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初期レベ廃人ゲーマーと獣人少女の異世界終焉遊戯<ワールズエンド・ゲーム>  作者: 安野蘊
第一巻 第一章 「その異世界人、召喚につき」
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第一章 第八節 ~ 初期レベ廃人ゲーマー ~


     ☯


(……なんか懐かしいな)


 リオンが初めてこの一番左端のカウンターに立ったのは、もう三年も前のことになる。

 勿論(もちろん)、現実ではなくゲームの中での話だが。

 しかし、それでもゲームそっくりなこの世界のこの場所に立つと、自然とゲームを始めたばかりのあの頃の高揚感が胸に(よみがえ)った。


 内容は知っているはずなのに、それでもワクワクせずにはいられない。

 こんな感覚は初めてだ。

 基本的に一度クリアしたゲームをもう一度プレイすることのないリオンだが、案外二周目も悪くないかもしれないと思った。


 この異世界では仮令(たとえ)モブであろうと、本物の人間と同様に思考し、会話し、行動する。

 こちらが話しかけるまで何の反応も示さないNPCとは違う。

 リオン達が前に立つと、カウンターに立っていた女性(真ん中のカウンターの女性とは別人)は、にこやかな営業スマイルを浮かべて口を開いた。


「ようこそいらっしゃいました、≪サンディ≫の冒険者ギルドへ。冒険者登録ですか?」


「ああ」


 (ひそ)かに(たかぶ)る感情を隠しつつ、リオンが答える。

 その横から、ミラが口を出した。


「こちらの方は、異世界からやって来たのです! なんと、デザートワームを素手で倒してしまったのですよ!」


「「「ええっ⁉」」」


 興奮気味に言ったミラの言葉に、目の前の女性だけでなく、右端のカウンターに立っていた女性までもが驚愕(きょうがく)の声を上げた。

 信じられないとでも言いたげな目に、リオンは眉をひそめて問う。


「……そんなに驚くことか?」


 ゲームをやりこんできたリオンにとって、デザートワームの倒し方など基礎中の基礎だ。

 しかし、この世界では、そんな当たり前の知識すら出回っていないらしい。

 ミラはリオンを褒め称えるように言った。


「ええ、ええ、それはもうびっくり仰天ものの大事件なのですよ! そんなことを大真面目に語れば、ホラ吹きと笑われるか残念な子と(あわ)れまれるかのどちらかなのです!」


「なるほど、確かに残念なヤツだ」


「私は違いますっ!」


 憐れむような視線を送るリオンに、ミラがウサ耳を逆立たせて反論する。

 彼女は実際にリオンが戦うところを目にしているのだから、決して(うそ)や妄想を語っているのではない。


 それもそうか、と(うなず)いたリオンは、


「じゃあホラ吹きだな」


「違うと言ってるでしょうがーっ‼‼」


 スパアァァアン、とミラがウサ耳でリオンの頭を(はた)いた。

 自慢のウサ耳をそんなことに使っていいのだろうか。


 ケラケラと笑ったリオンは気を取り直し、


「残念なホラ吹き……」


 スパパアァァアン、と本日二度目の軽快な音が辺りに響いた。


 悪びれなく笑うリオンを恨めしそうな目で(にら)みつつ、ミラは女性に先を促す。

 置いてけぼりを()らったように目を丸くしていた女性は、そこで自らの職務を思い出し、一つ(せき)払いを挟んでから言った。


「では、まず種族を確認させていただきます。種族は……〝獅子人族(ライオネル)〟ですね?」


「ああ」


 鏡に映った自分の姿を思い出す。

 女性体になっていたかと思えば、それに加えてネコ耳と尻尾まで生えていた。

 あれらの特徴は、ゲームの中で見た獅子人族の特徴にそっくりだった。

 何がどうなったのかはわからないが、今の自分は人間ではなく、獅子人族であるらしい。


 シェーンブルンに登場する獣人族は、〝犬人族(クー・シー)〟、〝猫人族(ケット・シー)〟、〝兎人族(アルミラージ)〟、〝狐人族(レナード)〟、〝鳥人族(ハーピィ)〟、〝狼人族(ウルフィー)〟、〝獅子人族〟、〝竜人族(ドラグーン)〟の八種族だ。

