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母の重圧(物理)

総合千百突破しました そろそろ絵を頼みたい

「……あれ?」


 カボチャの馬車で空を飛んで妖精女王の城に向かう最中、地上を見下ろしたり見上げたりしていたヴァールが呟いた。


「今、近付いている筈ですよね? 地上だってあんなに遠くなって居るのに、城には全然近付いてないように見えますけれど……」


 女王様のお城は国全体を照らす輝きを放つ玉。巨大な球体の内側に存在する国を照らす程なのに近付いても一向に目が眩む眩しさにならない事が不思議そうだった彼だけれど、漸く気が付いたのか。


「そりゃそうさ。確かに城へは向かっているけれど、彼処は本来なら未だ大きくなれない頃のレキア達だって暮らしていた場所だ。だから向かいながらも僕達が小さくなっているのさ」


 女王様が国から出る時はこっちに合わせて大きくなるけれど、今回の僕達は正式な使者ではなくって姫とデートに来ただけの非公式訪問。だったらこっちが合わせるのは当然だろう。近付いても感じる眩しさがそれ程ではないのと同じで妖精の魔法なら城も中の人も大きくなれるけれどさ。


「随分と脳天気だな。母上が交際に何を言うか分からぬと言うのに」


 頬杖を突き、眉間にシワを寄せながら二人の楽観視をレキアは叱った。この二人は結局の所、上手く行った時の事しか考えていないんだ。最悪のケースでもヴァールが家を捨てる気だそうだけれど、これじゃあ仮に捨てたとしてその後はどうするんだって話だよ。人間の貴族と妖精の王族じゃ仕事も全然違うんだし。


「良いか? 妾達のように民の上に立つ者には行動に対する熟考と民のそれよりも遙かに重い責任が必要とされる。どうにかなると楽観的に行動する貴様達にはそれが欠けている。……先に言っておく。妾は母に対して賛同も弁明も提案もせぬ。貴様の恋だ。ならば守るのは誰の役目なのか分かるな? ニーア」


「……は、はい。分かっています、姉上……」


 きっと心の中では頼れる姉がどうにかしてくれるって思っていたんだろう。俯いて声を絞り出したニーアはドレスを握り締める。高価そうな生地にシワが寄って、一瞬だけれど紙みたいな音がした。何かポケットに入れっぱなしだったのかな? 僕だって偶に屋台で買った物の包装紙をポケットに突っ込んだまま洗濯に出しちゃって、洗う前にメイドが見つけるんだよね。


「……レキア、大丈夫?」


「何の話だ? 心配される事は何一つ無い」


 実際の所、レキアは責務と情の間で揺れ動いている状態だろう。ニーアの行動が迂闊だったから民の間に広がった不安や不満を先に目にしたり、ヴァールを完全に信用していない事で不干渉になったんだろうけれど、本来の彼女は身内への情愛に満ちた姉で、妹達から信頼されているからこそニーアも頼ったんだろう。リアスだって僕に絶対の信頼を置いてるし、何があっても僕は可愛い妹の味方をするさ。なにせ愛しているからね。



「僕が横から口を挟ませて貰うけれど、レキアの言葉は君への愛故だよ」


 そんな事は有り得ないだろうけれども、ニーアにレキアが誤解されるのは辛い。だから勝手だとは思ったんだけれども伝えずには居られなかった。


「姉上……」


 さてと、僕の干渉は此処までだ。この先は本当にこの二人次第。民が抱いている確執を和らげ受け入れられるのか、その日を待ち続けるのか、それとも諦めるのか。


 問題はヴァールがそれだけの価値を示せるかって事だ。民の不平不満を抑えて仲を認めるだけの価値が有るのか、アース王国との確執解消は叔母上様が嫁いだ後も進んでいない。相変わらずリュボス聖王国とは友好的でアース王国には関わりたくないから近付いたら追い返すって感じだ。


 まあ、歴史を動かす事態にまで押し進められるか、それに懸かっているんだけれど、ちょっと無理っぽいな。本当にどうするんだろう、この二人。ニーアは知り合いだし、何かあればレキアが悲しむからせめて円満に別れて欲しいんだけれど、二人が良い方法を思い付く間も無しに城へと到着する。光る表面に触れた車体はそのまま通り抜け、目の前には透明の外壁に囲まれた球状の城の内部が存在していた。


