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学名ゴリラゴリラゴリラ

 アリアさんの胸が背中に押し当てられる状況にも慣れ、何とか顔だけは平静が保てる様になった頃、目的地である森が見えて来た。


 今度はポチにゆっくりと降りて貰い、アリアさんも余裕を持って立てている。


「彼処が目的地のダンジョンですか? えっと、ダンジョンにしては……」


 アリアさんが不思議そうにするのも無理がなく、目の前に広がる景色は穏やかで綺麗な物だった。

 色取り取りの花が咲き乱れる一面の花畑に囲まれたのは木が生い茂る森なんだけれど、通り抜けられる様に道が整備されているからね。


「ダンジョンは基本的に何らかの力が発生した場所だし、此処は一見すればそうは見えないよね。うん、本来はそうなんだけれど……今は一時的にダンジョンになってるんだ」


「一時的?」


「見てなさい。私達の気配を嗅ぎ付けてやって来たわ」


 僕の言葉にアリアさんが首を傾げた時、耳障りな鳴き声を上げながら数匹のモンスターが姿を見せた。

 髪が生えていないデコボコの頭に緑色をした子供くらいの体長、腰に薄汚い毛皮を巻いただけで手に持っているのは獣の骨だ。


「ゴ、ゴブリン!? どうしてゴブリンがっ!?」


 ゴブリンは本当だったらもっと深い森の奥で生息しているモンスターだ。

 それがどうしてこんな場所に生息しているのかの説明は後でするとして、今は動きたくってウズウズしているリアスを自由にしてあげよう。


「リアス、頼むよ」


「頼まれたわ!」


 まってましたとばかりに武器に巻いていた布をほどけば姿を見せたのは深紅のハルバード。

 柄も刃も既に血にまみれていそうなそれを頭の上で一回転させた後で斜めに構えたリアスは大きく振り被るなりゴブリン達に向かって駆け出した。


「え? ええっ!? ハ、ハルバート!? 確かに魔法と武器を合わせる人だって居ますけれど……」


「うん。……まあ、気持ちは分かるよ。でも、あの子は乳母の影響でハルバートが気に入っちゃってさ。力強い武器だし少しお転婆で困っちゃうよね。でも、元気な姿も可愛いと思うよ」


「は、はあ……」


 ゴブリンはそれ程知性が高いモンスターじゃないのはポチが居るのに襲って来たのが証明している。

 今目の前にいるのは七匹で、数で勝れば勝てると思って居るのかリーチが違う武器を構えるリアス相手に固まって襲い掛かり、掛け声と同時に踏み込んだリアスは一度薙いだだけで四匹の胴体を両断した。


「せいっ!」


「ギィ!?」


 これには流石に臆したのか動きが止まるゴブリンだけれど、当然ながら格好の的にしかならない。

 再びハルバートが振るわれて三匹の首が胴体と永遠に別れを告げた。


「残るは一匹! って、逃げるな!」


 あっという間に一匹にまで数を減らされ、流石に不味いと思ったのか残りの一匹は逃げ出し、馬鹿だからか途中で振り向いてしまうけれど視界にリアスの姿は存在しない。



「はい、終わり」


 ハルバートを頭上に構え、高く跳躍したリアスはゴブリンの前に着地した瞬間に勢いを乗せて振り下ろす。


「す、凄い……」


 ゴブリンは縦に両断され、勢い余った刃は大地に深く長い亀裂を刻んで地面をひっくり返す。

 周辺の花が衝撃で宙を舞っていた。


「楽っ勝! 私って矢っ張り世界で二番目に強いだけあるわ」


 ハルバートを地面に刺して右腕をグルグル回しながら得意気に話すリアスの姿に僕が思わず釣られて笑った時、油断を狙ったかの様なタイミングで新手が現れる。

 それも身を隠す場所なんて何処にも無かったのに関わらずだ。


「ブモォォオオオオオオオオオッ!!」


 鼻息荒く地響きを鳴らし、正しく猪突猛進の勢いで突き進むのは通常の二倍の大きさはあろうかという巨猪。

 よく見れば全身に鈍い青色が混ざっている猪に僕は知識として覚えがあった。


「メタルボア……色からして青銅かな? 生息地じゃないのにどうして此奴が?」


 鉱物を食って取り込む性質のモンスターだけれど、この近辺に

青銅の採掘現場は無かった筈だ。


「ロノスさん、そんな呑気にしていないで助けないと!」


 甚だ疑問な相手の出現に僕が戸惑う中、アリアさんが腕を引っ張るけれど時既に遅しだ。

 