 中でも獅子人族は、攻撃力や防御力、敏捷性(びんしょうせい)に優れ、特に攻撃力の最高値はこの種族でなければ到達できない。

 その他の特性として、高い自己再生能力も持っている。


 全体的に能力値の高い種族だが、その分絶対数が少ない――

 というのは設定上の話であって、ゲーム内では自分の好きな種族を選べた為、性能に恵まれた獅子人族は、かなり人気の高い種族だった。

 しかし、この異世界では、生まれながらにして種族が決められている。

 ゲームとの差異に不思議と思う反面、種族による不平等を感じざるを得なかった。


 女性が記入用紙にサラサラとペンを走らせる。

 それから質問を続けた。


「ご年齢は?」


「18歳」


「性別は?」


「だ……女性」


「座右の銘は?」


「〝勝ったヤツが正義〟」


 スラスラと手元の用紙に何かを書き込んでいく女性。そして、


「ご希望の〝クラス〟はございますか?」


「〝戦士〟だ」


 即答した。


 シェーンブルンには、種族の他にクラスというものを選択する。

 クラスの種類は、〝戦士〟、〝魔術師〟、〝召喚士〟、〝死霊術士〟、〝修道士〟の五種類あり、選択したクラスに応じて特有のスキルが習得できたり、クラスに合った能力値が上昇しやすくなったりする。

 種族によって能力値に差がある為、効率的に強くなろうとするなら、選択した種族に合ったクラスを選ぶのが基本だった。


 トッププレイヤーであったリオンは、竜人族の〝戦士〟をメインに使っていた。

 あらゆるパラメーターに優れ、多数の特性や固有スキルを持つ竜人族は、ゲーム内でも屈指の人気を誇る最強の種族だ。

 レベルはカンストさせ、能力値は綿密に調整し、習得できるスキルは全て覚えさせた。


 そして、〝戦士〟は遠距離攻撃のスキルに乏しいものの、魔力を消費せずにスキルを使うことができ、接近戦で無類の強さを誇る。

 複雑な攻撃はできないが、何より、自分の手で敵を倒しているという爽快感を楽しむことができ、リオンは好んで使っていた。


 そんな思い出にリオンが浸っていると、女性が一枚の紙を差し出して来た。

 そこには「冒険者規約」と題されて、いくつかのルールが記されていた。


「そちらをお読みいただいて、最後の欄に承諾のサインをご記入ください。それを(もっ)て、正式な冒険者としての登録が完了致します」


 渡された規約にざっと目を通す。

 冒険者は獲得した報酬の三割を税金としてギルドに納めること、殺人・窃盗など秩序を乱す行為を行ってはならないこと、規約に違反した場合、弾劾裁判にかけられて懲戒処分を受けることなど、いくつかの規定が並んでいたが、特に問題となりそうな規定は無かったので、リオンは署名欄にペンを走らせた。


