分かり易い者達
「良いか? さっきのは事故だ。戦場で服が破れて肌が見えたとかそんな感じの不可抗力でしかない。つまりは僕達の友情に何一つ影響を及ぼしはしない。大体、キスを親しい相手との挨拶程度にする風習だって存在するのに大袈裟に騒ぐ事でも無いだろう。つまりは何も無かったのと同じだ。異論は有るか?」
タマに跳ね飛ばされた結果起きてしまった事故によってキスをしてしまった僕とアンリ。普段は性別なんて互いに気にしない仲だけれども、流石にキスなんてしてしまった日には恥ずかしいと感じてしまった。
女の子として意識はしていないけれど要所で普段はされないであろう女の子扱いをしている僕だけれど、こんな事をする関係になるだなんて想定した事が無かったからなあ。パンドラやレナに色仕掛けを受けた時とは感じる物が変わって来ていた。僕、想定外に弱いよね。
でも動揺を隠せないのはアンリも一緒みたいだ。だって息継ぎもせずに早送りで意見をぶつけて来るだなんてらしくない。軍人として厳しい訓練で心身を鍛えた彼女でも友人とのキスには耐えられなかったか。
うーん、男としての教育のせいで恋愛面が疎かになっていたのかも。
まあ、僕との間には恋愛面なんて無関係だけどもさ。互いに思春期だし、今後に尾を引くのは嫌だなあ。
「別にないけれど、アンリ、ちょっと早口になって・・・・・・」
「なっていない! 僕は冷静であって、焦る必要性が微塵も感じられないからな。そんな事よりも少し熱い気がするんだが火力が強過ぎないか?」
それはそうとして、さも”自分は冷静ですよ”って口振りは頂けないよ。今は冷たい池に落ちた体を温める為に焚き火に当たっている所だけれど(濡れた服と体に付いた水は僕の魔法で解決済み。アンリが意識を取り戻した頃に封印が解けた)、アンリの顔が赤く見えるのは火のせいだけじゃ絶対にない。
互いにペットにもたれかかって体を暖めてるけれど、どうせだったら屋敷に帰って落ち着いて休みたいよ。
「さっさと終わらせて帰りたいからね。遅くなったらお祖父様にお叱りを受けそうだし、明後日は舞踏会だ。あんな冷たい池に落ちて体を冷やしたんだし風邪でも引いたら……あっ」
アリアさん、池に置き去りにしちゃったけれど大丈夫かな? ……ちょっと様子見に行こう。
「うん? 何処か行くのか?」
「いや、水浴びをしていたアリアさんの様子を見に行こうと思ってね。……いや、何なのさ、その目は」
「水浴びをしていた女の子の様子を見に行くのか。……水浴びの最中に遭遇したな?」
ギクッ! しまった。軽率な発言だったか!
急に立ち上がった事に怪訝そうにしているから答えたら言わなくても良い事まで言っちゃったよ。お陰でジト目を向けられちゃうし、何故か付いて来るし。
「君が水浴びの最中に再び遭遇しない為に同行しよう。君は親しくても出会ってそれ程経っていない間柄だし、性別を偽っていても同性の僕の方が遭遇するのに向いているだろう?」
”それに索敵の訓練を受けているから離れていても気配で何となく位置と様子が分かる”って付け加えてアンリも歩き出した。まあ、助かったのかな? 戦いの影響で池の水温が急低下したし今は流石に上がってるだろうけれど万が一水浴びを再び見ちゃったらなあ。
「それに……」
「それに?」
「い、いや、気にしないで……」
裸で抱き付かれてキスまでされたから気まずい、そんなの言えないしね。
「成る程。何かあったのか。うん、君の事だし……聞かないでおこうか」
「君の中での僕の認識がどうなってるのかは気になるけれど知らない方が良さそうだ。友人であるだけで十分だよ」
「結構だ。僕もそれが良いから言わせないでくれ」
こうやって軽口を叩き合える位には戻ったし、アリアさんの水浴びに遭遇して良かったのかな? いや、変な意味じゃなくて。確かに眼福だったし、抱き付かれた時に柔らかいって思ったけれど…。
でも、アリアさんって……。
「痩せ過ぎだよね。胸以外は……」
「おい、このドスケベ。せめて僕が居ない時に呟け」
あっ、またしても口が滑った。そして僕に向けられるアンリの視線は池の水よりも冷たかった。
「しかし君はあれか? 妹とは正反対の胸が好きなのか?」
「黙秘します」
アンリ、友人相手でも女の子に猥談を振られたら困るからね? ……圧倒的にツッコミが不足!
