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秘密の多い人?

 執務机の上に積まれた書類、多分残りの書類も他の場所に準備されている。これ、サインだけじゃ終わらないし、僕だったら一日じゃ終わらない。そんな彼女に告げるのは凄く心許ないんだけれど、報告しないなら報告しないで後から迷惑掛けるしなあ……。


「成る程。若様も姫様も厄介な事に巻き込まれたのですね。その後、どう対処を?」


「レナに任せようと思ったんだけれど、流石に駄目かなってツクシに相談したわ」


 「まあ、事後対応はツクシに任せるのが正解だよね。メイド長からその辺は習っているし。……いや、そういうのってメイドの仕事なのかな? あの人、なんでその手の仕事まで出来るんだろう?」


「メイド長ですからね。あの方ならば何が出来ても不思議では御座いません。神対応で解決して下さるでしょう」


 しかし馬車への襲撃かあ。僕もそうだけれどネーシャも最近襲われたばかりだってのに運が悪いね。同時に二度もタイミング良く助けが入って、しかも商会という立場上近付いていて損は無い相手に助けられるんだからさ。


 ……彼女、ちょっと変な感じなんだよね。話していると心が何故かざわめくし、存在する筈のない一緒に過ごした記憶が蘇って来るし。……僕が前世の記憶を取り戻さなかったらあり得た事なんだろうけれど、そうでない以上は不思議な事だ。


 平行世界とかの僕の記憶でも受信してる? 僕って電波系だったのか……。


「そして若様の方は夜の面々さえ騙す程の擬態の使い手に遭遇したと。見た目や仕草だけでなく魔法的な繋がりまで模倣するのは厄介ですね。……ふむ。ちょっと似た存在の記述が古文書にあった筈。後で調べておきましょう」


 後でって、その量の書類を終わらせた後で調べ物までしてくれるの? 流石にそれはパンドラが大変だ。将来的にクヴァイル家を率いるのは僕だけれども、実質的に政務を担うのはパンドラだ。だからって甘え過ぎな気がするんだけれど、僕がそんな事を思うのなんて彼女にはお見通しだったらしい。


「お気になさらず。若様も姫様も明日はテストでしょう? 赤点など情けない真似を避けて頂くのが私としては助かりますよ、姫様」


「私だけっ!?」


「ええ、若様ならば大丈夫でしょうから。だから今はお勉強をお願いします。ああ、でも叶うのならばご褒美に若様のキスを……」


「うん、分かった」


「へ?」


 多分パンドラとしては僕をからかったんだろうけれど、僕だって何時までもそんな程度で大袈裟に騒がないさ。まあ、実際に体験したからって理由も有るけれどさ。


 そんな僕はパンドラの肩に手を添えるとそっと唇を重ねる。呆けた感じのパンドラって久々な気がするなあ。ああ、それにしても……。



「……恥ずかしい」


 冗談に対して本当にキスをしたのは僕なんだけれど、終わったら急に恥ずかしさが込み上げた。そりゃ経験したとはいえ、たったの二回。それも女の子側から急にって感じだ。自分からするのとは全然違う。違って当たり前だ。



「えっと、ゴメンね?」


「いえいえ、思わぬご褒美を頂きました。これでレナ……さんならば続きをおねだりするのでしょうが私には流石に無理ですし、その時がくれば宜しくお願いしますね?」


「う、うん……」


 そっと差し出された小指と小指を絡める。続きって、矢張りアレだよね? そのお誘いを今から。いや、結婚は決まっているし……。




「所で姫様が随分と大人しい……あっ」


 リアス、僕とパンドラのキスを近距離で見たせいで真っ赤になって固まって……。


「え、えっと、じゃあリアスを連れて行くね。勉強して来る。パンドラ、本当に何時も有り難う。君が居てくれて嬉しいよ。でも無理は禁物だからね。やつれたら折角の美人が台無しだ。それでも君は魅力的なんだろうけどさ。でも、どうせだったら輝きは大きい方が良い」


