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男女の友情

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 ……さて、どうすべきだろうか?


 気絶から目が覚めれば周囲の状況が一変していた。地面には焦げ跡が残っていて、遠くには僅かながら霜に覆われた木が数本見える。更に付け足せば僕は木にもたれ掛かって眠った筈だが移動しているし、何かが起きたのは間違いないだろう。


 では、何が起きた? 焦げ跡はタマの電撃で説明が付くが春なのに霜が付着した木に対しては何らかの魔法だと思われる。広範囲に及ぶ氷魔法の余波だろう。

 しかし周囲は水溜まりが幾つか有るだけで霜は見受けられず、戦闘が起きた結果、周囲の氷は溶けたのだとしてもロノスもポチも火の魔法は使えない。


 ……そもそも僕が今の今まで目覚めなかった理由が分からない。これでも幼い頃からの訓練で何かあれば目覚められるんだ。友が側に行るからと気を弛ませて熟睡が過ぎたとは考えられない。



「……何か言えない事でも有るのか?」


 そして折れていたのに治っている僕の腕。当然ロノスは回復魔法は使えなかった筈で、新しく使える様になったとしても僕の問いかけに一瞬困り顔を見せたのは不可解だ。

 つまりは何らかの極秘事項が絡んでいるのだが、関連していそうな事には思い当たるのが一つ……。



 リュボス聖王国宰相ゼース・クヴァイル。戦場では槍術と火の魔法によって幾万の敵を屠った”魔王”の異名を持つ男であり、政務面でも破格の才能を見せる実質的な国の支配者。


 だが、既に成人した孫さえいるのに彼に老いた様子は無く、時偶に国内外から送られる刺客を単独で返り討ちにしているとの情報を耳にしている。

 もしや不老不死なのではとさえ噂される彼だが、その孫の一人は前代未聞の”時属性”の使い手だ。意識の有る相手には時間操作が難しく、遅くしたり速くしたりは可能だが体の時間を戻して回復させる等は不可能だと認識されているが……。



「……いや、別に良いさ。気を失っている間も君に助けて貰った気がするし、これで今回の事での貸し借りは無しだ。僕は何も知らない。それで良いだろう?」


「アンリ……助かったよ」


「お礼は良いさ。僕は何も知らないんだから理由が無い」


 そっと拳を突き出せばロノスが自分の拳を軽く当てて来る。父上は秘密を暴きたがっていたな。


 確かあれは王国に行く前日の事だ。食事の時にされた頼まれ事に僕は不満を隠せなかった。


「あの魔王の秘密を探るのですか? それも友との関係を利用して?」


 老いた様子すら見せないゼース宰相に対して誠しやかに囁かれる噂。彼は不老長寿を手に入れた、そんな馬鹿馬鹿しい噂だが、何せ孫であるロノスは誰も使えなかった時間を操る魔法の使い手だ。可能不可能は分かれていると聞くが、もしかしてと思う気持ちは否定しない。

 真実であれば自分も不老長寿をって考えるのもな。


「……父上、我が一族の家訓の一つは”己に恥じる事はするな”でしたよね? 僕にとって友情を利用するのがそれに反する行為なのですが?」


「う、うむ。そうであろうな。我が輩も姑殿に申し上げたのだが、一応頼むだけ頼めと引き下がらずにな」


「ではこれで一応頼みましたし、あの人には父上からお伝え下さい。婿養子の身では厳しいとは存じ上げますが、今の当主は父上ですよ」



 勘弁して貰おう。上の方からも何か言われた様子だったが、僕は今は学生の身分だし今は友人を優先したいんだ。それに下手に踏み込んで友人関係を失うだけで済まされず”魔王”に目を付けられるだなんて勘弁願いたい。


 肩を竦めてフッと息を吐き出す。しかし困った奴だ。友人相手とはいえ動揺を見せるだなんて。見せられた方がどう反応すべきか困るじゃないか。



「じゃあ骨折も気のせいだったみたいだし……」


「ピー!」


 未だ今回の任務の討伐対象であるモンスターが残っているし協力して終わらせる事を提案する途中、今まで堪えていた様子のタマが辛抱しきれなかったらしく飛びかかって来た。

 目にはうっすら涙を浮かべ、”元に戻った”だなんて。……矢っ張り僕に何かあったんだな。これは随分と大きな借りが出来たらしい。恐らくは知らない振りでは相殺出来ない程のな。だが蒸し返すのは野暮だし、何らかの口実で改めて礼をするか。


「タマ、分かるな? 落ち着け」


「ピ!」


 随分と興奮した様子だったタマだが、流石は僕と共に軍の訓練を受けて育った優秀なドラゴンだ。制止の一言で冷静になって動きを止める。何時もは慌てん坊なこの子だが努力は裏切らないからな。

 ロノスはポチの方が可愛いと思っているらしいが、どう考えてもタマの方が可愛いだろう。モコモコの羽毛に円らな瞳、愛くるしい鳴き声。

 ああ、なんて可愛い生物なんだ。こんな可愛い生き物がこの世に存在して良いのかと疑問に……。


「……ピ」


「……あっ」


 ……さて、動きを止めた迄は良かったのだが、僕との間に居たロノスの存在を忘れる程に興奮していたタマは停止が間に合わず、モコモコの羽毛の下は結構筋肉があって重い巨体がロノスに直撃。直ぐ前にいた僕諸共弾き飛ばされて池に池の上に投げ出されたんだが、落ちる寸前にロノスの顔が僕の顔に近寄って、唇が触れ合った。


 なっ!? ななっ!?


 男として生きて来た僕だしロノスは友人、恋愛対象外だ。でも、年頃の女の子である事実は変わらないし、そんな僕がファ、ファーストキスを失ったんだ。動揺と恥ずかしさで思考が鈍った僕はロノスと一緒に為すすべなく池に落ちて行った……。


 タマ、後でお仕置きだぞっ!


 春先とは思えない冷たさの水に落ちても僕は顔が熱くなるのを感じていたんだ。あっ、不味い。足が着かない……。

 動揺も有ってか只でさえ苦手な泳ぎが益々上手く出来ずに溺れそうになる。必死にもがいて岸に手を伸ばすけれど届きそうにないし、早く引き上げてくれ、タマ!


「ピー! ピー!}


 え? 足が吊った? 溺れそうだから助けて欲しい?  ……ピンチだ!



「もー! 落ち着きなよ。ほら、大丈夫かい?」


「……恩に着る」


 結局助けてくれたのはロノスとポチだった。タマはポチの前脚で掴んで持ち上げられて、僕はロノスに抱き上げられて岸へと向かう。服の上じゃ分かりにくいけれど本当に鍛えてるんだな、此奴も。


 ……ロノスは友人だ。性別なんて友情には無関係だと信じている。でも、今だけは普通の女の子みたいに少しドキドキしていて、それが心地良かった……。

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