「因みに僕は人並みにはあるぞ。……最近育って来て押さえつけるのが大変なんだ。動きやすそうな君の妹が羨ましい」
「それ、絶対に本人には言わないでね? まっ平らなのを気にしているから」
まあ、確かに鎖帷子とサラシの下で窮屈そうに……いや、思い出すなよ、僕! アンリは友人! アンリは友達!
「……触ってみるか? 揉んでも良い」
「揉みません!」
「つまり触りはすると……冗談だ。偶には女の子らしい冗談を言ってみたくてな。君にしか言えないんだから勘弁してくれ」
「女の子としてどうかと思う冗談だったけどね?」
「……そうなのか? メイド達の猥談とかもっと凄いぞ? (禁止ワード)が(禁止ワード)とか、誰某の(禁止ワード)を友人数人で(禁止ワード)したとかな。顔が赤いな。少しは慣れておけ」
え、えげつない。友人の家のメイドの猥談えげつない! うちはメイド長が厳しいから少なくても僕に聞こえる範囲ではしないからね。尚、レナは除く。
「ご忠告痛み入るよ」
さてと、そろそろアリアさんが居た辺りだけれど……。
「あっ、来た。それに……」
「既に服を着ていて良かったな。それと背後に転がっているのは……」
声がしたかと思うと既に服を着ているアリアさんが手を振りながら駆け寄って来たんだけれど、その背後には巨大なモンスターの死骸が転がっていた。
……うん。今回のターゲットだね。この短時間でしかも無傷で倒したのか。彼女、強くなったなあ……。
最初はテュラ対策として強くなって貰いつつ原作で戦力になる人達と仲良くなって貰う予定だったんだけれども、まさか此処まで強くなってしまうだなんて。
……まあ、僕とリアスの行動の結果、既に原作なんて有って無い感じだけどさ。
「きゃっ!?」
「おっと」
足元を見ずに走っていたのか石に躓いたアリアさんを慌てて胸で受け止める。あっ、ちょっとズレて腕に胸が当たっちゃった。……気付かれてないよね?
「えへへ。助かりました。それよりも見て下さい! あのモンスター、私が倒したんですよ! 新しい魔法を思い付きまして、試してみたら思ったより強力でした。名付けて”ダークドレイン”です」
えっと、僕の記憶が確かなら最後の方に覚える魔法だった気が。いや、多分偶然同じ名前になっただけだね。
「それってどんな魔法なんだい?」
「相手に闇の触手を突き刺して生命力を吸収するんです。発動を継続しながら他の魔法も使えますし、自分を回復させられる便利な魔法ですよ」
はい、ゲームと同じだ。確か説明文じゃ”単体に継続ダメージを与え、自分の体力を回復させる”だったよね。流石は主人公に収まるだけあって成長速度が凄い……。
「うん、強くなったね。流石はアリアさんだ。僕も嬉しいよ」
アリアさんは抱き止めた後も嬉しそうな顔のまま離れようとせず、誉めたら更に喜んだ顔を見せて来る。この顔の何割かが演技なんだから凄いよね。ゲームの知識と見抜く特訓の両方が合わさって漸く見抜けるんだからさ。
僕は感心しつつアリアさんに視線を向ける。髪が少し湿っているし、風邪を引かないと良いけれど。
……にしてもこうも”誉めて誉めて”ってのが伝わって来ると犬の尻尾を幻視……うっ!?
「……どうかしましたか?」
「いや、逆レイプ未遂事件を思い出し……何でもないよ」
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