プロローグ
短編はこっち
読んで貰ったんだ
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逆境から始まる乙女ゲーの最強ラスボス兄妹の片割れに転生した僕は妹の運命を変えたいと願う
柔らかな日差しが降り注ぐ昼下がり、そよ風が運ぶ花の香りが春の訪れを告げる。
花畑で寝転がってウトウトしていると頭を乗せている膝の持ち主が頬を撫でて来た。
「あっ、起こしてしまいましたか?」
「大丈夫少しボケッとしていただけだからさ」
黒髪に黒い瞳を持ち、何処か儚げな雰囲気を纏う彼女は顔に掛かった髪を指先で弄りながら何かを言いたそうにしている。
「あ、あの……」
勇気が足らずに告げたい想いを口に出来ない彼女の気持ちを僕は知っている。
本当だったら僕から何か言うのが優しさ何だろうけれど、今は少し照れている彼女の顔を眺めていたかったんだ。
まあ、あの二人が知れば責められるだろうけれど、今は二人っきりで野暮な目なんて無いんだから別に良いよね?
でも……。
「あ、あの! 私……ロノスさんが好きです」
「僕も君が好きだよ、アリア」
精一杯の勇気を絞り出した彼女の想いに応え、起き上がるなり彼女の肩を抱き寄せて唇を重ねる。
最初は驚いた彼女も一切抵抗せず、そっと目を閉じた。
僕は今、本当に幸せな時間を僕は過ごしている。
でも……どうしてこうなったのか分からない。
だって彼女は主人公で僕はラスボスなのに……。
僕が前世を思い出したのは十歳の誕生日だった。
今と同じ十歳の時、姉さんと妹と一緒にお母さんの誕生日プレゼントを買いに行く途中、居眠り運転のトラックが突っ込んで来たんだ。
「危ない!」
姉さんが咄嗟に僕と妹を抱き締めて庇ってくれて、凄い衝撃が襲って来たのまでは覚えている。
きっと僕は死んじゃったんだろうね。
もう会えない家族や友達の事を思い出すと涙が溢れそうになったけれど、今の僕、ロノス・クヴァイルの部分がそんな場合じゃないって必死に訴える。
前の僕の記憶と今の僕の記憶が合わさって、到底信じられない事実を教えてくれたんだ。
「僕、ゲームの世界に転生しちゃったっ!?」
乙女ゲーム系RPG『魔女の楽園』
生まれ付き様々な属性を持ち、その魔法を使えるこの世界で悪魔憑きや魔女の象徴と伝わる”闇”を持って生まれて来た主人公が殆どの攻略キャラの初期好感度がマイナスの状況から親睦を深め、やがて世界を救うストーリー。
売り文句は”逆境から始まる恋物語”……だった筈。
お姉ちゃんがリビングのテレビで夢中になって遊んでいたし、聞いてもないのに設定とかキャラへの愛を語ったから男の僕でも内容を知っていた。
その内容とロノスとしての知識が同じだった時、真っ先に思い浮かんだのは妹の事だった。
前の妹じゃなく、ロノスとしての大切な妹であるリアス。
両親が死んでいて、唯一の肉親である祖父との仲は良好とは言えない今の僕にとって唯一の家族である可愛い妹。
ゲーム上では優れた才能と見た目を持っているけれど、主人公の妨害をして、その結果色々と失った末に最後の味方である兄と共にラスボスとして立ちはだかって死んでしまう。
「……嫌だ。もう家族を失うのは」
前の家族を永遠に失って、今の家族も失うだなんて耐えられない。
僕にとってロノスは興味の薄いゲームのキャラクターでもないし、ロノスとしての記憶や心の部分も有るから他人でもない。
「……僕が守るんだ。だって僕はお兄ちゃんなんだから」
この世界はゲームの中の世界なんだろうけれど、ロノスとしての人生は失敗したらロードを繰り返すなんて事は出来ない一度きりの物。
幸い、ロノスの部分のお陰で前の僕じゃ思い付かない事も思い付くし、多分無理だった事も出来そうだ。
なら、後は僕次第。
この世界がゲームとは違う未来を持っているかも知れないけれど、もしゲーム通りに進もうとするんだったら前もって対策が取れる。
「バタ……バタフライエフェクト? だったよね?」
一つでも出来事を変えればその後は変わって来ると思うし、ゲームの知識が役に立たないのは怖いけれど、逆を言えば最悪の未来だって事前に頑張れば変えられるんだ。
「よし! どうにかなるぞ!」
先ずは妹ともっと仲良くなって、悪い事を止めるように言えば止めてくれる様にならないと。
……ゲームでは叱ろうとするけれど聞いてくれなくて、結局折れて一緒に行動するだけだったもんね。
「リアス、遊ぼ!」
「あら、お兄様。何して遊ぶ? 私はお人形遊びがしたいし、お人形遊びね」
じゃあ早速とばかりにリアスの部屋に向かって扉を開けば
此処でリアスについて纏めてみようか。
・前世の妹は二歳年下だったけれど、リアスと僕は双子の兄妹である。
・数百年前にモンスターを従えて大陸支配を目論んだ”魔獣王”を撃退した”聖女”の血を引く王家が支配するリュボス聖王国の宰相の孫である。
・リアスの属性は百年に一度出現する”光”であり、聖女と同じだったからゲームでは聖女って呼ばれて我が儘な子に育った。
・兄妹仲は悪くなくて、ゲームでは片方が先にやられると怒りで大幅に強くなる位。
……此処までは殆どがゲームのキャラとしての情報。
今の僕、ロノスにとっては大切な家族である……これが一番重要な情報だ。
「私は犬を使うからお兄様は猫よ。ワンワン! 猫さん、何の用?」
僕がお人形遊びをしたいかどうかも聞かずに勝手に始めるリアスを見ていると、属性について分かった後で散々甘やかされたらゲームみたいになるなぁって思ったよ。
「ニャーニャー! 犬さんと歌いたくて来たんだよ」
周りの大人が甘やかして、ゲームでの僕が強く注意しなくて、その最後があんな悲惨な最期だ。
だから僕は我が儘はお兄ちゃんとして止めよう。
……でも、こうやって遊ぶ時くらいは別に良いよね?
リアスと一緒に遊ぶ内、僕は自然と前世でお気に入りだったアニメの歌を口ずさんでいた。
「……お兄ちゃん? お兄ちゃんなの?」
……あれ?
知らない歌に驚いたのか固まったと思ったのに、今度は変な事を言って来たぞ。
「いや、僕がリアスのお兄ちゃん……お兄様なのは当たり前じゃ……」
前の僕だったら”お兄様”だなんて呼ばれ方は嫌だったけれど、ロノスとしての部分が受け入れているし、今の妹から前と同じ呼ばれ方をするのは変な感じだ。
「私だよ、お兄ちゃん! 私もなの!」
「……え? もしかして……×××なの?」
そんな事が有るはずがないと思いつつも前世の妹の名前を呼べば、リアスは泣きそうな顔で頷いて抱き付いて来た。
「良かった! 良かったよぉ!」
僕に抱き付いて耳元でワンワン泣き出す妹を抱き締めていると、僕も知らない間に泣き出していた。
二人して声を上げて泣いて、慌ててやって来たメイド達が泣き止まさせようとするけれど泣き止まない。
だって、二度と会えないと思った妹は生まれ変わっても僕の妹でいてくれたんだから……