう部屋に続く曲がり角の前で立ち止まっていた。


 今回の仕事は願いを叶えるという契約を行う事で対象を生け贄に捧げられる状態にし、封印された状態の神獣を復活させるという物。契約無しで生け贄に出来たり、光の力と相反する闇の力で復活可能な大量生産の雑魚と違いゲームではボスとして登場した程に力を持つ存在。


「と、途中迄は上手く行ってたのじゃ。ただ、ターゲットを間違っただけで」


 それでは最初から失敗していたという事だろう。事実、願いを持つ者を見つけ、それが許されない恋仲の二人だからと密会場所に契約を結ぶ為のチラシを置いていたのは間違いでは無いが、その場所は創造主から滅ぼす必要が無いと言われており、同僚は用が無ければ関わらない事にしている妖精の領域。確かにシアバーンは一度レキアに近付いたが、それは彼女の管理する場所に封印が存在したからに過ぎない。


 そしてサマエルの失敗の結果、ユニコーンが復活したのは妖精の国の中であり、ブスだの(勘違い)馬鹿だの(こっちは正解。色々な意味で)言われた結果、目に涙を滲ませた上に転んで頭を打った事で泣きながら帰って行った。


 せめて八つ当たり気味にその場に居たロノスにけしかけずにユニコーンを連れ帰るなり、生け贄を別の場所でささげるなりすれば良かったのだが後の祭りという奴だ。


 流石のサマエルも三歩歩いた程度では忘れず、お昼寝をしてもいないので失敗を忘れていない。だが、何時までもこのようにしている訳にも行かないと思ったのだろう。頬を両手で挟むように叩き、込めた力が強かったのか痛そうにしながらも意を決した表情だ。


「ええい! パパ……じゃなくて、ままよ!」


 ”どうせシアバーンも好き勝手やってるから大丈夫だろうし、口八丁で誤魔化せば良い”、そんな歯も一口で溶ける程に甘い考えのサマエルだが、誤魔化せる弁舌など持っていれば仲間からアホ呼ばわりされる事も無く、二人が居るであろう部屋への扉が三つに増えていた。


「のじゃっ!? か、改装か!? 私様に黙って劇的に住環境を改善したのかっ!? ……ドッキリという奴じゃな」


 驚きはしたものの納得したのか腕組みをして何度も頷き、”直ぐに察せる自分こそ神獣将最高の頭脳の持ち主ではないか?”等と追加で三歩歩く前の悩みの理由をすっかり忘れた鳥頭。尚、封印の悪影響が頭に出てるとかそんな救いは一切無い。昔からこんなのだ。


「恐らく第二の個室になったのじゃな。ならば私様の新しい部屋は……当然リーダーらしく真ん中じゃ!」


 大きなリンゴの絵が描かれた壁に並んだ真っ白な三つの扉。上になにやらプレートが貼られているが注意散漫で気が付かず、真ん中の扉の取っ手を掴む。グニュッという感触後にベタベタの手触り。


「……甘いのじゃ」


 手に着いたそれを舐めてみれば優しい味わいの甘さ。何という事だろう。真ん中の扉は壁の窪みにぎっしりと詰めて形を整えた白餡だった。


「いや、なんでじゃ? 意味が分からんのじゃが。……うん? 何やら書かれているの。えっと……”大外れ 尚、サマエルは多分プレートを読まずにドヤ顔で引っ掛かる”? ……ドヤ顔とはなんじゃ?」


 此処で悪戯がまさかの不発。サマエルのお馬鹿な行動を読んだシアバーンでもお馬鹿加減の読みは甘かったらしい。まさしく彼女の手の中をベッタベタにしている白餡の如く。


 首を傾げながらも微妙に首が疲れる高さに設置されたプレートを見れば右から『本物』『大外れ 尚、サマエルは多分プレートを読まずにドヤ顔で引っ掛かる』『本物?』。真ん中の扉が白餡だったので直ぐに左の扉に向かうサマエルだが、ちょっと待てよと思いとどまる。


「……幾ら何でも怪しいのじゃ。あの性悪が素直に正解を提示する訳が無い! にょほほほほほほ! 私様の洞察力を甘く見たな、シアバーン! 正解は……”本物?”の扉じゃ!」


