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ギヌスの民 ③

 私、弱い奴が嫌いだ。ギヌスの民、強い。それ以外、弱い。故に私はギヌスの民以外は嫌い。


「結婚相手? 嫌、断る、拒否」


「ちゃんと話を聞きなさい」


「了解。私、母の話ちゃんと聞く」


 ギヌスの民、昔は悪い集団だった。暴れて暴れて最後には故郷を追放されて、行き着いた先は仲の悪かったこの大陸。其処でも傭兵として戦って暴れて殺して、戦いが終わると次の戦場を求めてさ迷って、昨日力を合わせた相手を殺すのも躊躇わない。血の香りと血湧き肉踊る戦いが有ればそれで良い……筈だった。


「疲れたんだよ、そんな日々にな。ドラゴンやグリフォンのような大空の支配者でさえ翼を休め寛ぐ住処を持っている。だが、ギヌスの民にはそれが無かった。昔は頻繁にあった小競り合いも収まり、戦いに勝利した次の日には敵になるかも知れない我々を求める者など居なくなり、逆に危険な者達として放浪を続ける日々が何代も続き、それでも悪名は消えてくれない。……そんな我々を受け入れてくれたのがこの国で、それを決めた恩人とナギ族の先代族長が関係を深める為に結婚した。族長故に共には暮らさなかったがな」



 それは知っている。次の世代、互いに女ばかりで結婚しなかったのも、その受け入れた男が強かったのも。


「だから、次は私? 嫌、断る、却下、拒否、拒絶。私、認めない。その男、強い。でも、孫も強いとは限らない。私は強い。弱い男、相応しくない」


 鬼も獣人も、強い相手求める。それ、自然の摂理。強い私、強い男を好む。弱い奴、私を抱く資格無い。母、それが何故分からない?


 他の皆も同じ。獣人の力、普段は抑えている。確かに消耗する。でも、これは戦う為の力。余力残す、分かる。全く使わない、不可解。せめて耳と尻尾や角、常に出しておくべき。ナミ族最強の戦士のレナス、そうしている。鬼族も角出すの疲れる。でも、鍛えれば良いだけ。



「何というかお前は昔のロギスの民の血が強く現れたらしい。……だが、侮るな。レナス直々に鍛えた男だ」


 私、同期の中で最強。大人の戦士にも勝てる。故に私の願い、聞き入れられた。


「まだ正式に決まった訳じゃないし、別にお前じゃなくちゃ駄目って訳でもない。繋がりを考えれば次期族長候補のお前が最適なんだが……今度の顔合わせの時に戦え。その結果次第で他の者を選ぼう」


「母、感謝。私、絶対に勝つ」


 ギヌスの民の血を引いていても、優秀な戦士の指導を受けても、民とそれ以外の者では大きく違う。何一つ、負ける要素は無い。



 ……その筈だった。





「……ふう。まさかこれ程だなんて」


 只の顔合わせだって聞いていたのに問答無用で始まったシロノとの戦い。ハイキックが効かなかった事に驚いて生じた隙を突いて床に突き刺したんだけれど、多分この程度じゃ終わっていないだろうね。

 爪を立てられた腕をさすりながら改めて彼女を観察する。床からはみ出したのは腰まで届く長さの雪みたいに白い髪。三つ編みにした部分を腰まで伸ばし、他の部分は短い。


 服装は母親で族長のイナバさんと同じ民族衣装だけれど塗料で褐色の肌の足に何か模様を描いている。……あっ、駄目だ。スカート部分の丈が短いのに逆さまになってるせいでめくれそうになっているし直視出来ない。だってこの子、ハイキックの時にチラッとだけ見えたんだけれど凄く際どい奴を穿いてるんだもん。


「……むぅ。ちゃんと刺さったら良かったのに運の良い奴ね。お荷物に助けられるだなんて」


 そして観戦していたリアスが悪態を吐きながら睨んだ部分、彼女の豊満な胸によって上半身を突き刺す予定だったのに途中で止まってしまったんだ。今は胸が半分より少し上の部分まで床に刺さっていたんだけれど、ジャーマンスープレックスが決まった時、凄い弾力の物に邪魔されるのを感じた。触れる物を弾き飛ばす程の弾力だなんて触り心地がさぞ……じゃなくて只の脂肪の塊じゃなくって筋肉も結構な割合なのかな? 彼女も引き締まった体だし。


