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忍者には学んで欲しい

 今日この瞬間程に時属性が使える事に感謝したのは珍しいだろう。床に転がる夜の面々、そして胸をはだけさせて棒立ちの夜鶴とその胸を掴んだ僕。殆ど事故みたいな状況なんだけれど誰かに見られたら説明が困難な状況で突然開く扉。


 ドアノブが動く音を聞いた時、僕は既に動いていた。


「”加速(アクセル)”」


 最大速度を使っての急加速で夜鶴と夜達を回収、物陰に気絶した夜達を隠し、僕は指が服に絡んだせいで胸を掴んだままの夜鶴と共にベッドの反対側に身を隠す。頼むから気が付かないでね。


 ……誰が来たんだ? リアスには見られたくないし、レナならどんな解釈をするのか丸分かりだ。絶対自分も混ざろうとして、パンドラだったら説明すれば理解してくれる。レキアだったら何言われるか分からないし、メイド長だったらこんな状況に陥った不注意をお説教って所かな?


 下手に扉側を覗き込んで見付かっても厄介だし、耳を澄ませて来訪者が誰かを探った。



「あっれ? 誰も居ない。何か悲鳴が聞こえた気がしたんだけれど気のせいだった? アタイも気が弛んでるのか? ……まあ、ノック忘れたし、若様居ない方が助かったんだけれど」


 よし! ノックが無かったからメイド長とパンドラの線は薄いと思っていたけれどツクシで助かった! 猫の獣人だからか発達した聴覚で夜鶴の悲鳴を感じ取ったらしいけれど気のせいだと感じてか直ぐに出て行った。


「た、助かったぁ~」


 でも、ノックは忘れちゃ駄目だよ、ツクシ。マナーだし、メイド長に見られたら怒られるんだからさ。


 これで一息付けたし、次は今の状況をどうにかしようか。出来るだけ手に伝わる柔らかさや目に入って来る光景を意識せずに指に絡んだ網タイツを外し、また叫ばれたら困るので夜鶴の口を塞いで揺り動かす。


 ……胸がはみ出た女を物陰に連れ込んで口を塞いでいるって端から見たらヤバい状況だよなぁ。誰か来る前に起こさないと。声が聞こえたらツクシが戻って来るかも知れないし、声を出さずに肩を揺らす事数度、目が覚めた夜鶴は自分の状況を察したらしい。



「……」


 いや、恥ずかしそうに目を逸らしてから目を閉じないで。誤解だから。何となく誤解されているのは伝わって来てるから。アレでしょ? 僕が君を抱こうとしているとか思っちゃったんでしょ? それで身を委ねようとかって感じだろうけど違うからね?


 まあ、誤解はさっさと解くとして今は服を戻さないと。幸いにも彼女の服は肉体と同様に魔力によって形成した物だから出すのも消すのも楽だし、そっと耳元で囁く。自分で服をどうにかしてって、ね。


 夜鶴は静かに頷いたし、もう大丈夫だろう。口を塞ぎ続けるのも気まずいから手を離そう。僕が口元から手を離すなり夜鶴は何かを言おうとするけれど、口元に指を当てて静かにする様に指示すれば軽く頷く。さて、これで解決だ。




