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舞踏会

三章完!

 生徒の出身国である四つの国の特色に合わせて情熱的だったり軽快だったり厳かだったりゆったりとしていたりと熟練の奏者達による演奏は聞き惚れてしまいそうな程に美しい。絢爛豪華に飾られた大広間は音楽同様に国に合わせた装飾がされていて、全くの別物なのに調和を見せている。


 着飾った生徒達、テーブルに並ぶご馳走、忙しくも慌ただしさを見せず優雅に動き回る給仕達。今日は待ちに待った新入生歓迎の舞踏会当日だ。


 普段は会う機会の限られている上級生達も一年生達も精一杯着飾って、会場の装飾に負けじと色取り取りの衣装で身を包む。但し、当然だけれども黒いドレスの人は居ないんだけれども……。


「黒いね」


「ええ、黒いわね。それと少し臭いわ」


「うん。臭いよね」


「香水の臭いをプンプンさせて人が食べてる所に近寄るなっての」


「そっちかぁ……」


 決まっていたパートナーと共に踊り、その合間に料理に舌鼓を打って他の生徒を踊りに誘う。楽しい楽しい心躍る舞踏会。この機会に共に学ぶ仲間達との交流を……とは建て前で、実際は打算やら嫉妬やら策謀が渦巻いているのが貴族のパーティーだ。


 この場には大まかに分けて三種類が存在する。取り入って来る者達の中から役に立ちそうな者や自分の自尊心を満たす為に従える者を探そうとしている奴と、他を蹴落としてでも上の立場にいる相手に取り入ろうとする者達。


 入学前から既にグループは有る程度形成される物だし、他の機会として考えられる貴族主催のパーティーだって招待状を貰える関係じゃなかったら参加すら不可能だ。でも学生が集うこの舞踏会みたいに学園内でならチャンスが幾度が訪れる。

 特に後継者でも予備ですらない三男以降は婿入り先だって探さなくちゃ駄目だし、先ずはお目当ての相手の取り巻きに近づいて目当ての相手との顔繋ぎをって感じか。


「あっ、袖の下を渡した」


「あっちじゃ体を密着させているわね」


「大変だよなあ。俺達は無関係で良かったぜ。後は近付いて来るのが居なけりゃ最高なんだがよ」


 そんな中、僕達は三つ目のグループに属している。大公家の次期当主のフリートやその婚約者でありリアスの取り巻きの一人であるチェルシー、そして僕達は家の力も関係する家との繋がりは既に十分で、向こうから挨拶に来るのを待って対応する身分だ。

 将来の為に同等の相手と仲良くはするけれど自分から行く訳にもいかないし、別にこの機会じゃなくても構わない。

 だから時折対応するだけで食事に踊りをとパーティーを楽しんでいたら良いんだ。


「舞踏会かあ。俺達は何度も参加して飽きてる身分だしよ。……適当に抜け出して街で遊ばねぇ? ちょいとカジノで小金をばらまいても良いし、酒場の歌姫が最近評判なんだってよ」


 だから退屈そうにしているフリートに僕も内心では賛成だ。僕達にとって必要不可欠でもなければ珍しい物でもない。寧ろ仕事として普段から参加しているパーティーみたいに既に領地を経営している大人相手に挨拶する必要も無いしさ。

 ……てか、家の力が近い相手の殆どは既に知り合いだし他のパーティーで頻繁に会う。僕も屋台巡りとかしたいんだけれど。


「駄目よ、フリート。こうやって出席しているのも義務の内よ。リアス様もせめて取り繕って下さい。聖女としての仕事の時は出来ているじゃないですか」


 だよねぇ。チェルシーは言い出しっぺのフリートや声には出さなくても酸性だって表情で言っているリアスを叱りだした。


「へーい」


「はーい」


「ちゃんと返事をする! ……もう!」


 ありゃりゃ、チェルシーったら大変だね。将来的にフリートに嫁ぐ彼女だけれど、今は幼い頃からの友人であるリアスのお目付役も任されている。彼女のお兄さんもそうだけれど苦労性な所は同情するよ。

 でも二人共ちゃんと言う事は聞くんだよね。それだけ彼女が慕われているって感じかな?


「ご苦労様、チェルシー。次の演奏が始まるし踊って来たら? それともお兄さんに挨拶して来る?」


 僕が視線を向けた先ではチェルシーのお兄さんである”ジョセフ・クローニン”が他の上級生に指示を出しつつ妙な事が起きないか目を光らせている。

 策謀渦巻く舞踏会だ。ちょっと気苦労があるみたいで窶れていたよ。……ちゃんと寝ているのかな?


