第二章 第十六節 ~ 黒に潜む ~
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「……それで? モンスターハウスが突破されたってのは、いつ頃の話だ?」
「つい半時程前です」
「……ほう? なら、そろそろこのフロアに辿り着く頃合いか」
階段の上に立て膝を立てながら座っていた巨躯の男は、分厚い指で顎をなぞりながら呟いた。
その隣には、黒のローブに身を包み、フードを被って表情を隠した妙齢の女性が控えている。
女性は片目に魔法陣を浮かべ、ここではない別の場所の景色を見ながら、
「……見たところ、かなりの手練れのようです。少数精鋭ながら、破竹の勢いでフロアを突破しています。フロア主が倒されるのも時間の問題かと。……如何なさいますか、ボス?」
「……そのパーティーの詳細は?」
女性はスッと目を細め、
「……兎人族の魔術師が一人と、獅子人族の戦士が一人、それと――狐です」
「……ほほう?」
大男が面白そうな声を上げる。
それに構わず、女性は続けた。
「魔術師の方は一流ですね。難度の高い月属性魔法を見事に使いこなしています。威力も速度も精度も申し分ない」
「戦士の方は?」
女性はまた一瞬だけ目を細めた後、
「――超一流かと。スキルを使っている様子もないのに、体術のみで次々とモンスターを屠っています。身のこなし、技の冴え、適応力、判断力、反応速度……どれも一級品です。これ程の戦士は、王都周辺の大都市に一人いるかどうか……」
表情には出さないものの、内心で動揺を必死に抑えようとする女性の声を聞きながら、〝ボス〟と呼ばれた大男は、また興味深そうに女性に尋ねた。
「……その戦士の外見は?」
「女です。背は160くらい、年は18前後。他に目を引く特徴は、この世のものとは思えない程の美しい顔立ちと――目も眩むような眩い金髪のストレートヘアでしょうか」
無表情な女性が若干嫉妬を込めたような声音で述べる。
それに対する大男の返事はない。
疑問に思った女性が大男の顔を覗き込むと、
「……ボス?」
「……フ、フフ……フッハハハハハッハハハハッハッハハハハハッ‼‼」
大男は堪え切れなくなったように、大柄な身体を揺らし、強面の顔を手のひらで抑え、フロア中に響き渡るような大きな哄笑を上げた。
普段は滅多に見せることのない彼の笑う姿に、側近の女性は呆気に取られて笑い転げる大男を見つめていた。
ひとしきり笑い終えた大男は、
「……そうか! 今回の標的は――〝アンネームドルーキー〟かッ‼‼ フ、なるほど……アイツが目を付けるだけのことはある……ッ!」
笑声一転、鋭い眼光を宿した大男は、まるで地獄から響いてきたのではないかと思わせる程低く、しゃがれた声で言った。
「お前らッ‼‼ 次の獲物は一筋縄じゃいかねえッ‼‼ あの〝幻影〟ですら敗れた怒涛の新星〝アンネームドルーキー〟だッ‼‼ いつも通り失敗は許されねえ! 総出でかかりやがれェッ‼‼」
大男の一喝がフロアに木霊する。
すると、それまで周辺の物陰に隠れていた総勢28人もの黒のローブが、一斉に階段を下って第20層へと降りて行った。
一瞬にして静けさを取り戻したフロアの一隅で、大男はニヤリと愉快そうな笑みを浮かべていた。
そんなに同じ服何処で揃えたんだよ




