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初期レベ廃人ゲーマーと獣人少女の異世界終焉遊戯<ワールズエンド・ゲーム>  作者: 安野蘊
第二巻 第三章 「その異形、最凶につき」
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第三章 第五節 ~ 窮地の玉兎 ~


     ☯


「はぁっ……はぁっ……! リィさんっ! ご無事ですかっ⁉」


 ウォーリアの咆哮と戦いの轟音(ごうおん)が飛び交う広場内を、ミラは息を切らして走り回っていた。

 探すのは、ここまで冒険を共にしてきた狐人族(レナード)の少女、リィだ。

 瓦礫(がれき)の雨が降り注いだ辺りから、彼女の姿が見えないのである。


「リ、リィさんっ! いたら返事をっ‼‼」


 全員で無事脱出するには、まず彼女と合流しなくてはならない。

 だが、一向に彼女の姿も気配も、物音さえ感じられない。


(……ま、まさか、瓦礫の下敷きに……っ⁉)


 ミラの頭に最悪の想像が浮かんでくる。

 元々荒かった呼吸が更に荒くなり、酸欠と涙で視界がぼやけてくる。

 絶望という名の黒い影が鎌首をもたげ、それが次第に自らの心を飲み込んでいって、完全にそれに支配されそうに――


「お姉さぁーーーーんっ‼‼」


「っ‼‼」


 リィの甲高い声が聞こえる。

 かなり遠くの声だったが、頭上の高性能ウサ耳はその出所をしっかりと捕捉し、兎人族(アルミラージ)強靭(きょうじん)な脚力がミラをその場所へと瞬時に向かわせた。


「リィさんっ‼‼」


 到着すると同時、赤い瞳でキョロキョロと辺りを見回す。

 が、瓦礫の山が広がるばかりで、愛くるしい赤褐色のキツネ耳も三本の尻尾も、一向に見えてこなかった。


「……一体、何処(どこ)に……っ⁉」


 肩で息をしながら、懸命に探していると、


「こっちだよ!」


 ひょこん、と瓦礫の隙間から、ピコピコと動くキツネ耳が生えた。

 そこからよじよじと短い手足を懸命に動かし、瓦礫の下から()い出て来る。

 どうやら、自らの小柄な体躯(たいく)を利用して、積み上がった瓦礫の隙間に隠れていたようだ。


「リィさんっ‼‼」


「うわわっ⁉」


 彼女の無事を確認するや否や、ミラは残像が残る程の速度でリィにダイブし、その身体をぎゅうと抱き締めた。


「リィさん……! お怪我(けが)はありませんか……?」


「あ、うん……大丈夫だよ?」


「ああ……よかった……っ!」


 再び涙ぐみそうになるのを(こら)え、リィをそっと解放する。

 もう(しばら)く再会の喜びに浸っていたかったが、すぐにでもこの場を脱出しないと危険だ。

 ウォーリアはリオナが食い止めてくれているが、彼女とて満身創痍(そうい)のはず。


「さあ、リィさん、急いでこのフロアから脱出しましょう!」


「で、でも、階段が……!」


「……そうなんですよね……」


 瓦礫で塞がれた下フロアへの階段を恨めしそうに見つめる。

 当然だが、下へと下っていかなければ、この≪ランブの塔≫からは脱出できない。

 フロアボスはボス部屋からは出られないから、一時的に上のフロアへ退避する手も無いわけではないが、それでは根本的な解決にならないし、食糧も残り少ない現状、飢え死にがオチである。


「……しかし、ご安心を! 私のポーチの中には、こんな時に役立つ脱出用のアイテムがまだまだ入っているのです!」


「え、それはどんな?」


「ふっふっふっ……それはですねえ――」


 そう言ってミラが取り出したのは、小さな薄紫色の球。

 内部で小さな(きら)めきが流動し、スノードームのような美しさを見せている。


「わあ……綺麗(きれい)だね!」


「ふふ、これは〝穴抜けの球〟と言って、上のフロアと下のフロアとを(つな)ぐ極小の縦穴を作り出すアイテムなんです。効果は一度きりで、持続時間も短いのですが、このフロアを離れるだけなら、これでどうにかなるでしょう!」


