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コミュニケーションって大切だ

「全証拠隠滅完了。体力も回復させてミッションコンプリート。これで何一つ問題無し。……明烏が怒ってる以外は」


 昨晩……明け方近くまで行った行為の証拠隠滅自体は僕の魔法でどうにかなった。部屋で魔法を使った事で何かあったのかと駆け付ける誰かが居る事を心配したけれど、流石の僕の魔力コントロール、室外に異変を感じさせない程度の規模でどうにかなったよ。


 問題は睡眠不足なんだけれど、そっちは明烏の力でどうにかなった。その代わり、凄く怒ってるのが刀身から伝わって来るんだけれどね! ”情事の後始末に使うな!”そんな声が聞こえて来るみたいだうわぁ、あまりの荒々しいオーラで刃がカタカタ鳴ってるよ。これ、言葉が喋れないから鬱憤を吐き出す事も出来ないし、暫くは不機嫌な状態が続くんじゃ……。


「機嫌直してよ。テストが終わったらレキアの力を借りて妖精の領域で思いっきり暴れさせてあげるからさ。……痛っ!」


 何とか納得して貰ったけれど、最後に大きく跳ねて鞘と鍔に指の間を挟まれて少し赤くなってる。普段から力を振るいたがるのに、使われ方によっては此処まで怒るだなんて知らなかったよ。


「君ともコミュニケーションが取れたら良かったのにね」


 それにしても武器と意志疎通が可能なのは如何にもファンタジーって感じだけれど、仕事内容に不平不満を持たれるからコミュニケーションが必要ってのは人間相手と同じで夢が無いや。



 まあ、ゲームや漫画なら兎も角現実だから仕方が無いんだけれどさ。意思があるなら好き嫌いだって有るし、気を使ってあげなくちゃ。向こうは言葉で伝えられないから難しいけれど。


 大きく溜め息を吐けば何か文句があるのかと主張してくる明烏。この子に夜鶴の十分の一でも従順さが有ったら良かったのにと思わざるを得ない僕だった……。





 さて、明烏を宥めて煽てて誉めまくり、何とか機嫌を直して貰った僕はリアスと一緒に馬車で登校していた。何時もはギリギリまで寝ているこの子も今日ばかりはメイド長に起こされて、のんびり朝風呂も出来ずにお勉強。今だってノートを食い入るように眺めていた。


「リアス、少しはリラックスしたら? 十分頑張ったじゃないか」


「お兄ちゃんみたいに勉強が出来る人には分からないのよ。今日さえ、今日さえ終わったら夏休みに臨海学校ってイベントが盛り沢山」


「え? テストは今日と明日の二日間だよ?」


「あっ……」


 あっちゃあ、日程を勘違いしてたかあ。教科数と範囲は僕と一緒に勉強していた時に確かめてるから大丈夫だけれど、明日も有るって知った途端に絶望した顔を浮かべちゃってさ。リアス、君って本当に勉強が嫌いなんだね。

 ショックで固まって手落としたノートを拾って差し出しても受け取らないし、テスト直前にモチベーション大幅な低下は流石に見過ごせないな。


 よし、この手で行こうか。



「このままだったらフリートに負けるけれど良いの?」


「良くない! 俺様フラフープなんかに負けてたまるもんですか!」


 ほら、これで大丈夫。負けん気が強いリアスだから嫌ってるフリートを引き合いに出したらやる気を出して勉強を再開したし、これで大丈夫……かな?



「後は本人の学力次第だけれど、こればっかりはなあ……」


 メイド長のスパルタ授業が終わった後、リアスは憔悴していた。それ以上にリアスに勉強を教えていたメイド長が憔悴していた。うん、どれだけ大変だったんだ?


 せめて暗記問題で試験範囲から出そうな所を絞って覚えた所が中心に出題されるのを願おう。出題範囲全てを記憶すれば良いだけだって思うんだけれど、リアスは無理だって言うんだもの。ちょっと頑張れば可能じゃない?




