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魔女の誘い

 僕には高い地位を持つ家柄と未来の物と言うべき知識がある。本来ならば便利で強力な武器になる物だし、実際に使わせて貰っているんだけれど、使ってみた感想は思ったよりも不便だって事だ。


 先ずクヴァイル家の人間という事は家臣や領民の人生を背負うって事。物語じゃ貴族でも己の信念のままに動くけれど、そんな迂闊な行動の余波を最も受けるのは立場の弱い人達だ。地位ってのは武器であると同時に足枷にもなるんだよ。


 そして知識だけれど、当然ながら利用すればする程に役に立たなくなって行く。仮に道だとしよう。目的地までに通る予定だった道が歩き辛いからって僅かに横に逸れたとして、一度や二度なら程度によるけれど本来と大きく変わらない。まあ、片側一車線の道路を挟んだ反対側を通っても景色が大きく代わりはしないって事さ。

 でも、それが続くとどうなる? 選ぶ道が違えば遭遇する人や物も変わるし、前から人が来たら避けるけれど来ないなら避ける動作は取らないみたいに関わる人の行動も変わる。更に変わった人の行動に関わる人も、そんな感じにね。



「……どうしようか。迂闊に介入は出来ないけれど、このまま見過ごすのも……」


 お昼ご飯を食べた後、勉強疲れでグロッキーなリアスをメイドに任せた僕は公園のベンチに座って呟く。元からそうなる筈だったのか、それとも僕達の行動の影響なのか持っていた知識通りの出来事が知識よりも前倒しになって発生している。僕の責任とは言わないけれど、気にはなるよね。


「只事件が起きるだけなら対策を練っているだけなんだろうし、それで良いんだろうけれど……」


 友達(フリート)がそれに関わろうとしている。幸福の門の裏に潜んでいるのは恐らく知識通りに神獣将シアバーン。知識だけじゃなく実際に軽く戦ったから分かるんだけれどフリートじゃシアバーンどころか神獣にさえ敵わないだろう。戦いになる可能性は高い。その結果、彼がどんな事になるのか予想が的中する可能性も。


 あくまでも友人は友人で、優先すべきは自国の事だ。例え同盟国の有力貴族であっても危険を冒して他のを後回しにしてまで、とは行かない。僕が一般人なら兎も角、有力貴族の一員ならばね。


「幸福の門で手に入る物の正体は……忘れちゃったけれど、リュキの悪心の封印解除に関わっているのは覚えているし、それを邪魔するなら排除しに来るだろう」


 確かゲームでは好感度が高いキャラの実家の領地でイベントが発生、幸福の門目当てに来た領民が邪魔者として調査に来た次期当主を排除しようとして来る筈。この時、最初の遭遇時に戦うか否かの選択肢が出て、戦った場合は思わず小さな子供を殺してしまう。それが切っ掛けで先代王妃の暴政で溜まり、叔母上様に変わって沈静化していた鬱憤が爆発した領民が反乱を起こし、心を病んだキャラは退場してしまう。


 現実ではそうなるとは限らないけれど、どのみち卑劣な手段を用意して手ぐすね引いて待っているだろう奴を考えれば……。


「はあ……」


 僕が介入するにはフリートの実家の家柄が大き過ぎる。その上他国だし、弱小貴族の友人の危機を見かねてって訳にはいかないんだ。


 普段頼りにしている知識や家に困らせられ、空を見上げて大きく溜め息を吐いた時だった。


「ロノスさん、どうかしましたか? 大きな溜め息なんて吐いて。あっ! 私が誰か分かりますか?」


「やあ、アリアさん。うん、ちょっと悩みがあってさ。考えても良い答えは浮かばないし困ったよ」


 横を見ればテイクアウトのランチらしき物を持ったアリアさんがブロンドのカツラと色付きの眼鏡で変装していた。隣に座ろうとしたんだけれど、慌てた感じで眼鏡を外そうとしていた。

