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蝶と芋虫とゴリラ

今朝の投稿忘れてた

 突然だけれど私には苦手な物があり、それは虫である。

 あの独自の形や無数の足で這い回り時に目の前を飛び回る姿は想像するだけでゾッとするし、殆ど死に掛けた心を強く揺れ動かす。


 ……いや、私の心を揺れ動かすのは恋心とかの素敵な物であって欲しいのに、どうして彼処まで気色が悪い存在に動いてしまうのか。

 虫を前にした時の怖気を考えると完全に心が死んでいた方が良かったとさえ思う。


「い、芋虫ぃ!?」


 私に向かって追い立てられて来たのは猫や犬程度の大きさの芋虫で、身をくねらせながら固まって進む。

 時に仲間を踏み越え、一度転べば無数の仲間に踏み越えられ身動きが出来ずに潰されて瀕死の状態で痙攣している姿に取り繕った偽物の言葉ではなくて、腹の中からの嫌悪感が口から吐き出された。


「芋虫じゃないわよ。ほら、花に擬態する虫って居るけど、あれはその逆。頭に綺麗な花が咲いているでしょ? 腐肉の香りがするけれど」


「どう見ても寄生されて操られて居ますよね!?」


「そう見えるだけよ」


 巨大な芋虫達の体は濁った緑色に目玉を思わせる黒い模様が有り、頭には鮮やかなピンク色の巨大花。

 虫系のモンスターに寄生するタイプの花と思ったけれど、芋虫の部分は根っ子らしい。

 だったら根っ子を足みたいにして動けば良いのに、何故わざわざ虫みたいな姿なのだろう。


「確か”ワームフラワー”だったわね。じゃあ、早速攻撃してみましょうかしら。大丈夫よ。精々五十匹程度だから。ポチ、逃がしちゃ駄目よ」


「……キュイ」


「そのやる気のない返事は何!? 私だってアンタの世話をしてあげたでしょ! お兄ちゃんだけでなくて私も敬いなさいよ!」


「あっ、矢っ張りリアスさんは落ち着いてない時は”お兄様”じゃなくて”お兄ちゃん”って呼ぶんですね」


「……レナやチェルシーには秘密よ? 口うるさいんだから。特にチェルシーなんか口にはしないけれど、絶対お祖父様に命令されてお目付役を引き受けてるわ」


 少しふてくされた様子のリアスさんとポチの姿に和みそうになるが、芋虫の口から糸が吐き出されるのを見て現実に引き戻される。

 糸は木の枝に絡まり、そのまま糸を使って芋虫は私の方に飛んで来たから無数の足が蠢く腹部がハッキリと見えてしまった。


「……ダークショット」


 先程リアスさんが使った魔法を参考に、イメージするのはくしゃみ……ではなくて柄杓での水撒き。

 比べれば貧相な出来映えだけれどワームフラワーの数体に当たり、飛んで来た一体は腹部をえぐり取られて絶命する。

 ……撒き散らされる内臓とかは無かったし、本当に根っ子で良かったな。


「その調子ならどんどん行けるわね! これを一セットとして……今日中に五セットは可能ね!」


「無理です! 魔力が持ちません!」


 未だイメージが固まっていない状態で放つ魔法は威力がバラバラで消耗する魔力の差も一撃ごとに激しく上下する。

 リアスさんは可能と言うけれど、それは消費が最低で威力がそこそこの時、つまり一番良い状態の時の魔法を連発した時の場合だ。


「魔法が使えない状況や通じない相手なら物理で倒せば良いじゃない。……それにしても芋虫かぁ。久し振りに大芋虫のハーブ焼きが食べたいわね。ネズミ位の大きさのなら格別だわ」


「そのハルバートを渡されても困ります!」


 リアスさんは気軽に振り回しているけれど、ちょっと地面に置いただけで沈んだのだし、普通の女の子が持てる重量じゃない。


 ……普通の女の子、か。

 私、この人達のお陰でそんな風に思える様になったんだ。


「……あ~、最初はメイスとかが良かったかしら?」


 一般人の私に無茶ぶりをして来たゴリラの言葉に私はリュボスの食文化を思い出す。

 ああ、確か虫料理が普通に有ったんだったと。


 ……所で彼女って王の従姉妹で宰相の孫で別国の王妃の姪の筈だけれど、発想がお姫様やお嬢様よりも騎士様だ。


「アリアはどの虫が好き? 私は揚げた蝉が一番かな? 味付け塩ね、塩。貴女はミミズの蒸し焼き辺り?」


 因みに私は揚げ物や蒸し物よりも焼きの方が好きだ。

 虫じゃなくて肉なのは当然である。


「キョォオオオオオオ!」


 あっ、変な事を考えている場合じゃない。

 そんな事をしている間にもワームフラワーは私に向かって押し寄せ、私は魔力の限り魔法を連発するけれど数は減らない様に見えるのは気のせいだろうか?