 そんな風に考えているとシロノが足をジタバタと動かし、刺さった上腕部の辺の床板にヒビが広がって行ったかと思うと柔軟な動きでブリッジの姿勢になったシロノが床板を割りながら起き上がって来た。結構分厚い板に刺したのに頭から血を流していない頑丈さに驚いたけれど、更に驚いたのは僕に向かって頭を下げて来た事だ。


「無礼、謝罪する。お前、強い」


「別に気にしていないよ。強く見られないってのは前からだしさ」


 色々あったけれどこれで和解して平和に顔合わせを、って行かないか。流石にこれで負けを認める筈が無いよね。

 頭を上げた後、シロノは改めて構えたんだけれど、肘と膝から手首足首の辺りにまで白くフワフワの毛が生え、目が赤くなっている。


「獣化……」


 それは鬼族同様に獣人だけが使える魔法みたいな物。使用前は僕達ヒューマンと変わりない見た目だけれど、消耗を激しくする代わりに獣に近付く事で五感や身体能力を大幅に引き上げる。その他にも何の動物になれるかで付与される能力に違いがあるって話だ。


「……知ってた?」


「獣人には知り合いが居るからね。彼女の場合は常に耳と尻尾が出ている状態だけれど君は……」


 その知り合いことツクシの話じゃ常時獣化状態の人は消耗も身体能力の底上げもそこそこらしい。目の前の子はそんな感じじゃないって思っていたけれど、段階を進められるって事は正解みたいだ。


 ……あれぇ? つまりは常時強化魔法を使っているのと同じなんじゃ。戦闘狂か、この子。


「君、じゃない。シロノ。私の名前、シロノ。ロノス、お前は強い。名前で呼べ」


 ”君”って呼んだ事に少し不満そうにしているし、嫌われた状態からは前進だ。これで戦いは止めてお茶でもしようとかなら助かったんだけれど、敵意は消えても闘志は更に燃えているし土台無理な話だったか。


「じゃあ、シロノ。君はなんで獣化状態を保っているんだい? 解除不可能って訳じゃないんだろう」


「常時戦場、それだけ」


「あっ、うん。納得」


 だよね、多分そんな所だろうと思ったよ。レナスなんて腕を組んで頷いてるし、リアスも真似しようかって迷っている感じだし。……さて、余所見はこの辺にしてシロノに集中しよう。正直言って望んで始めた戦いじゃないし、勝ち負けに拘る気は無いんだけれどさ。



「妹と師匠の前で情けない姿は見せられないよね。じゃあ、さっさと続きをしようか。勝つのは僕だけれどね」


「違う。勝つの……私!」


 僕が拳を構え勝利宣言をするなりシロノは四つん這いになり、叫ぶなり全身のバネを使って飛び掛かる。空中で身を翻し足を僕の方に向けて膝を曲げた。四つん這いになった時に強調された胸の谷間に思わず見入って……じゃなくて様子を見ていた僕に向かい両足を力強く伸ばす。


 渾身のドロップキック、咄嗟に間に入れた腕に衝撃が走り僕は数メートル後ろに下がった。速度も力もさっきまでとは桁違いか。


「次で最後……」


 僕を蹴り飛ばした勢いで後ろに飛んだシロノは着地するなり再び四つん這い。またドロップキックが来る! さっき防御に使った腕が痛いし、そう何度も受けるのはちょっと不味いか……。

 

「二度目は通じないけれどさ」


 タイミングは一度見た事で掴んでいる。真横から足を掴んで投げてやるよ。空中で其処までの速度を出していたんじゃ減速も急な方向転換も出来ないからね。


「”エアウォーク”」


 あっ、獣人って鬼と同じで魔法が苦手だから油断していたよ。僕の目前で飛び跳ねた事で足を掴もうとした手は空振り、シロノは僕に向かって飛び掛かると太股で顔を挟み込む。僕は太股を掴んで引き剥がそうとしたけれど、それよりも早くシロノはバク宙の動きで僕を巻き込んで回転、今度は僕が頭から床に叩き付けられた。



「立て。終わっていない筈だ」


 うん、終わっていないけれど一つ訊かせて。君、ミニスカートでフランケンシュタイナーって恥じらいとか無いの? 僕の可愛い妹もお淑やかさとか割りと無いけれど……。

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