「……そんな言葉がどうして無自覚に出て来るのやら。まあ、今日はそれで良しとしましょう。若様も将来的には書類仕事を今の私位には捌いて下さいね? 私は更に成長しますが、さ、産休とか育児休暇を頂く予定ですので。ほら、若様との子を自らの手で育てたいなって……」


「そうだね。僕は両親については覚えていないけれど、他の家の子が親と一緒に居るのは羨ましいって思ったし、世間一般的に貴族の子供は乳母が育てるケースが多いけれど、君がどうしたいかが重要だ。僕達の子供は協力して育てよう」


「……だからどうしてそんな言葉が出て来るのやら」


 呆れられてはいないみたいだし、寧ろ嬉しそうにも見える。さて、さっさとリアスを連れて勉強しないと。

 固まったままのリアスの目の前で手を振っても反応が薄いし、呼び掛けても反応が無い。じゃあ、僕が部屋まで運ぼうか。


「よっと! ……あれれ?」


 他の女の子なら兎も角、実の妹をお姫様抱っこするのは恥ずかしい。だから今回は俵担ぎにしたんだけれど、気になる事が一つ……。



「リアス、ちょっと重くなったけれど太っ、たあっ!?」


「……そんな訳無いでしょ。聖女の仕事の帰りだったからコルセットやら装飾品やら暗殺防止に中に着込んだ防具とかで重くなっただけよ。お兄ちゃんの馬鹿ー!!」


 最初に背中に叩きつけられた拳の衝撃。ぐふっ! まだ熊の方がダメージが軽そうだ。僕に抱えられたままの状態でリアスはポカポカと背中を殴って凄く痛い。これ、洒落にならないぞっ!? 痛い痛いっ!


「ごめん、ごめんったらー!」


「ふふふ、仲がよろしいですね。でも若様……妹相手でもレディに対して太ったとか紳士失格ですよ?」


 はい、反省してるから助けて下さい。え? 駄目? そんな~。





「てな訳でメイド長にリアスの勉強を見てもらいたいんだけれど」


「承りました。テストに支障がでない程度に睡眠時間を削って赤点だけは回避……いえ、平均点以上は取らせてみせましょう。例え姫様に地獄を見せたとしても。ええ、私にお任せ下さい」


 即座に逃げに走るリアス。残念だったね。メイド長から逃げられない。光属性の魔法で強化したリアスは即座に捕まった。決して逃げられない。


「お、お兄様の鬼! メイド長の悪魔!」


「悪魔とは失敬な。邪神なら受け入れますので言い直しを要求します」


 僕にだって最後の追い込みがあるし、リアスの勉強を誰に見て貰うのが一番かと考えた時、浮かんだのはメイド長。幼い頃から屋敷に居るんだけれど、何でも出来るから本当に頼りになる。例外として容赦は一切出来ないんだけれどね。



 でも、何時も誰もがメイド長って呼んでいる彼女の名前が思い出せない。



「じゃあ、僕は行くけれど……メイド長って名前なんだっけ?」


 まあ、今更教えて貰うのも失礼な気がするんだけれど、知らないままなのっても気持ち悪い。だから助けを懇願するリアスは見えない事にして会話を振る。ごめん、後日埋め合わせはするからさ。それに勉強は君の為だから。


 僕の問い掛けにリアスを部屋に引っ張り込む動きを止めたメイド長は笑うんだけれど、これって誤魔化されるパターンだ。どうも彼女は自分の事を秘密にしたがる。


「女には秘密が必須なので教えません。……でも、若様と姫様が世界を救ったらお教えすると約束しましょう」


 ほら、矢張りね。それにしても世界を救えとか、無茶言うなあ。今は世界の危機なんて表面化してないのにさ。


「では、その日まで頑張って下さいね。名前も歳もそれまでは内緒です」


 

 うーん、本当に謎だらけの人だよね、メイド長ってさ。名前教えないって何なのさ……。

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