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初期レベ廃人ゲーマーと獣人少女の異世界終焉遊戯<ワールズエンド・ゲーム>  作者: 安野蘊
第二巻 第二章 「その巨塔、予測不能につき」
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第二章 第十七節 ~ 降り立つ敵意 ~


     ☯


 たった今モンスターを切り裂いた剣を地面に向かって払う。

 紫色の血糊(ちのり)を振り落とすと、リオナは反転して、再びモンスターに向かって疾駆した。


 相手の攻撃に合わせ、空中に跳び上がると、


「≪辰彌(たつみ)流・(たき)()り≫ッ‼‼」


 身体を回転させ、遠心力を付けた大上段からの一撃をモンスターの額に(たた)き込む。


 頭を真っ二つに割られ、致命傷を負ったモンスターは、そのまま黒い粒子となって霧散していった。


「よし、こんなところか」


「ええ、ご苦労様です!」


 互いに武器を収め、歩み寄りながらミラとリオナは言葉を交わす。

 敵の気配がなくなり、安全を悟ったリィが二人の元へ駆け寄って来た。


「やったね! これで第20層も制覇だよ!」


「ま、オレの手にかかりゃこんなモンだな!」


「何をそんな自慢げに……と言いたいところですが、正直リオナさんがこれ程ダンジョンに精通しているとは思わなかったのですよ。よもや、たった三人だけで第20層まで到達してしまうとは……!」