「……は?」


 リアスに言ってみたら睨まれた。凄く怖い。……何で其処まで怒るのか解せぬ。


 こうなったらフリートに相談してみよう。彼奴なら僕に賛同してくれる筈だ。だって友達だからね。リアスよりは成績が良いし、多分大丈夫でしょ。




「一応言っておくけれど他の人に言っちゃ駄目よ」


「うん、分かった。リアスが言うなら従うよ」


 可愛い妹のアドバイスだし疑う余地は皆無だよね。僕は素直に頷き、リアス同様にノートを眺める。さてと、せめて五位以内には入りたいんだけれど……。




「矢っ張り男の人って馬鹿が多いんでしょうか? ロノスさんは除きますけれど」


 早朝、悪目立ちする黒髪と黒い瞳を隠すカツラと色付き伊達眼鏡を身に付けてカフェに来てみれば、普段の私を煙たがる同級生からナンパをされる。胸を見ているのが丸分かりで、カツラを外して誰かを教えてあげたら慌てて逃げ出す始末。

 ……生まれて初めて一人での外食を楽しんでいたのに最悪の気分。折角勉強の気分転換に朝早くからやっているオープンカフェで優雅な朝食の最中だったのに。


「……持って来たお金は結構有りますし、ちょっとお高いメニューでも頼んじゃいましょうか」


 ポケットから出した財布の中身はパンパンに膨れ上がり、小さい頃に母様から貰っていた以外でお小遣いなんて無縁だったから新鮮な気分。このお金、この前頼まれた領地でのモンスター退治の報酬を貰った……訳ではない。外聞のために私をギリギリ育てていた祖父母がそんな物を払ってくれる筈もなく、何故か急激に冷えた池の水のせいで参加出来なかった舞踏会の日に人目を忍んで訪ねて来た男から貰ったお金の一部だ。




「その形見の品、。そしてその顔。間違いなくお前は私の娘だ」


 感想を言うならば”ああ、そうですか”だ。実の父親を知らない貧しい家の娘が父親と出会って全く無関係だった世界に足を踏み入れる。そんな夢物語は夢物語だからこそ面白い。現実だったら糞も良い所。


 実力で上り詰めた人でさえ家の歴史が浅ければ成り上がりだとばかにされる世の中で、貧しい下級貴族、しかも忌避される闇属性の私が上の上の格の家……よりにもよって王族なんかになったらどんな嫉妬や侮蔑を向けられるか、その程度も分からないからこそ先代の愚かな王妃の暴走を許し、次の賢い王妃には実質的に王座を奪われる。



「私にはどうしても掴みたい幸せがあって、それには父親が誰なのか分からないままが良いんです。だからどうか勘違いだった事にして下さい」


 涙を流して親子の絆を得ようとする男の差し出した手を私は取りはしない。だって王妃の甥こそが私が側に置いて欲しい人。でも、同じ国の同じ家の人に嫁に出せる程に王女の利用価値は低くない。



「”せめてこの位は”、そんな風に渡された装飾品も王家の紋章入りで売りさばく先を見つけるのに苦労したんですよね。……多分絶対足元を見られましたよ」


 まあ、これであの男との縁が切れたなら別に良い。じゃあ、さっさと朝御飯を食べて勉強をしよう。だってロノスさんが教えてくれたのだから悪い点は取れないから。



「……良い点を取ったらご褒美に誉めてくれませんかね? あの人なら多分誉めてくれるでしょうけれど」


 思い出せば色々な偶然が積み重なった結果、私と彼はキスまでしているのだ。変な邪魔さえ入らなければ更に先へと進んでいただろう。


 ちょっと私への悪評を思い出す。”体を使って取り入った”、そんなロノスさんまで馬鹿にした内容だけれど、別に良いのではないだろうか?


 あの人を誘惑し、全てを捧げる自分の姿を想像してみる。正直言って悪くないw。いや、寧ろ良い。だって、あの人は手を出した相手を無碍に扱う人じゃない。手を出した相手を家の力を活用してまで必死に探さなかった何処かの国王とは違って。



「うん、もっと勉強しませんと……」

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