第二章 第十三節 ~ 混戦② ~
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(リオナさん、随分と派手にやっているみたいですね……)
モンスターに囲まれ、リオナの姿は見えないが、戦いの喧騒だけは長いウサ耳に届いて来る。
それが途切れない限り、彼女は無事と考えてよいだろう。
もっとも、彼女が倒れる場面など、自分には想像もできないのだが。
(……それにしても、範囲攻撃も持たず、あれだけの数を相手にして圧倒しているのですから、リオナさんは本当に経験を積んだ実力者なのですね……)
リオナは数々の武術を修めていると言う。
その経緯とこれまでの戦いから、彼女はルールに則った一対一の試合でこそ、その実力を発揮するものと思っていたが……
(……敵に囲まれた状態で、瞬時に状況を把握し、利用できるもの全てを利用する……。寧ろ、一対多での混戦の方が輝くのかもしれません)
冷静な頭で分析しながら、〝ナイトクロウラー〟の放った火属性魔法をひらりと躱す。
振り返り様に、≪ムーンショット≫を数発叩き込んだ。
(……私も負けてられませんね!)
「≪ムーンフラワー≫!」
正面から迫って来た〝メイズスネーク〟の身体が凍てつき、氷の結晶と共に砕け散る。
一瞬だけモンスターの群れに穴が空くが、すぐさま別のモンスターがその隙間を埋め、元の大群へと戻ってしまった。
ミラは〝ムーンダガー〟を構えつつ、鋭い視線でモンスターの群れと対峙した。
(……とは言え、このままでは埒が明きません。ここらで一度高威力の魔法を使って、敵戦力を大きく削った方が得策ですね)
方針を決め、決意を固めたミラは、手にしたダガーを天高く掲げ、戦闘開始時から準備していた得意の結界魔法の名を叫んだ。
「≪リバースムーン≫っ!」
広範囲に及ぶ結界を形成する。
一定範囲に固まっていた敵をまとめて内部に閉じ込め、それらの攻撃を一切遮断した。
これで暫くは敵の猛攻を抑えることができる。
その隙に、ミラは長時間の詠唱を必要とする強力な魔法の準備に入った。
(これが決まれば、敵の三割は葬れるはず……)
確信と魔法への絶対の信頼を胸に、フゥーと長く息を吐く。
魔力を練り、術式を編み、少しずつ、丁寧に魔法の構築を進めていく。
急ぐ必要はあるが、焦ってはいけない。
集中し、一つ一つの工程を着実にこなし、相手を確実に仕留める魔法を――
「っ⁉」
気配に気付き、慌ててその場から跳躍する。
いつの間にか背後ににじり寄っていた〝スペースアント〟の攻撃を辛うじて躱した。
しかし、焦って跳んだ所為で、跳ぶ方向にまでは頭が回らなかった。
「あうっ⁉」
空中で身動きが取れなくなったところに、ブラックスパイダーの糸が飛んで来る。
それに足を絡め取られ、バランスを崩したミラは、盛大に着地に失敗して転倒した。
急いで糸を断ち切って立ち上がる彼女に、スパイダーの群れがカサカサと襲いかかる。
「ひっ⁉ き、気持ち悪いですうぅっ⁉」
反射的に目を背けて≪ムーンショット≫を乱射する。
スパイダーの群れは撃退したが、魔力を無駄に消費してしまった。
(あ、危なかった……もう少しであの顎の餌食になるところだったのですよ)
術式の構築に集中していた所為で、モンスターの接近に気付かなかった。
冒険者としては大失態だ。今後は、もっと周囲に気を配っていかなければなるまい。
呼吸を落ち着け、魔法の準備を再開する。
幸い、彼女は≪テクニカルチャージ≫のスキルを習得している。
途中で詠唱が途切れても、その続きから再開できるというスキルだ。
ミラの周りにぼんやりとした光が集まる。
足下に魔法陣が現れ、そこに集まった光が滝のようになだれ込んだ。
光が徐々に強くなり、薄暗い洞窟内を照らしていく様は、正しく夜空に輝く満月のよう。
その煌めきが臨界点に達すると同時、
「≪ディプレイヴド・フルムーン≫っ!」
収束した光が一気に解放され、波紋のように拡散する。
彼女を中心として広がる光の本流は、岩も、薄闇も、モンスターも、何もかもを飲み込み、飲み込んだものを片っ端から削り取っていく。
直視できない程の光度を持った光球は、さながら地上の月とも言うべき美しさと恐ろしさを内に孕んでいた。
1/6分程の寿命を終えた満月は、みるみるうちにその発光を収縮させ、広場に夜をもたらした。
突然の光量に耐え切れず閉じていた赤い瞳をゆっくりと開ける。
明滅する視界の中で、ミラは油断なく広場全体を見渡した。
残っている敵の姿は見当たらない。
動く気配はなく、所々陥没した薄暗い岩場が沈黙するのみである。
頭上の高性能ウサ耳でも確認してみたが、生物の息遣いは自分と金髪の彼女の二人分しか届いて来なかった。
「……終わった、のでしょうか?」
「みたいだな」
自然と零れた疑問に答えたのは、鈍色の片手剣を鞘に収めながら歩み寄って来たリオナだ。
全身が煤と泥で汚れているものの、出血はない。どうやら彼女も無傷のようだ。
魔力の消耗特有の倦怠感を感じながら、ミラもダガーを収めた。
ふぅ、と軽く息を吐き、
「流石ですね。初めてのモンスターハウスだと言うのに、ダメージを受けないどころか、息一つ乱さないとは」
「ま、こういう戦いも腐る程経験してるんでな。オマエの方こそ、思ったよりやるじゃねえか。最後のピカーって光ってたヤツ、オマエの仕業だろ?」
「ふふ、リオナさんが素直に褒めてくださるなんて。今夜は月が西から昇りそうですね?」
「馬鹿言え。月は三日後に落ちて来るモンだろ?」
ケラケラと冗談めかして笑い合う兎と獅子。
モンスターハウスを切り抜けたことで、張りつめていた気が緩んだのだろう。
ひとしきり笑い終えた彼女達は、
「さて、リィさんも待っていることですし、そろそろ先に――」
背後の通路から甲高い悲鳴が聞こえたのは、その時だった。
みんなのトラウマ「ムジ○ラの仮面」