「……これで解決だと思ってたのに」


 何を勘違いしたのか床に寝ころんで目をキュッと閉じた夜鶴は服を全部消し去って、両手だけを僕に向かって伸ばしている。

 あっ、駄目だこりゃ……。



「夜鶴、夜鶴。違うから。全部事故だからさっさと服を戻して。……あっ」


 今更だけれども僕が戻せば良かったよ。此処に隠れるのに使った時属性の魔法を使えば楽勝だったのに、どうやら僕も状況に混乱してたみたいだ。


「……ち、違うのですか?」


「うん、違うから……」


「あわっ……」


 僕の指摘に再び真っ赤になった夜鶴は服を戻すのも忘れちゃって……危ないっ! また叫びそうだよ。


 だから静かにしようね? 僕は咄嗟に叫びそうになった夜鶴の口を再び塞ぐ。やれやれ、向こうに行ったみたいだから声を出すのは大丈夫だけれど大声出すのは止めて欲しい。


「大声を上げない。もー。夜鶴は仕事以外じゃうっかりしているんだから。可愛いとも思うけれど、特に今は勘弁して欲しいな。じゃあ、服を元に戻そうか」


 ベッドの陰に隠れて全裸で床に寝転がる夜鶴と覆い被さって口を塞ぐ僕。疚しい事は何一つ無いんだけれど、他人に見られたくない光景だ。

 言い聞かせれば夜鶴も落ち着いたのか直ぐに服を元に戻し、僕も彼女の上から起き上がる。


 何というか、今まで抱きつかれたりはしたけれど、こうやって女の子に覆い被さって密着したのは初めてだからドキドキして来た。

 多分僕が手を出そうとしても夜鶴は抵抗せずに受け入れるんだろうな……。


「それでお願い事って何なのさ? ちょっと時間使っちゃったし、余り時間が掛かると不審に思われそうだから手短にするか時間を置いて話す方向で頼むよ」


 まあ、興味は有るし、そんな欲望を向けてみたいとは思う。でも忠誠心に付け込むみたいな真似はちょっとな。




 ちょっとだけ理性が飛びそうになったのは絶対に黙っておこう。


「えっとですね、主殿は今後戦いに巻き込まれそうですし、私に新しい武器を与えて下さいませんか?」


「ん? 新しい武器が欲しいの? だったら勿体ぶらなくても買って上げたのに。戦力強化は必要経費だし、君が強くなるのは頼もしいからね」


 夜鶴のメイン武器は本体である大太刀だ。長さが長さだから取り扱いは難しいけれど、刃先さえちゃんと力の方向を向いていれば障害物なんて空気同然に切り裂く切れ味を持っているんだ。

 でもさ、手裏剣やらクナイみたいに体同様に自分の魔力で作り出している武器だって有るし、自分以外の武器が欲しいってのは別段変な話じゃない。


 寧ろ僕としてはお願いされて嬉しいよ。本当に役立って貰ってるんだからさ。


「えっと、本当に宜しいのですか?」


「夜鶴の本体の性能は僕が知っている。でも、君が必要と思ったなら、その判断も信じる。それだけさ」


 この様子じゃ自分の本体やら普段使っている投擲武器があるから渋られるとでも思ったのかな? 自分の性能を信じていないのかって言うとでも思ったんだろうけれど、そんなの杞憂なのにさ。


「じゃあ、明日にでも彼の所に行こうか。君を打った鍛冶屋の子孫であり僕やリアスがお世話になっている”リュウ・アランド”の所にさ」


「……うっ。彼…ですか……」


 僕の言葉にホッとした夜鶴だったのに、リュウさんの名前を出した途端に不安そうな顔をしちゃって、相変わらず苦手なんだな……。


 まあ、依頼するだけだから直ぐに終わるし問題は無いでしょ。あの人って確か今は国境近くの街の筈だったよね。じゃあ予め連絡しておこうか。今出せば夜の便に間に合って昼前には届くだろうしさ。



「大丈夫だって。じゃあ手紙出しておくから明日学校から帰ったら一緒に行こうか。……ついでに街でデートでもする?」


 おっと、軽口が出ちゃったけれど夜鶴の事だから真っ赤になって……。


「い、行きます。したいです、デート……」


「あっ、うん。楽しもうか……」


 確かに照れているんだけれどオーバーに反応するでもなくモジモジしながらも僕の目を見て来る。……これ、僕の方が恥ずかしくなって来た。


 そうか、デートかぁ。夜鶴の場合は家同士の関係を考えなくて良いから気楽そうだな。うん、楽しめそうだ……。


 軽口から始まったデートの予定に僕は思いがけず胸を弾ませる。



 そして次の日、場面は戻って国境近くの街。其処に在るリュウさんの工房に僕と夜鶴は足を運んでいた。


 古めかしい工房の中からは鎚の音が聞こえ続けて居るから目当ての相手は仕事中らしいし、邪魔しても悪いからお土産でも先に家の方に持って行こうってなった僕達は併設された小さな家に向かう。


「何というか相変わらず可愛らしい家ですね」


「リュウさんは子煩悩な人だからね。露骨に態度には出さないけれど、付き合っていたら色々分かるよ」


 ピンクの屋根や小さな庭に設置された遊具。工房とはまるで別人の家みたいな建物はまるで人形の家みたいで主の姿を思い浮かべるとギャップが凄い。


 さて、玄関先で立ち尽くすのも失礼だし呼び鈴を鳴らそうか。青い丸みを帯びた呼び鈴を鳴らして呼び掛けると黄色い扉の向こうから急いで向かって来る足音が聞こえて来た。



「あれ? 妙だな……」


 出て来るであろう相手を思い浮かべて疑問を抱く。



「……どうも」


「やあ、久し振り」


 実際、扉を開けて顔を見せたのは物静かな雰囲気の少女だった。



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