 こうなったら自棄だ、自棄になって戦うしかない。


「ダークショット! ダークショット! ダークボール! シャドーボー……あの、増えていません?」


「増えているわね。此奴、花の部分を破壊しないと復活するわよ」


「それを早く言って下さい」


「……私、早口言葉は苦手で。お兄様は高速での詠唱だって得意なんだけれど」


 見れば地面に落ちたワームフラワーの花の根っ子が蠢いて破片を絡め取っている上に、千切れた根っ子からも花が再生している。


 ……このゴリラ、重要な事を言っていなかった。

 そして言葉が通じていない。


「キュイ……」


 私にはロノスさんみたいにグリフォンの言葉を理解する力は無いけれど、今は何となく分かる。


 このゴリラ、ちょっと駄目だ……。


「ま、魔力が限界に……あれ? 回復した?」


 魔法を使い過ぎて魔力が枯渇すると独特の疲労感に襲われるけれど、後数ミリで限界真っ逆様という所で急に道が現れた感覚。

 いっそ限界が来れば目の前の光景からは解放されたのに……。


「あら、知らない? モンスターを沢山倒せば急に力が上がるし、その時に魔力も回復するのよ」


「今まで戦った事が無いので……」


「……成る程。じゃあ早速別の魔法を試してみる? 例えば……ホーリージャベリン!」


 光が大地に行き渡り、無数の刃が天に切っ先を向けて生える。

 串刺しにされてもがくワームフラワー達は暴れる程に自らの体重で体が沈み、何やら焦げ臭い様な……。


「串焼きかぁ。あっ、その刃に触れたら駄目よ? 凄い熱を持っているから」


 眩しい程に力強き光がそのまま矛に形を変えた物によってワームフラワー達の体は焼け、頭の花も火に包まれて行く。

 どうやら助かったらしい……ほっ。


「キュイ!」


 警告する様な鳴き声に私は思わず反応して前を向き、それは正解だったと地響きと共に地面を割って現れた巨大なサナギの姿に知らされる。


「ま、まさかワームフラワーが成長した姿?」


「いえ、大元よ。ワームフラワーって働き蜂みたいな物らしいわ。……蜂の子が食べたい」


「こんな時に食欲出してどうするんですか!?」


「さっさと倒してご飯にするわ」


 サナギがモゾモゾと動き、割れる。

 中から粘液で体を湿らせた蝶が姿を現せば私が感じたのは嫌悪。


「ひっ!」


 芋虫の状態ではあくまでも模様だった目玉がギョロギョロと動いて私達を見下ろし、体の湿り気は直ぐに乾いて行く。

 まるで腐った生ゴミみたいな悪臭を漂わせながら蝶は飛び上がった。


「これは運が良いわね。弱いので数を稼いでも段々効率は落ちるし、強いのを一匹倒した方が時間短縮になるわ。じゃあ……頑張って!」


「……あれ?」

 

 やる気を出したから倒してくれると思いきやリアスさんは後ろに下がって手を出す気が無い様に見える。


「もしかして私だけで倒すんですか?」


「ええ、そうよ。だって私が力を貸したら成長の効率が落ちるもの。危なくなったら助けるから頑張ってジャイアントキリングを、格上倒して経験値ウハウハ状態を目指しなさい!」


「経験値って何ですかー!?」


 何となく意味は分かるけれど意味を理解したくない。

 だけどリアスさんは本当に様子を見るらしいし、敵も呑気に待ってくれはしなかった。


「ちょっと待って。あれは……卵!?」


 蝶のお尻からボコボコと産み落とされる黄色い玉が地面にぶつかって割れると中からワームフラワーが這い出して来る。

 虫が嫌いな私には卒倒しそうな光景で、誰かに助けて欲しかった。

 でも、こんな時に都合良く助けなんて入らないのは私が一番知って……。



「ちょっと無理させ過ぎだから!」


「ロノス……さん?」


「あーもー! リアス、後でお仕置きね! それと僕も謝るとして……此処は僕に任せて!」


 私が助けを求めた時、一番聞きたかった人の声が耳に入り、その姿を目で捕らえる。

 そのまま彼がコートの中から取り出した袋に手を突っ込んで振り被る姿を私はジッと見つめ、目が離せなかった。


「アクセル!」


 手の中の何かが放たれた瞬間にロノスさんの詠唱が響き、目で追えない程の高速で何かが飛来する。

 それは蝶と芋虫の体を貫通、そのまま通り過ぎた。


「い、今のは?」


「加速魔法”アクセル”。物体が進む時間を早送りして投擲の威力を増すわ。因みに投げたのは金平糖ね。お兄様の大好物だから持ち歩いてるの」


「は、はあ……」


 常に甘い物を持ち歩いているだなんて可愛い人。

 そして私を助けてくれる姿は格好良かったな……。


 再び感じた胸の高鳴りに気が付けば手が胸に行き、視線はロノスさんに注がれる。

 今日一日大変だったけれど、ロノスさんに助けて貰えただけで私は満足かも知れなかった……。




「……アリアさん、本当にごめんなさい」


「もう何度も謝って貰いましたし、そもそも私の為だったから気にしていませんよ」


 あれから私の特訓はロノスさんと一緒に行って、何故かレキアさんに睨まれながらも何とか終了した。

 空高く飛ぶポチの背中の上、下を見れば卒倒しそうな景色で横を見れば夕日が山に沈む風景が広がって行くけれど、私は前だけを見ている。

 ロノスさんの背中だけを見ていたい。


 少し恥ずかしくなったから怖い振りをしてロノスさんに抱き付けば鼓動と体温が伝わって来る。

 まるで抱き締められている様な錯覚の中、私は気が付いた。


 この状態、胸を強く押し付けて……。

 心なしか伝わって来たロノスさんも鼓動が速まっている気がして……。


「ひゃわっ!?」


 あっ、変な声が出た……。

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