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明烏

 私が”私”を思い出した時、私である事には何一つ影響しなかった。当然だ。矮小な精神を持つ人の子ならばいざ知れず、身も心も人のそれとは比べ物にならない神に大きな影響を与えられる筈も無い。


 人は不要だ。海も空も大地も無意味だ。世界そのものが無意味であり、私以外の神すら無為な存在である。


 だから全てを滅ぼそう。無に帰し、全てを闇で覆い尽くすべきだ。私にとって価値の有る物など何一つ存在しない。……その筈だったのに。


 完全無欠である私の心に生まれた僅かな凝り。守りたい物が存在して、だけれども守れなかった。”私”の部分が強く求める物は二度と手にする事が叶わぬ筈と思いながらも、神である私が一縷の望みに掛けて行った予言。人ではなく、神である己自身に関わる事は曖昧で鮮明には分からないが、判明したのは”何時か再会する”という事。


 感じた歓喜は素晴らしく、心が温かくなるのを自我を得てから初めて感じた。ああ、悪く無い。この事について考える間は”私”の部分が強く出るが、それが気にならない程に心地が良い。


 ならば求めよう。私以外の全てを無に帰すのは変わらない。だが、例外が多少有っても別に良いだろう。今度こそ一緒だ。今度こそ護る。


 だって私は×××××なのだから。


 さあ、そうと決まれば計画を実行するだけだ。”私”の部分が目覚めた事で得た知識を役に立て、私の目的を叶える。何を間違えたか、何をすれば良いのか、それは”私”が教えてくれるだろう。

 今から行動すれば大きな影響が出るだろうが、それを加味しての結果があの予言。故に私に芽生えた二つ目の目的に何ら影響は出はしない。



 では、何をすべきだ? 決まっている。目的達成の邪魔となる存在を消してしまえば良い。さすれば心に開いた穴に付け込め、道具をより効率良く運用出来るのだからな。


「待っていなさい……待っていろ。私が絶対に見つけ出してあげる……見つけ出す」


 だが、”私”の部分が強く出る時は少し面倒だな。心に芽生えた熱は心地良いが、神である私には無用な物まで出て来るのだから。



「ちっ! 時間か。だが、既に魔法は発動した。貴様達を始末するには十分……」


 僕達に向かって氷の刃が動き出した時、テュラとアンリの繋がりを保っていた魔力の糸も消え去って彼女の体が崩れ落ちる。倒れた時に額を強く打ったのが心配だけれど一旦は安心かな? 

 さて、本当に監視の目が一切無くなったのかは疑問だけれど、さっさとこの場を切り抜けるか。



「仕事の時間だよ、明烏」


 刀の柄を握って語り掛ければ強い熱を持ち始め、さっきまでは普通の刀身だったのが六色に輝き始めた。赤青黄緑金、そして黒。則ち基本の四属性に光と闇を足した色。

 これがこの刀”明烏”の本来の姿。対になる”夜鶴”が自らを振るう人の肉体とその分体を作り出すのなら、此奴の能力は……。



「”ファイアウォール”」


 ”火属性魔法”の詠唱と同時に出現した炎の壁は僕達に向かって来た氷の刃も足下を凍らせる氷も須く溶かし尽くし、冷え切った体を温めてくれる。やれやれ、芯まで冷え切ったけれど漸く人心地つける。

 ホッと一安心して胸をなで下ろし、続いて倒れたままのアンリに駆け寄って回復魔法を使用する。ちょっと魔法で診断したけれど変な後遺症も見られないし、良かった良かった。



「……さて、これからどうしよう。お祖父様に”使用は控えろ”って言われたばかりだし、使ったのがバレたら詳しい話を聞かせる事になるんだろうけれど、操られていたアンリや狙われた僕に対して色々と問題が出そうなんだよね」


 隠し通せば……無理! あの人相手に腹芸で勝とうとか千年早い!


