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ギヌスの民 ④

「あー、頭がクラクラする。こんなのは久し振り……でもないか」


 シロノの太股による拘束から抜け出した僕は受けた衝撃にフラつきながらも立ち上がる。今のでちょっと首を痛めたかな?


「私並の強者、居る? レナス、私より遙かに格上。手加減、凄く苦手」


「随分と楽しそうに笑うね。魅力的で惚れちゃいそうだよ。まあ、それは冗談として、妹が君より強くてね。組み手の時に何度もこんなダメージを受けてる」


 随分と自信があるのか自分の与えたのと同じダメージを与えられる相手に興味津々って感じのシロノだけれど、甘いとしか言えないね。実際、レナスの娘であるレナだってこの程度のダメージなら与えて来るんだからさ。


「……そうか。お前との戦いの後、彼奴とも戦いたい」


「おいおい、止めておきなって。君よりリアスの方が強いから」


「……何?」


 僕の発言に聞き捨てならないって感じでシロノが睨んで来る。この手のタイプは自分の強さに誇りを持っているし、彼女はそれが変な方向に行って他人を見下しているタイプだ。だからこの程度の挑発に乗って来る。


「そして僕はリアスよりも強い。要するに君は格下の格下って事だ」


「……そうか。減らず口、減らしてやる」


 怒りと共に向かって来るシロノ。さっきよりも速度は上だけれど動きが悪い。ダメージと獣化を進めた事で疲労が蓄積、そして怒りでだろう。イナバさんが呆れ顔だから悪い癖って所かな? リアスと同類かあ。可愛さならリアスのあっしょうだけれどさ。



「もう終わらせようか」


 シロノの突進に合わせて僕も跳躍からのドロップキック。向こうは咄嗟にさっきの魔法を使ったけれど、即座に解除してやった。


「なっ!? ぐっ!」


 胸部に深々と突き刺さる両足。でも巨乳の弾力で威力が軽減されたのか地面に叩き付けても直ぐに起き上がるシロノ。だけれど反撃に出ようとした足が崩れ、僕に接近させる隙を見せた。


 腕を真横に伸ばし、シロノの首に絡ませる様にして振り抜く。この技の意味は”投げ縄”。分かり易く言えば……ラリアット!

 防御する暇も与えずに振り抜けばシロノの体は床へと叩きつけられ板が激しく割れる。それでもシロノは倒しきれない。即座に起き上がる事は出来ないのかその場で転がって起き上がろうとした時、僕は彼女の足を踏み台にして頭を全力で蹴り抜いた。


「シャイニングウィザードだったっけ? 確かそんな技名だった筈。って、マジか……」


 今度こそこれで決まったと思ったのに蹴り飛ばした先でシロノはフラつきながらも起き上がる。目を見れば殆ど意識が無い状態。意識の最後の一欠片を唇をかみ切った痛みで掴み取り、唇から垂れる血を拭こうともしない。


 これが戦闘民族であるギヌスの民の戦士か。僕は少し彼女に尊敬の念さえ抱いた。ああ、それでも負ける気はしない。僕も結構なダメージを受けたけれど、リアスが黙って見ているんだ。あの子の前で僕は負けられない。だって頼れる自慢のお兄ちゃんなんだから!


「これで決着にしようか、シロノ。もう一度言うよ。僕の方が強い。だから勝つのは僕だっ!」


 拳を振り上げて叫べば返事の代わりにシロノも拳を振り上げて互いに搦め手無しの只単純な直進からのストレート。腕が交差し、僕の拳はシロノの頬にめり込み、彼女の拳は僅かに届かない。ほんの僅かなリーチの差が勝負を決し……いや、侮るな。彼女は、シロノはこの程度じゃ終わらない。


 拳に伝わる押し返す力。もう気絶してるのと同じだろうに動きを止めず、僕に向かって体当たりをかまそうとして来る。気迫に圧されそうになるのを奥歯をグッと噛みしめて堪え、そのまま強引に振り抜いた。


「これで今度こそ終わりっ!」


 シロノは派手に吹っ飛んで、吹っ飛ぶ直前にシロノが放った蹴りが掠った鼻先から血が出ている。後少しで僕も終わっていたなと思いつつ、僕は倒れたシロノの姿を眺めながら呟く。吹っ飛ぶ直前にさっきから決まったと思っても動けたけれど、今度はどうやら終わったみたいだね。仰向けになって転がっていた彼女のウサギの耳が消え去ったし、スカートから飛び出していた尻尾も消えたみたいだ。