 僕も一瞬誰か迷ったけれど、声とか話し方で何とかって感じだ。後は僕に対する呼び方かな? そんな呼び方をする人は限られているからね。

 本人は分かるだなんて思っていなかったのかカツラに伸ばした手を止めてキョトンとしちゃったよ。


「わわっ!? 分かっちゃうんですね。少し悔しいけれど嬉しいです。こんな格好でも私だって分かって下さって。えっと、隣構いませんか」


 アリアさんったら意外だったのか驚いちゃって可愛いな。少し驚いた後で彼女は僕の隣に座ってバゲットサンドを食べ始めた。紙袋の店名は確かリアスが気にしていた店だ。出納を持って行けば容器の分だけ値段が安くなるんだよね。


 アリアさんってそんなにお金が無かった筈だけれど、カツラも眼鏡も認識を阻害する魔法の道具だし結構な値段の筈。犯罪にも使えるからアリアさんじゃ買えなかったけれど、矢っ張り舞踏会の夜に訪ねて来た国王から貰った物を換金したのかな? 裏ルートで王家の紋章付きの宝石が出回ってるって話だっけ? 叔母上様がその手の物は悪用される前に回収しているらしいけどさ。



「あ、あの! 私じゃ頼りないかも知れませんが、話を聞く位なら……」


「うん? ああ、溜め息で何かあったって思ったんだね。まあ、ちょっと面倒な噂を耳にしてさ。立場が関わる事だから下手に動けないし」


「そうですか……」


「でも、気にしてくれてありがとう。その気持ちだけで嬉しいよ。アリアさんは本当に優しい人だね。美人だし、優しいのに変な言い伝えを鵜呑みにする連中が信じられないよ」


「もう、ロノスさんったら……」


 こうやって誉められただけで赤くなって嬉しがるだなんて誉められ慣れていないって感じるな。僕から目を逸らしてパンにかじり付く。


 ……確かゲームで彼女が巻き込まれたのはデートに誘われてだっけ? 彼女を自分の領地の見せ物に誘う程に仲の良い生徒は居ないし、精々がフリート程度? 皆でご飯を食べる時に文句を言わない程度だし、誘う程じゃないか。


 正直言って”闇属性の魔女”への悪印象は強い。ゲームでは面倒な事に一緒に巻き込まれて、吊り橋効果的なので好感度が上昇したんだろうけれど、その対象はリアスや僕だしさ。


 まあ、彼女には強くなって貰わないと神獣将だのリュキの悪心の相手はキツい。それはそうとして流石に今回の件に彼女が巻き込まれる事は無いだろう。僕としても巻き込む前提で彼女を誘う気は無いし、物語通りになる修正力でもない限りは……ははっ! そんな筈が……。



「あのぉ、ロノスさん。あの時の約束を覚えています? 私の水浴びを見ちゃった件で……」


「……あー、その後でキスされた時の約束だね」


 駄目だ、思い出したら恥ずかしくなって来た。そっか。僕は裸で抱き付いてキスして来た子と一緒に居るんだ。軽口で言ったんだけれど二人して恥ずかしくなったのか互いの顔を見られない。言わなかったら良かったなあ。


「えっと、可能な範囲でお願いを聞くって話だったね。じゃあ、僕は何をすれば良いんだい?」


「あの、ですね……。その、私とですね……」


 アリアさんはモジモジしながらパンを食べ、懐から何かを取り出した。折り曲げた紙? いや、チケットか。それが二枚。……うん? もしかして、いや、まさか……。



「実はランチを買いに行ったお店でくじ引きを引きまして、サーカスのチケットが当たったんです。レイム家の領地ですね」


 レイム家、つまりはフリートの実家の領地か。偶々このタイミングでそんな場所で開くサーカスのチケットを手に入れるだなんてビックリだな。修正力本当に存在するんじゃって怖くなって来た。


「だ、だから私と一緒に……ひゃわっ!?」


「アリアさん、ありがとう。君に出会えて良かったよ。お願いとは別にして是非行かして欲しい。君と一緒に行きたいよ」


 気が付いたら僕はアリアさんの手を握り締めていた。これで僕はフリートの所に行く口実が出来た。……何かあるだろう場所にアリアさんを連れて行くのは心苦しい。なら、僕が守り抜こう。




「私もロノスさんと出会えて良かったです。私、貴方が大好きですから」


総合順調です

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