 キラキラと瞳を輝かせるリィの前で得意げになるミラ。

 穴抜けの球は鑑賞用としても価値のある珍しいアイテムなのだ。


「さて、脱出の目途も立ったことですし、リオナさんを呼び戻して早いところ脱出を――」




 その時、リィの背後で長剣を振り上げる盗賊団員の姿が赤目に映った。




「リィさん! こちらへっ‼‼」


「……え?」


 手にしていた穴抜けの球を放り出し、慌ててリィの手を引っ張る。

 彼女の背負っていたバックパックが切り裂かれ、中のアイテムが床一面に散らばった。


「わ、わわっ⁉」


 突然引っ張られたことに反応できなかったリィは、思い切り前につんのめって転倒した。

 その拍子に、彼女の手がミラのポーチのベルトに引っかかり、引き千切ってしまう。

 が、それを気に留める様子もなく、ミラは魔法を放っていた。


「≪ムーンショット≫っ‼‼」


「ぐはぁッ‼‼」


 月の力を秘めた散弾が盗賊団員を襲う。

 〝矢避けのローブ〟を身に(まと)っているが、この至近距離ではさほど効果が無い。

 何発もの光弾をその身に受けた団員は、派手に吹き飛んで意識を失った。


「大丈夫ですか、リィさんっ⁉」


「あ、ああ……怪我はないみたいだよ」


「そ、そうですか……」


 ホッと一息――()く間もなく、今度は上空から白い(ふくろう)のようなモンスターが二人目掛けて急降下してきた。


「リィさん、私の後ろへっ‼‼」


「う、うんっ!」


 リィを背中に(かば)い、ダガーを構える。

 見たことのないモンスターだったので、何をしてくるかわからない。

 ミラは集中力を高めた。


 警戒し、息を()むミラの前で、モンスターは鋭く生えた足の爪を伸ばし、そのまま彼女達の方へ襲来する――かと思いきや、モンスターは床に落ちたミラのポーチを(つか)み、上空へと飛び去って行った。


「なっ⁉」


 予想外の行動に、呆気(あっけ)に取られるミラ。

 が、あの中には回復アイテムや脱出アイテムといった大事なアイテムが入っていることを思い出し、慌てて後を追った。


「ま、待ちなさいっ! それを返しなさいっ‼」


 ≪ムーンショット≫で撃ち落とそうとするも、拡散する光弾をモンスターはひらりひらりと(かわ)していく。

 ミラの脚力でも、流石(さすが)に飛行するモンスターには届かなかった。


 やがて、モンスターが降り立ったのは、上のフロアへと続く階段の頂上、そこに(たたず)んでいた黒のローブの腕の中だった。

 モンスターは忠実な(しもべ)のようにローブの腕にじっと止まり、掴んでいたポーチをローブへと引き渡す。

 その様子を見て、ミラは驚愕(きょうがく)の声を上げた。


「モンスターを飼い慣らしている……? まさか、あれは〝召喚術士〟⁉ ドモスファミリーの中にそのような方がいたのですか!」


 モンスターをテイムし、召喚獣として自在に操るクラス――それが召喚術士である。

 魔術師から派生したクラスの一つだが、人口は魔術師に比べて圧倒的に少ない。

〝炎を操る召喚獣を召喚する〟より、〝炎を操る魔法を使う〟方がずっと早いからである。


 しかしながら、召喚術士が完全に役立たずというわけでもない。

 単純に数で攻めることができるし、召喚獣がやられても術者はダメージを受けないので、盾に使うこともできる。

 今回のように、荷物運びを任せても安全だ。


 ミラのポーチを奪った黒のローブは、そのまま上の第21層へと引き上げて行った。

 後を追おうとするも、他の団員達がミラ達の行く手を阻む。


「……そうですか。どうあっても、私達をここから返さないつもりですね?」


 団員達は無言のまま答えない。

 それを肯定と取ったミラは、ダガーを構えて、力尽くで押し通ることにした。


 じりじりと両者が(にら)み合う。

 その時、リオナ達が戦っている向こうの方から、凄まじい咆哮(ほうこう)が聞こえてきた。


 ミラが反射的にそちらに目を()ると、そこには変わり果てた姿のウォーリアと、そのウォーリアをデフォルメしたような小型のモンスターが四体程並んでいるのが目に入った。


「……な、何か増えてませんか……?」


「あれは……≪仲間呼び≫だね。確か、〝ルイン=コバルト・ウォーリア〟はピンチになると子分のモンスターを呼んで、多数で攻撃を仕掛けてくるって聞いたことがある!」


「そ、そんな行動をっ⁉」


 新しく現れた小さなウォーリア――さしずめ子ウォーリアと言ったところか――がミラ達の存在に気付き、四体共襲いかかってきた。

 本体程動きは速くないが、それでも一般のモンスターよりはずっと速い。


「くっ! この状況で、アレも相手しなくてはならないのですか……っ!」


 ミラが歯()みする。

 多人数戦を仕掛けられるのもキツいが、そもそも彼女はサポートに向いた冒険者である。直接の戦闘はそれ程得意ではない。

 加えて、MPは先の冒険でほぼ使い果たしている。

 MP回復アイテムの入ったポーチは敵に奪取されてしまったし、魔法を撃てるのはあと数発だろう。


 ミラの額を玉のような汗が滴る。

 攻め手を失い、追い詰められたという実感と不安が胸の内に募る。

 今すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られ、手と足と身体とウサ耳が意に反して小刻みに震え出す。


 ――それでも、


「……それでも、リィさんは私が絶対に守りますっ‼‼」


「ウサギのお姉さんっ!」


 確固たる決意を赤い瞳に宿し、自分が最も頼れる武器を手に、ミラは盗賊団員とモンスターの群れへと駆け出した。



「穴抜けのヒモ」も「穴を掘る」も「テレポート」も何も無くて、「迷いの洞窟」で絶望したのはいい思い出

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