 母親譲りのオレンジ色の髪をしたチェルシー()と違って婿養子である父親譲りの焦げ茶色の髪の毛と瞳を持つ少々地味で平凡な彼は前に会った時よりも痩せて見えた。


 何せ決闘騒ぎから始まって学園ダンジョンには本来出現しないモンスターの出現、僕達兄妹やフリート等々各国でも上位の家柄の子息子女の入学や、その他諸々の貴族の学校ならではの問題。


 四カ国の貴族が集まる学校で学園が在る国以外の出身なのに生徒会長に選ばれるだけあって優秀で人望も有るんだけれど、ちょっと妹以上の苦労人気質だ。


「おっ、そうだな。義理の兄貴になるんだし、ちょいと顔見せて来るか」


「だからアンタから行かないの! 私だけで行ってから連れて来るまで待ちなさい。それに今は生徒会の仕事中よ。ほら、踊りに行くわよ。……ちゃんとリードしてね?」


「おう。俺様に任せておきな」


 そんな兄を気遣ってか考え無しに近付いて行くフリートの腕を取って連れて行くチェルシーを見送り、顔を向けずに周囲を観察する。

 チャンス到来って所かな?



 さて、今回の舞踏会は後から誘われるケースを除いて基本的には事前に選んだパートナーと踊る事になっている。余り物は担任であるマナフ先生が組み合わせ、奇数だから出た余りは先生と踊る。

 僕はアリアさんと、リアスはアンリと踊る事になっていた。そう、なっていた……。



「まさか二人揃って体調を崩すなんてね。色々大変だったって聞いたけれど、アリアは大丈夫かしら? お兄様に迷惑を掛けたとか言い掛かりを付けられない?」


「うーん。その辺は僕がどうこう出来る範囲じゃ無いからね。あまり干渉が過ぎても困るしさ。……国王は女子寮にでも行ったのかな? 急に予定変更だなんてさ」


 そう、二日前の一件で冷たい池の中に居たアリアさんは風邪を引き、アンリは無理に力を引き出した影響で杖無しじゃ起き上がって歩けない程の倦怠感に襲われて舞踏会を欠席している。


 ……更に言うならば突然顔を出す事が決まっていた国王は急な予定変更で来ない事になった。顔だけでも覚えて貰いたかった人達は残念がっているけれど、僕達と息子であるルクスは中止の理由も今何処に向かって居るのかも分かっている。


 女子寮だ。娘かも知れないアリアさんに会うべくお忍びで国王が女子寮に向かっているんだ。


 本来は一部のルートでのみ発覚する彼女の出生の秘密だけれど、会いに行った結果がどうなって、今後にどう関わるのか全くの未知数だ。



「あ、あの。クヴァイル嬢。宜しければ私と一曲……」


 ああ、矢っ張り来たか。相手が同時に休んだ僕達をどうやって割り振られるか先生は悩んだ結果、当たり障りの無い答えを出した。要するに特定の家と組ませて角が立つ位なら兄妹で組ませようって事だ。


 そして僕達は舞踏会に乗り気じゃ無いから踊ってなかったし、それを見て兄妹で踊るのは嫌だと思ったのかリアス目的で寄って来るのが数名。


「……ルクスは流石に対応で忙しいのか。でもこっちを見ているし、王国の貴族への牽制としては十分か」


 いやいや、リアスに惚れちゃったマザコン王子だけれど、パートナーを放置して寄って来る悪い虫を減らしてくれたのには感謝しよう。



 でも、結局は無駄なんだよね。





「あら、駄目よ。だって私のパートナーはお兄様だもの」


 会場の明かりを金の髪に映し出し、純白のパーティードレスを着たリアスは優雅に微笑みながら僕の手を取る。そう、僕達は別に兄妹で踊っても構わないのさ。




「じゃあ、行こうか」


「ええ、リードはお任せするわ」


 僕達が知る物語は僕達の影響もあって大きく崩れ出した。でも、人生なんて何が起きるのか全くの不明なのが当然だ。向かう先の闇が濃くても僕達兄妹の絆が有れば、仲間が居れば乗り越えられるさ。



 僕達の祖国である聖王国調の音楽に合わせて僕達は踊る。さてさて、今後どうなるのやら。でも、今はこの時間を楽しもうか。



「頼りにしているよ、リアス」


「ええ、私もよ。お兄ちゃ……様」


 窓から外を見れば満天の星空。僕達の先行きは明るい……のかな?


 



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