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うっかりミス

 突如現れてサマエルを庇った異形の存在、あれは間違いなくヴァールだった。但し、ヴァールだと判断出来るのは顔だけだ。髪は炎や靄みたいに揺らめく金色の物になって頭頂部から背中へと向かって生えている。瞳は真っ赤に発光していて理性が感じられないし、歯も鋭く尖って伸びている。……顔も少し伸びているし鼻息も荒いな。



「フー! フー!}


 上半身の服はボロボロで布切れが僅かに体に引っかかっているだけだし、肘から先と足の出ている部分だって蹄だ。何よりも額から生えた純白の角。


「何だ、彼奴は……。まあ、良い。流石にあれだけの傷を受ければ既に死ぬだろうからな。しかし、あれは一応王国の貴族だ。母上、大丈夫か?」


 サマエルを狙った氷の槍は間に割り込んだヴァールの体を貫いて先端が飛び出しているし、今は栓になっているけれど、槍を抜くなり溶かすなりすれば血が大量に流れ出して終わりだ。いや、あれだけの槍が貫通しているんだから今のままでも直ぐに死ぬだろうね。


 但し……。



「にょほほほほほほ! 何だ、貴様。この程度で私様の部下を、ユニ……何とかを倒したと思っているのか?」


 サマエルは勝利を勝ち誇った笑みを浮かべ、それは実際にユニ何とか……いや、幾ら馬鹿でも部下の名前は覚えておこうよ。あの中途半端に人間の部分が残っているのってそれが原因じゃないの!?


 ゲームでは封印を解いても肉体が完全に残っていない神獣も存在したんだ。それを完全に復活させるのに必要なのが生け贄で、リアス達の決闘に乱入した神獣達も行方不明になった連中が生け贄になったんだろう。ただ、本来はあんな人間が混ざった姿になる筈がない。


 ユニコーンだよね、本来はさ。乙女大好きで、乙女じゃなかったら殺すって設定の実は凶暴な奴。


 ゲームではちゃんと伝承通りの一角馬の姿で登場したボスキャラで、その能力は角が万能薬になるとされる伝承から来ている。



「何だと……? あのユニ・ナントカとやら、まさか……」


 ヴァールの体に刺さった槍が盛り上がる肉に押し出されて床に落ちる。体中の穴は槍が抜けると同時に塞がって痕すら残っていなかったよ。矢張りゲーム同様に強力な自動回復能力を持っているのか。毎ターン回復する上に回復魔法が面倒だってお姉ちゃんが言ってたよ。


「所でユニ・ナントカじゃなくて、ユニの後が思い出せないんだと思うよ」


「いや、そんなアホが何処に居るというのだ。もし居たとすれば全世界一馬鹿選手権のグランドチャンプだ」


 信じられないって顔をしているね、レキア。僕も同意見だ。でも、そのグランドチャンプは目の前に居るんだよ。ほら、今にも泣き出しそうな顔をしている女の子。彼女こそがギャグ担当のお馬鹿チャンプだ。



「う、うう! こうなったら妖精国を……妖精…国を…あっ!」


 さっきから大泣きしそうなサマエルは遂に檻を破壊しながら一歩進み出て、そこで不意に何かを思い出したみたいに考え込む。おい、言葉からしてまさかとは思うけれど、もしかして……。





「しまった! 妖精は殲滅の対象外だったのじゃ!」


「なにやってるんだ、この大馬鹿!」


「うっ!」


 馬鹿だの間抜けだのとは思っていたんだけれど、まさか此処までだっただなんて!


 ヴァールが飛び込んで来る時に破った謁見の間の扉と、その向こうに見える妖精騎士や城内の被害。これが神獣将としての攻撃対象だったのなら納得はしないけれど一定の理解は示し、その上で怒ろうかでも、今なんって言った? 妖精は対象外? つまりは本来なら出さない筈の犠牲をうっかりで出したってのか!