「おうよ! パーティー三人での挑戦なんざ、縛りプレイにもならねえ! 今度はRTAにでも挑戦してみっかな?」


「もう、すぐそうやって調子に乗る……」


 驚きを通り越して(あき)れた声で言うミラに、リオナがケラケラと笑う。

 そうして軽口を叩き合えるのは、今倒した第20層ボスもさほど苦戦しなかったからだ。


 ドロップアイテムを拾い終えたリィが、声を明るくして言った。


「いやー、やっぱりお姉さん達強いよ! 〝ギガスコーピオン〟だけじゃなく、〝マグナブロック〟までノーダメで倒しちゃうんだから!」


 第20層ボスのマグナブロックは、岩の巨人のモンスターだ。

 防御力は高いものの、弱点となる部位を順に破壊することで、ダメージを与えることができる。

 動きも鈍い為、敏捷性(びんしょうせい)に優れたミラ達は、有利に戦いを進めることができた。


「まあ、今回は相性が良かったですからね。破壊する部位の順番も(あらかじ)めわかっていたわけですし」


「ウサギのお姉さんすごかったねえ! 巨人の身体を足場にして、ピョンピョン飛び回ってさ! カッコよかったよー!」


「え、そうですか? 私、カッコよかったですかー?」


「そりゃあもう! アタイ憧れちゃうな♪」


「そ、そうですか、私カッコよかったですか……えへ、えへへへ……」


「……ところで――」


 上機嫌になるミラに、リィが手のひらを擦り合わせながら言った。


「……折角ここまで来たんだし、もう少し先まで進んでみないかい?」


「……え?」


 ミラが戸惑って身を強張(こわば)らせた。

 リィが続ける。


「今のボス戦を見るに、お姉さん達まだまだ余裕だろう? だったら、もっと先まで潜ってみようじゃないか!」


「……し、しかし、元々は第10層までの予定で、そこから更に無理を承知でここまで進んで来たわけですから……」


「問題ないさ! お姉さん達の力はこんなものじゃない。これまでの戦いをずっとそばで見てきたアタイにはわかるよ!」


 ここぞとばかりに、リィがニィーッと笑い、


「さあさあ、早く行こうじゃないか! 未知のお宝がアタイ達を待ってるよ!」


「ぅ……」


 無垢(むく)な瞳で見つめられ、たじろぐミラ。

 しかし、


「……いえ、やはりこれ以上は危険です。十分な備えもしていない状態で、中級者フロアを進み続けるべきではありません。今日はここまでにしましょう」


「そ、そんなぁー! ずっといい調子だったじゃないか!」


「ダンジョン探索は引き際が肝心です。あまり調子に乗ってどんどん奥へ潜っていくと、後戻りできなくなってしまいます」


「まだ大丈夫だよ! お姉さんだって、物足りないと感じてるんじゃないのかい?」


「私は戦闘狂じゃありませんし、野心家でもありません。身の丈に合った成果が得られれば、それで満足です」


「うー……でもでもっ!」


 仔犬(こいぬ)のような瞳で見つめるも、今回ばかりはミラには通用しなかった。

 年相応に駄々をこねるリィだったが、ミラには効果が無いと悟ると、その視線の先をリオナに移した。


「ライオンのお姉さんも何か言ってやっておくれよ!」


「……ん? ああ、そうだな……」


 珍しく神妙な顔で上を見上げていたリオナは、少しだけ考える素振りを見せると、


「……残念だが、今回はここまでだな」


「え、ライオンのお姉さんも?」


「ホッ……」


 正直、リオナのことだから、リィの口車に乗って「先へ進む」とか言い出しそうだと思っていたミラは、彼女の言葉に内心で安堵(あんど)した。

 反対に、リオナの言葉が意外だったリィは、身を乗り出して彼女に問い詰めた。


「どうしてだい⁉ ライオンのお姉さんは、ダンジョンボスにもあんなに果敢に飛びかかっていたじゃないか⁉ だったら、この先も……」


「まあな。だが、勇敢と無謀を履き違えているわけじゃねえ。無茶はするが無理はしない。そいつがオレのポリシーなんでね」


「……これ以上は無理だって言うのかい?」


「ああ」


 隣に(たたず)むミラをチラリと見()り、


(……まあ、オレ一人なら余裕なんだろうがな)


 そんな内心はおくびにも出さず、リオナが言った。


「時間もいいトコだし、今日は切り上げるか。下るのは幾分楽とは言え、入り口まで戻るのに一時間以上かかるだろうし」


「そうですね」


 (きびす)を返したリオナの後に、ミラが続く。

 リィは(しばら)く名残惜しそうに立ち尽くしていたが、二人が振り返る気配がないのを見て、渋々彼らの背中を追い始めた。


 第19層へ降りる階段に差し掛かった時、リオナがふと立ち止まった。


「……いやまあ、どうしても消化不良ってんなら、最後にアレらを片付けてってもいいか」


「リオナさん?」


 下フロアへの階段とは真逆、上フロアへの階段をリオナが鋭い瞳で(にら)みつける。

 リオナにつられて立ち止まったミラも、彼女の視線の先を追ってみたが、何も見つけることはできなかった。


「? 何もいな……」


「そこで見てるヤツら‼‼ 来んならさっさと降りて来いよッ‼‼」


「ひゃあっ⁉ いきなり大声出さないでもらえます⁉」


 突然の怒声にミラが抗議するも、リオナは聞くネコ耳を持たない。

 だが、それもそのはずである。


 二桁を優に超える黒のローブの集団が、その双眸(そうぼう)に明らかな敵意を宿し、一斉に眼前に降り立ったとあれば、流石(さすが)のリオナとて油断していてよい状況ではなかった。


「なっ⁉ 何なんですかあなた達っ⁉」


 何の前触れもなく現れた正体不明のローブ達に、ミラは一瞬面食らってしまった。

 が、すぐに冷静さを取り戻し、相手の様子をじっと観察する。


(……向こうの数は28人。体格からして、(ほとん)どが男性でしょう。ローブで隠されていますが、あの高さから音も無く飛び降りたということは、恐らく全員軽装。第20層まで潜っているにしては所持品が少な過ぎますから、冒険者というわけではないでしょうね……。だとしたら、彼らは一体……?)