 もう一度登録内容に誤りが無いかを確認され、問題ないことを示すと、女性は満足そうに頷き、


「では、最後に、レベルと能力値の測定を行います」


「ああ」


 現実世界では、食事や睡眠を取ることも忘れてストーリー攻略やイベント周回に明け暮れた。

 そうまでしてゲームをやり込んだリオンのレベルがいよいよ判明する。


 期待に胸を膨らませるリオンの前で、女性は小さな水晶玉を取り出した。

 ゲームでは登場しなかったアイテムに、リオンは興味をそそられた。


「これは?」


「こちらは〝オーディンの瞳〟というアイテムです。こちらに手を置いて頂くと、レベルと能力値が自動で測定される仕組みになっています」


「ほう?」


 楽しそうな笑みを浮かべて、リオンが水晶玉をじっと見つめる。

 ミラも待ちきれないという様子でウサ耳を左右に振り、リオンを()かした。


「さあ、早速手を置いてみるのですよ!」


「ハッ! そう焦んなよ!」


 そう言いつつも、リオンは既に右手を水晶玉に置いていた。

 ポウ、と光った水晶玉の中に、様々な文字が浮かび上がっては消えていく。

 それを何度か繰り返した後、水晶玉は一際大きく輝いて、周囲を(まばゆ)く照らした。


「おお?」


 やがて、その光が収まると、水晶玉にいくつかの項目と文字列が並んだ。

 女性はカウンターの下から一枚の用紙を取り出し、水晶玉に浮かんだ文字を書き写していく。

 それを嬉々(きき)とした表情で見守りつつ、二人は結果を待った。

 女性が顔を上げる。


「測定終わりました! ……終わりました、が……」


 全ての項目を書き写し終えた女性は、しかし、途端に歯切れが悪くなり、様子を(うかが)うようにチラチラと二人の顔と手元の紙を交互に見()っている。

 首を(かし)げるミラの隣で、リオンは(いら)立たそうに眉をひそめた。


「……どうかしましたか?」


「いえ! その、申し上げにくいのですが……」


「何だよ。さっさと話せ」


 睨むようなリオンの視線に息を()んだ女性は、意を決して測定結果を述べた。


「……わかりました。それでは、申し上げます。……レベルは……」


 ドキドキ、といった様子で瞳を輝かせるミラ。

 彼女としては、デザートワームを素手で倒した実績から、リオンが相当な高レベルだと期待しているのだろう。

 そうでなくとも、実に三年間もの苦労をかけて()び出した異世界人だ。魔王に対抗する為にも、それなりの戦力でなければ喚び出した意味が無い。


 一方のリオンは、女性の様子から何かがおかしいと思い始めていた。

 例えば、レベルがわからなかったとか、そういった何らかの問題が発生したのかもしれない。

 いずれにせよ、一波乱ありそうな気配を察していた。


 二人の視線に重圧を感じながら、女性は一度呼吸を落ち着け、それから、躊躇(ためら)いがちにゆっくりと、結果の続きを告げた。


「……レベルは………………1、です」


「……へ?」


「ほう?」


 目を点にして呆然(ぼうぜん)とするミラに、何処(どこ)か面白そうな気配を(たた)えるリオン。

 女性は気まずそうに視線を()らした。


 たっぷり六十秒程続いた一同の沈黙は、ミラによって打ち破られた。


「ちょ、ちょ、ちょっとお待ちをっ! い、今、何て……」


「ですから……その、レベルは1――つまり、初期レベルかと……」


「そ、そんなはずは!」


 女性の手から用紙をひったくり、まじまじと眺めるミラ。

 古代文字で書かれている為に正確な内容はわからないが、項目と数字くらいは読むことができた。

 三度、四度と繰り返し読み返すも、結果は同じ。

 どの角度から見ても、〝レベル〟の欄には短く〝1〟とだけ記されていた。


 わなわなとウサ耳を震わせるミラに、リオンは哄笑(こうしょう)を上げながら問うた。


「ハハハハッ、レベル1か! で、どうだ? オレのレベルがわかった感想は?」


「………………」


「ん?」


 ミラは無言のまま答えない。

 余程衝撃を受けているらしい。

 だが、それも無理はないだろう。


 魔王復活の予兆を受け、魔王の脅威から世界を守る為の対抗策として、異世界の英雄を召喚すると決めてから、実に三年間もの歳月を費やしてようやく喚び出した希望の星が、まさかのレベル1。

 これでは魔王どころか、魔族一匹ともまともに戦えやしない。

 そんな冗談のような悪夢を前に、ミラは身を打ち砕かれる思いだった。


 ミラは手にした用紙をくしゃりと握り潰すと、脱兎(だっと)の如く勢いでギルドを飛び出して行った。

 慌てて女性が声をかけるも、その声は彼女の背に届かない。


「あ、ミ、ミラさん!」


「………………」


 一瞬にして見えなくなった彼女の背中を見送りつつ、リオンは後に残された自身のステータスが記された用紙を拾い上げた。


「……ふむ」


 リオンにだけ本当のレベルが明かされる……などという展開は無く、そこには紛れもなく1を表す古代文字だけが写っていた。

 攻撃力や敏捷性は獅子人族らしく高めであったが、それでも所詮レベル1の数値でしかない。高レベルの冒険者の能力値とは比べようもなかった。


(……まあ、サブキャラのレベルなんて上げてなかったからな……)


 イベント用に獅子人族のアバターを作ったはいいものの、結局クエストはメインキャラで全てクリアし、その後は完全に放置していたので、サブキャラのレベルは初期レベルから全く上がっていなかった。

 仮に、ゲームでのレベルをそのまま受け継いでいるのであれば、彼女がレベル1という測定結果になったのも、納得できる話だった。


「……あ、あの……」


 女性が心配そうにこちらを見遣るそのそばで、リオンは一つ嘆息し、


「……ったく、しゃあねえな……」


 ミラが走り去っていったギルドの出入り口に足を向けるのであった。



ココ〇ラとかドー○ルとかモンメ○とか、レベル1に恐怖しかない

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