「おや? これはアレか。”楽にせよ”と言いたいらしいな。……とても楽にする気分ではないのだが」


 カボチャの馬車が到着した時、レキアもニーアも元の大きさに戻っていた。少し盛った胸まで戻っているからレキアの胸の辺りがダボッてしているのは見て見ぬ振りをしていると扉が開き、僕達は馬車から降りる。レキアは何時ものように肩に乗り、ニーアはヴァールの顔の高さで飛んでいた。


「君は飛ばないの?」


「……さあな」


 ありゃ? なんか誤魔化された感じだ。別に乗っていても良いけれど、ニーアが飛んでる事からして乗るのって普通じゃないんだよね? 少し興味有りそうにチラチラ見ているし。


「……君も僕に乗るかい?」


「だ、大丈夫。未だ恥ずかしいから。もう少し待って、ヴァール」


 ヴァールも乗って貰いたいのか肩を指さしたけれどニーアは真っ赤になりながらそれを拒否してる。ふーん。妖精からして恥ずかしいのか。僕が会いに行くと頻繁に乗り物にされていたけれどなあ。


「……何だ?」


「いや、何も?」


 友達の趣味に口出しするのも嫌だし、此処は黙っておこう。例えレキアが恥ずかしい事が好きって性癖であっても僕は彼女の友達を辞めたりはしないぞ。巻き込んで僕にまでやらせるのなら拒否するけれどそれだけだ。


「おい、貴様は何かを誤解している! 後でじっくり話をさせて貰うからな!」


「うんうん、分かった分かった。それにしても前に来た時と変わらないね。まあ、お城なんて簡単に変わるものじゃないけれどさ」


 昔を思い出しながら城の内装を見渡す。妖精の城は幼き日に訪れた時の記憶のままだった。


 ガラス玉の内部のミニチュアに居るみたいな景色だけれど、感じる力はそんなチャチな物じゃない。僕が一度招待されたのはずっと昔だけれど、見た目は変わらないのにあの時よりも更に力を増していると僕には分かった。それに今の女王様の状態にもだ……。


「怒ってるね」


「ああ、母上は完全に怒っている」


 真上から押さえ付けられるような重圧、空気すら振るわせる程のそれが娘二人とヴァールにのみ掛かっている。その巻き添えで僕の右肩にもズシッとした重量が。


「レキアと急に太った? ……はい、冗談です」


 場を和ませようと口にした冗談。その代償は拳だった。ポカポカとレキアが殴って来て地味に痛い。そんな僕達は少し落ち着いているんだけれどニーアは別だ。重圧で飛びにくそうにしながらも慌ただしく飛び回り、最後にレキアの正面までやって来た。


「あわわわわ。ど、どうしましょう、姉上」


「……言った筈だ。私は手を貸さんと。母上の説得が出来たなら民への説得に力を貸すのもやぶさかではないが、前段階の時点は知った事が。貴様の愛の試練だ、馬鹿者め」


 冷静に諭すレキアだけれど、微妙に声が震えている。流石の彼女も女王であり母親でもある相手は怖いんだろう。僕からすれば優しくて親切な方だけれど、家族だから分かる怖さも有るんだな。うちの身内は他人から見ても怖い人ばかりだったけれど。


「だ、大丈夫だよ、ニーア。僕、も居るから。女王様にちゃんとお話、をして……」


 励ましているつもりなんだろうけれどヴァールの声は震えている。それに彼への重圧が一番強いのか前屈みで動きにくそうだな。此処に来るまでの様子からして不安だったのに、女王様のこの対応からして思いっきり拒絶されてるよね。いや、城に入れて貰えないって事態じゃないだけマシなんだろうけれどさ。



「レキア、大丈夫かな? 二人の恋」


「……安心せよ。妾と貴様なら母上が反対なさる理由はない。個人的にも政治的に…も……。おい、もしかしてニーア達の事か?」


「え? そうだけれど、それが一体……あれれ? 重圧が消えた?」


 肩に感じていた重圧が何時の間にか消えている。でもニーア達はそのままみたいだし、さっきの会話が理由でレキアは見逃されたのか? ……何で? その理由とどうして僕達の恋だと思ったのかって二つの意味でさ……。

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