 どうすべきかと頭を抱えると明烏の鍔がカタカタと鳴って次の仕事を要求して来る。まるでボール遊びをせがむ子犬みたいだ。まあ、実際は力を振るいたいだけの危険思考の持ち主だって夜鶴が言っていたけれどさ……。


「お説教で済む人じゃないし……」



 ま、まあ、緊急事態だったし大丈夫だろう。……多分、きっと、願わくば。

カタカタと鍔を鳴らし続ける明烏の柄を撫でて宥めながら鞘に戻し、それでも力の行使を要求する明烏に余計に疲れた。


「お願いだから落ち着いてよ。……また人目が無い所で使ってあげるからさ」


 最後に大きく鍔が鳴ってから漸く静かになった。明烏は夜鶴みたいに喋れはしないけれど明確な意志を持ち、こうやって一度能力を使えば更なる行使を要求して来る困り者だ。

 そしてそんな少し強欲や傲慢とさえ感じるだけの事はあって持つ能力は他の魔剣や妖刀の類とは隔絶した力を持っているんだよね。

 ……頼りになるけれど、逆に厄ネタでさえあって、お祖父様が使用を控えろって命令する気持ちも分かる。


 その能力は”時属性を除いた全ての属性の行使”。更に付け足すならば今の僕みたいに魔法を封印された状態であっても魔力が残っていれば魔法が使えてしまう。

 頼りにはなるんだけれど性格は困ったちゃんだし、全ての属性を使える刀だなんて周囲に知られたくない。使うには面倒な条件をクリアしなくちゃ駄目だけれど、奪う理由は沢山有るし、面倒な状況になるのが僕だけじゃないってのが本当に厄介な話だよ。



「アンリが気を失っていて良かった。後はテュラが本当に見ていないかどうかだけれど、あまり心配が過ぎても精神をすり減らしそうだよね。にしても……”縦ロールの婚約者に僕を見下す妹”だって? どうしてそれを知っているんだ?」


 僕に攻撃する時、テュラが口にした言葉が気になる。只の挑発とかじゃなくて妙な感じがした。だって、そうなる筈だったけれど今じゃ絶対に有り得ない、そんな内容だからだ。


 仲の良い妹、とか、頭の中まで筋肉が詰まっている妹、とかなら理解しよう。パンドラの事を言われたなら納得するよ。


 でも、リアスが僕を見下したみたいな態度を取るのも、ネーシャが婚約者なのもゲームの話、別の言い方をすれば僕とリアスが前世の記憶を取り戻さなかった場合の話だ。

 ゲームにおいてリアスは頼りたいのに頼れない兄に憤って見下した態度を向けていたし、婚約者だったネーシャとは想い合っていたけれど引き離された悲恋の関係だ。



 どうしてテュラはそれを知っている? そして大きく変わったのにその認識が変わっていない?

 だってリアスは僕を信頼してベッタリのシスコンだし、ネーシャとは最近出会ったばっかりで向こうは僕を利用する為に色々仕掛けたけれど不発だった。

 どう考えてもあんな認識になる筈が無いんだよ。


「考えろ。今後の為にも。それがテュラに対抗する武器になってくれる筈だ」


 こっちの優位条件だった筈の知識を向こうが持っている、それは前提と今後の方針に大きく影響を及ぼす。リアスだって知れば不安になるだろうし、どうにか安心させる為にも仮説を……まさか!


 一つ僕の頭に仮説が浮かぶ。これなら納得行くけれど、同時に厄介な話にもなる。ゲームではこんな描写……いや、仮説を立証出来る描写もあった気がするけれど思い出せない。


「困った。これは本当に帝国のあのダンジョンに行く必要が有るぞ。……問題はどうやって行くかだけれどさ。普通に行っただけじゃ帝国が管理する所に入れる筈もないし、でも仮説を立証して相手の出方を見極める為には……」


「う、うーん。何があったんだ……?」


「アンリ! 良かった、変な所は有るかい?」


 考え事をしている間にアンリは起き上がる。少し怠そうにしてはいるけれど意識はハッキリしているし、僕達に攻撃をした時の記憶は無い様子だ。


「いや、特に無いな。疲れた気がするが異常は無い」


 良かった。これで一安心だね。




「所で折れていた腕も元通りだが、君が何かしてくれたのか?」


 ……やっべ。どうやって誤魔化そう。


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