 そうして対峙(たいじ)する集団の中に、先日街で遭遇した盗賊の姿があるのに気付いた。


 つまり、彼らの正体は――


「……リオナさん」


「ああ、気付いてるぜ。こいつら――〝ドモスファミリー〟だ」


「……そのようですね。ハイドさんから聞いてはいましたが、まさか本当にダンジョンで遭遇するなんて……」


 緊張した面持ちで(つぶや)く。

 無意識に引き抜いたダガーを握る手に力が(こも)った。

 先日の戦いで苦戦したことを考えると、これだけの数を一度に相手するのは厳しい。

 魔力の残りも心もとないし、そもそも逃げることすらできるかどうか……


 様々な考えに頭を巡らせるミラの前で、キツネ耳を震わせるリィが震える声で呟いた。


「ド、ドモスファミリーって、まさか、あ、あの……? ど、どうしよ……ア、アタイ、どうしたら……っ⁉」


「リィさん! こちらへっ‼‼」


「わわっ⁉」


 (ほう)けていたリィをミラが慌てて自分の後ろに(かば)った。

 守り切れるかどうか怪しいが、反射的に身体が動いていた。


 ローブの集団の先頭に立っていた男が、じり……と右足を前に出し、両者との間合いを僅かに詰める。

 それに応じて、他の黒のローブ達も一斉に距離を詰めてきた。

 恐らく、その距離が攻撃の届く範囲にまで縮まれば、彼らは問答無用で彼女達の装備を奪いに襲って来るだろう。


 今にも戦端が開かれそうな緊迫した空気の中で、リオナがスッとミラ達の前に立ちはだかった。


「ミラ、結界を張ってそん中に隠れてろ」


「え?」


「ヤツらは――オレが倒すッ!」


 拳を握り、意気揚々と言ってのけるリオナの背中を、ミラが慌てて呼び止めた。


「そ、そんな、お一人で戦うなんて無茶ですよ! 戦うなら私も一緒に……」


「オマエの魔法は全部ヤツらの〝矢避けのローブ〟で(かわ)されちまう。だったら、結界にでも閉じ篭って、守るべきモンを守ってた方がまだ役に立つ」


「だ、だからって! リオナさん一人に戦わせるくらいだったら、装備でも何でも置いてさっさと逃げた方が……っ‼‼」


 思わず声を荒げるミラをリオナが右手で制す。

 そして、何の気負いも恐れもなく、まるで街に買い物にでも出かけるかのような軽々しさで言った。


「それに言ったろ? 『無茶はする』って。魔王を倒すってんなら、これくらいの無茶は通さねえとな」


 ニヤリと笑い、悠々とローブ達に対峙する。

 両手を開き、彼らを誘うように言った。


「というわけでそこの三下共ッ! テメェら如き、ウチのお姫様が出るまでもねえッ‼‼ 一人残らず、このオレが返り討ちにしてやんよッ‼‼」


「んなっ⁉」


 明らかな挑発に、ローブ達だけでなく、背中側からも狼狽(ろうばい)の声が聞こえる。

 しかし、リオナは続けざまに、


「ほらほらどうした? こっちはたった一人だぜェ? まさかドモスファミリーってのは、仔猫一匹相手に尻尾巻いて逃げるような弱虫の()れ合い集団じゃねえよなあ?」


「……!」


 ローブ達の目つきが変わった。

 怒気を含んだ視線をリオナに送り、一斉に自慢の得物を引き抜く。

 地面を踏みしめる足に力が込められ、いつ飛び出して来てもおかしくはない。


(よしよし、思った以上に挑発の効果があったみたいだな♪)


 人間の敵はモンスターと違い、互いに連携が取れている。

 その連携を少しでも崩す為に、リオナは()えて彼らを怒らせたのだ。


 確かな手応えを感じながら、ゆっくりと剣を(さや)から引き抜く。


 それを合図に、両者は一気に間合いを詰め、阿鼻(あび)叫喚の激戦へと身を投じていった。



アクションゲームで「挑発」ってコマンドよく見かけるけど、使った試しがない……

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