 左端に扉を開けようとして動きを止めたサマエルは華麗な横飛びで右端の扉の前に着地する。まっ平らな胸を反らして自信満々に笑い、取っ手を掴んで扉をバッと開ける。壁の凹みに扉をはめただけだった。


「……のじゃ?」


 何があったのか即座に理解出来ない彼女。ビックリして固まって、足下に覚えた違和感に視線を下げれば底が見えない程の空洞。簡単に言えば落とし穴だ。彼女が両手を広げでも足りない幅の穴。当然、落ちた。


「のじゃぁあああああああああああああっ!?」


 どうにか助かろうと壁に向かって手を伸ばすもツルツル滑る。掘ったのは最近の筈なのに苔だらけ。現実は非情、ただ落ちて行くのみ。

 だが、そのまま落ちて行くのならば神獣将など務まらない。実際に三歩で反省を忘れる鳥頭であっても彼女は人を一切合切滅ぼすべき創造された存在なのだ。何度伸ばしてもツルツル滑る壁であっても諦めずに掴もうとし、遂に指先が壁に刺さった。幾ら小柄な少女の矮躯でもそれなりの重量は有るのだが、壁に刺さった指先三本で止まっていた。


「ぐぬ、ぐぬぬぬぬぬぬぬぬっ! おのれ、シアバーンめ。私様を侮った報いを受けさせてやるのじゃ」


 曲げた指先に力を込め、勢いを付けて上に飛ぶ。深い深い穴を落ちていたにも関わらず指先の力だけで脱出し、勢いが付き過ぎて天井に激突してしまった。


「……こ、これで二つはクリアしたのじゃ。ならば最後の一つこそが正解」


 転んでぶつけた所を天井に更にぶつけ、頭の上を星が実際に回っている。これもまたリュキが創る時に設定した要素である。


 フラフラしながらも最後の一つの取っ手を掴む。そのまま開ければ今度は金ダライが降って来た。カーンッと良い音が響き渡り、今度こそサマエルは気絶した。目玉をグルグル回転させて、巨大なタンコブが腫れ上がる。


「のじゃ……がくっ!」


 大の字に伸び、星とヒヨコが顔の上をグルグル回り、その体は一瞬で転移した。




「ありゃりゃ、サマエルったら気絶してるっすね。シアバーン、急にリフォームするとか言い出したけれど何やったんっすか?」


「ん~? ちょっと部屋の配置換えですよ? こう見取り図を区分けしてランダムに配置換えしただけで、後は適当に罠を配置しただけですって」


「その罠に味方が引っかかってるんっすけれどね!?」


 何時も三人が過ごす部屋にて天蓋付きのベッドに寝かされたサマエルの顔を覗き込みながらラドゥーンは責める視線をシアバーンへと向けていた。その相手は安楽椅子でリンゴジュースを飲みながら気にした様子は微塵もないが。


「選択肢を三つ提示されたとして、その中に正解が含まれていると思うのは安直だと思いませんか? あひゃひゃひゃひゃひゃ! 敵も悪戯して来る相手も変わらないでしょうにねぇ!」


「敵って……自分達は兄弟みたいな物っすよ? 自分は長男……いえ、長女っすね」


「じゃあ私が今は長男で、その内次男ですね。そして我らが愛すべきアホの末っ子サマエルですが、多分自分が長女だと主張するんでしょうねぇ。後で悪戯の文句を言われそうなので暫く出掛けて来ますね。失敗の罪悪感については今回の怒りで忘れるでしょうし、今回の怒りも明日には忘れるでしょうけれど……長男復活の為に必要な物を帝国に取りに行かなくては」


 細長い腕で気絶したままのサマエルを撫でたシアバーンは少し傾いた帽子の位置を直すと飛び上がり、そのままその場から転移して消えた。



「自分の完全復活の為に帝国に? ……駄目だ。その辺も忘れてるっす」


 どうしても思い出せない記憶を取り戻そうと想起するも無駄に終わる。この記憶を戻すには何か特別な物が必要だろう。


 それこそロノス達も欲している帝国が管理するダンジョン”忘れじの洞窟”の”追憶の宝珠”でもなければ。




 そして同時期、帝国からクヴァイル家にとある申し出があった……。

エピローグ!


応援待っています!

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