 込み上げる怒りのままに叫べばサマエルは気圧されたのか後ろに下がる。その足下にはヴァールから抜けた時に散らばった氷の槍の破片。体温が高かったのか少し溶けやすくて滑る。


「あっ……」


 そんな物がギャグ担当の足下に存在するとどうなるのかってのは一目瞭然、踏んで滑って見事に転ぶ。そして床に頭を強打した。ゴツンと頭を打って大の字に転がり、何があったのか分からないらしい。目には涙まで滲んでいたよ。


「追撃して良いよね?」


「……どうだろうか。いや、しては良いと思うが、見た目のせいでしにくいな。


 本人も僕達もどうすれば良いのか全く分からないんだけれど、もう一押しすれば大泣きしそうなのが分かったよ。


「……ぐす。私様、もう帰る……。ユニ……何とか。あの男を始末するのじゃ。それならば二人に怒られまい」


 最後に泣き声で指示を出したサマエルが消えるなり女王様が少し驚いた風に呟いた。


「消えた。……転移か。余達妖精のように道を作り出すのではなく、現在地から目的地まで移動する神の魔法。馬鹿だから偽物だと思っていたが、本物だったとは」


「あっ、そう思います? 僕も初対面の時は信じなかった……いや、信じたくなかったので」



「おい、ロノス。母上と暢気に話をしている場合か! 来るぞ!」


 サマエルは神獣将、つまりは人間を滅ぼそうって連中の幹部だ。それがあのレベルの馬鹿だなんて信じたくない僕は現実逃避がしたかったし、女王様だって未だに半信半疑だな、これは。転移を見せられた程度じゃ信じられないか。


「ブルルルルルル!!」


 抹殺命令を受けたからか、話をしているのを馬鹿にされていると感じたのかヴァールは随分と興奮した様子で向かって来た。前足になった手は使っていないのに馬以上に速く、元が腕だけに器用な動きで僕の顔を狙う。馬が前足を振り上げて振り下ろすみたいな勢いで次々に繰り出す攻撃を左右に避け続けるけれど、コレは少なくても今の時点で身体能力は馬以上だって考えた方が良いな。


「……進行してるなもね。捕まえて元に戻す方法を探すなり、倒して証拠隠滅するなり、どっちにしろ時間は掛けられないや」


 こうやって間近だから分かるんだけれど、徐々に全身が馬っぽくなっている。顔なんて向かって来る前の一割増しにはなっている気がするし、三十分もすれば完全に変化するな、これは。


「レナが居たら”ズボンの中は既に馬並ですか?”とか平然と下ネタをぶっこみそうだ。おっと……」


 腕が肩から先まで完全に馬に変わった。変化速度が上がっている? サマエルが名前を思い出したのか、お馬鹿なせいで変化が遅れていたのが漸く進み出したのか。前言撤回! このままじゃ五分で完全に変わる!


「女王様、ニーアが戻って来たりは……」


「余に仕える騎士を侮るな。あの程度の小娘に出し抜かれ逃げられる程に間抜けでも軟弱でもない。守りきりながら安全な場所まで運んでいるだろう。……それにニーアでは今の奴の姿を確かめに来る気概は持ち合わせていない」


「随分と辛辣な評価な事で。娘なのに」


「娘だからこそ、姫だからこそ母として女王として評価せねばならぬ。貴様も将来的に必要だぞ。貴族として我が子を評価する時に私情を交えぬ事がな」


 女王様の言葉はズッシリとのしかかる。僕ってリアス可愛さに私情を挟むことが多いからね。自覚はあるんだよ。


「さて、本当にどうしようか……」


 ヴァールは遂に四つん這いになり、殆どユニコーンに変化している。辛うじて背中と頭だけが人のままだけれど時間の問題だ。このまま人の部分が残った状態で終わらせるのも情けの一つであるし、実際の所はどうにかする方法が一つだけ。ヴァールが助かるってメリットに比べてデメリットが大き過ぎるのがね。


 ちょっとだけそれを選ぼうか考えた時、浮かんだのはリアスの顔だった。


「余計な事を考えるなよ、ロノス。もしやゼース殿に使っている魔法を解除してまでヴァールを助ける気でもあるまい? 何の為に己に制限を掛けてまであの魔法を使い続け、それを隠しているのか考えよ」


 僕の心中を見透かした女王様の叱責。ああ、そうだ。僕が御伽噺の主人公なら後先考えずに彼を救うんだろう。でも、僕は貴族であり兄だ。何が大事か考えるんだ、ロノス。



 思い出す。お祖父様に交渉を持ちかけた時の事を……。



目指すは総合千二百突破! 評価される作品書きたい

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