「はあっ!」


 リアスは大地を割れる程に強く踏みしめ、掛け声と共にメタルボアを片手で受け止める。


「ブモッ!?」

 

 全力の突進を急に止められた事でメタルボアは掴まれた鼻の辺りから骨が折れる音が響いたけれど、対するリアスは微動だにせず平然としている。

 そのままメタルボアは顎を蹴り上げられて宙を舞い、折れた牙の破片をばらまきながら地面に激突した。


「リアスさんって聖女の再来って聞いたのですが……」


「どんな風に呼ばれてもリアスはリアスさ。僕の可愛くて大切な妹のままだよ」


「キュイ……」


「こら! 聖女のゴリ(らい)って言わない。そんな言葉、何処で覚えて来たの!」


「キュイィィ……」


「うん。そうやって反省するのは良い事だよ。ポチは賢いでちゅね~。ナデナデしてしてあげまちゅよ~」


 甘やかすだけじゃペットへの愛情じゃないと僕は知っているから、叱る時は心を鬼にしてきちんと叱る。

 でも、ポチはちゃんと反省出来る良い子だから叱られたら悲しそうな声で鳴くし、反省したなら誉めてあげるのが僕の流儀さ。

 落ち込んでいるポチのクチバシに触れて優しく手を往復させて撫でてやっているとアリアさんは微笑ましそうな顔の後、少し戸惑った顔になった。


「あの、今更だけれどロノスさんってどうしてグリフォンと話せるのですか?」


「正確にはグリフォンじゃなくてポチだけと話せるのさ。その理由だけれど、此処に来たもう一つの目的と一緒に話した方が良いかな? ……レキア、出て来たら?」


 僕は少しだけ不機嫌そうにしながら誰も居ない空間に話し掛ける。

 暫く沈黙が続くけれど僕は同じ場所を見続け、やがて観念したみたいに舌打ちが聞こえたかと思うとモンスター達の死体が音と共に煙に包まれ、花に変わった……いや、戻った、だね。



「ふんっ! 相変わらず人間程度の分際で不愉快な奴だな。それに今日はピカピカ女だけではなく変なのも居るではないか」

 

 続いて僕が見詰めている所に現れたのは人形みたいに小さくて少し偉そうな女の子。

 ウェーブの掛かった亜麻色の髪を腰まで伸ばし、若草色のドレスを着た彼女は腕組みをしながら不満そうに僕を睨んでいた。



 リアスを指差した後でアリアさんを怪訝そうな表情で見た後、背中から蝶と同じ形の透明な羽を広げると片手を腰に当てながら僕を指さして叫んで来る。


「そもそも妾は貴様達の様な者達を妾ら妖精の領域に招き入れる事が気に入らん! 誰の許可を貰って入り込んでいるのだ!」





「君のお母さん。要するに妖精の女王様」


「貴女の母親から六年以上前に貰ったわよ?」


「「ね~」」


 初めて会った時からだけれど、彼女は僕達、特に僕への当たりが強いんだよね。

 おっと、アリアさんが話について来れていないや。

 この場所を選んだ理由、彼女が誰でどんな関係なのか、それをちゃんと話さないとね。


「彼奴は妖精の姫で名前はレキア。女王様に妖精の領域を修行で使う代償に、彼奴が困っている時は力になる、って約束したんだけれど……人が折角来てやってるのに失礼な奴よね」


 そしてリアスとは凄く相性が悪いんだ。


「はっ! 妾がわざわざ貴様達の助けなど求めるものか! ふ、ふん! まあ、どうしても力になりたいと言うのなら構わんぞ? 既に代価を払って働かせる者を呼び寄せたのだが……まあ、貴様達の願いを聞いてやっても……」


「あっ、既に依頼したんだ。だったらアリアさんの修行だけさせて貰うから」


 ……あ~あ、相変わらず五月蠅い奴だなぁ。






 ロノスとリアスがレキアの態度に不満を募らせている中、森の中の木の上に立って様子を眺めている者が居た。


「おやおや、これは随分と変わったお客様達が来ましたね。依頼をキャンセルされる様子ですし……困った困った」


 白いスーツに白いシルクハット、顔に目玉模様の黒い布を巻いて肌を全て隠し、手足が異様に長い長身。奇妙な事に声を出して居るにも関わらず顔に巻いた布が一切動いていない。


「さて、我々ネペンテス商会のモットーは”今をお嘆きのお客様へ、心から願う商品を”ですからね。……ヒャ、アヒャヒャヒャヒャヒャ! ほーんとうに面白そうな人達ですねぇ!」

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