「ほらね。僕の方が強かっただろう?」


 勝ち誇って笑みを浮かべる僕だけれど、正直言って限界です。いや、彼処まで格好付けてギリギリの勝利とか情けないから必死に堪えて居るんだけれど微妙に膝が笑っているし今にも意識が飛びそうだ。多分今何かあれば気絶するんだろうって具合。まあ、もう何もないんだろうけどさ。


「あの魔法を使いたい気分だよ……」


 ゲームの僕もこの僕にとっても最大最強と言える魔法。その効果は”対象の状態を最善の状態に保つ”。負担が大きいから僕は弱体化する上に自分には使えない。更に対象は最大一人。

 効果時間は長いし、自分に使えれば便利なのに、どうして僕に使えないんだよ。ゲームのイメージのせいで自己暗示でも掛かってるのか。


 ……駄目だ。頭が働かない。ちょっとダメージが大きいや。でも、少し休めば強がりを続けられる、筈だったのに……。



「やったわね、お兄ちゃん!」


 僕の目の前には兄の勝利に興奮した様子の妹が喜びの余りに抱き付いて来る姿。その勢いは多分獣化二段回目のシロノよりも少し下位で、避けられる距離じゃない。避けられても避けないんだけれど。だって妹のハグを拒絶する兄が何処の世界に居るって言うんだ。


「でも、どうにかして欲しかった……ぐふっ!」


 本人には一切の悪意が存在しないヘッドバッドを胸に食らい、僕は抱き止めながら倒れ込む。その時、思わず呟きながら妹を止めてくれなかったレナスを見たけれど、その目が語っていたよ。



 ”強がりを通したいなら通せる強さを身に付けろ”、か。もっともなんだけれど、相変わらず厳しいなあ。幾ら期待している結果でもさ。


 気を失う寸前、倒れ込んで頭を打つのを防ぐ為か一瞬で背後に回り込んだマオ・ニュに受け止められる。こっちは僕の勝利を普通に喜び、倒れるのを普通に心配している顔だ。

 この人、スイッチさえ、スイッチさえ入らなければ本当に厳しいけれど優しい人なのにね……。




 本当にお祖父様への忠義心が関わりさえしなければ……。




「あらあら、強がりを通そうとしちゃって、ロノス君も矢っ張り男の子ですね。さて、お休み出来る場所まで運ぶとして……リアスちゃんにはロノス君が起きるまでお説教ですからね」


「は、はい!」


「そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。レナスと違ってお説教程度で御館様の孫に手は出しません。怖がるなんて心外ですよ。御館様の不利益になれば殺しますけれど、拷問みたいな真似もせずに楽に殺すと何度も言っているでしょ?」


「いや、何度も笑顔で殺す殺す言ってりゃ餓鬼は怯えるだろ。アンタって本当にさあ……」


 この時の様子を後から聞いたんだけれど、レナスが呆れている理由を全く理解してなかったのかマオ・ニュは首を傾げていたらしい。普段は人が良さそうで穏やかなのに、任務であれば無力な子供でさえ容赦なく殺す、しかも何時もの表情のままでだ。


 お祖父様は”魔王”と呼ばれ、レナスは”鬼神”、そしてマオ・ニュの二つ名は”死神”。うん、本当に怖い人だよね。






「……うん。本当に困った」


 さて、気を失った僕だけれど大した時間経過も無く復活。後は用意された食事の席で親睦を深めるだけで、それは別に良いんだ。だって今回の顔合わせは将来的に力を貸して貰うからだから。

 だからシロノが僕に勝負を挑んだのは結果的に良かったんだろうね。戦闘民族には力を示すのが一番らしいしさ。



 でもさ……。




「我が夫、これも食え」


 なんかシロノがベッタリしているんだけれど、幾ら何でも態度が違い過ぎるよねっ!? 僕に横から抱きついてスプーンでスープを掬って僕の口に近付ける彼女の顔だけれど、レナが偶に向けて来たのと似た表情だ。こ、怖い……。


「えっと、未だ君が僕と結婚すると決まった訳じゃないんだしさ……。確か次の族長とって感じだよね?」


「私、若手最強。ロノス、強い。私も、強い。二人の子、強くなる。故に問題無い」


 答えになって無いよねっ!? 族長、強さ以外にも必須な物が有るんじゃ……。向けられた真顔に軽く恐怖を覚えた僕だけれど、この後に風呂で襲われてトラウマを植え付けられる事を知る由も無かったんだ……。

過去編、もうちっとにするか続けるか迷う

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