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初期レベ廃人ゲーマーと獣人少女の異世界終焉遊戯<ワールズエンド・ゲーム>  作者: 安野蘊
第一巻 第一章 「その異世界人、召喚につき」
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第一章 第六節 ~ ネコ耳美少女(男) ~


     ☯


 ピョコピョコと跳ねるように目の前を歩く(うさぎ)の少女。

 視界のすぐそばで揺れるそのウサ耳をもう一度引っ張りたい衝動に駆られたが、割と本気で痛がってたので、それはまた今度にする。

 いや、次は尻尾も引っ張ってみたいな……などとリオンが好奇心を膨らませていることは、ミラの預かり知らぬところだった。

 相も変わらず上機嫌そうにしている彼女に、リオンは苦笑する。


(やれやれ、そんなに喜ぶことかねえ……。いや、滅亡が迫っている世界の張本人からすりゃ、当然か)


 正直なところ、まだこの世界に滅亡が近付いているという実感に乏しいリオンは、これからの方針を決めかねていた。


 まだ魔王が実在するのかどうかわからない。

 仮に実在したとして、その魔王が本当に倒すべき相手なのかもわからない。

 今からアレコレ根を詰めて対策を考えたところで、労力の無駄でしかない。

 取り()えず、面白そうなことが起きるよう仕向けてはみたのだが……


(……どうしようもなくなったら、そん時は、本当にオレが世界を滅ぼしてみるかね)


 暇つぶしで世界を滅ぼすとか、それではまるで自分の方が魔王らしいではないか。

 無論、それも一興ではあるのだが。


 くつくつと哄笑(こうしょう)()み殺しながら、リオンは何とはなしに、通り過ぎざま廊下に備え付けられた鏡を見()った。


「……は?」


 上空3000mに召喚された時ですら、リアクションを取れる程度の冷静さを保っていたリオンは、この異世界に来て初めて、声も上げられぬような衝撃に襲われた。

 目を点にし、まじまじとその鏡を凝視する。


 ふと背後の足音が聞こえなくなったことに疑問を感じたミラが、足を止めてリオンの方に振り返った。


「? どうかなさいました?」


「……オイ、異世界の鏡の反射率は100%を超えるのか?」


「???」


 リオンの言葉がわからなかった彼女は、リオンと一緒になってその鏡を(のぞ)き込んだ。


 金髪金眼の異世界人と、茶髪赤目の兎人族(アルミラージ)。特に変わったところは無い。

 だが、リオンは食い入るようにして、鏡に映った二つの像を見つめていた。

 驚愕(きょうがく)の色を瞳に宿し、リオンは静かに(つぶや)く。


「……誰だ、この美少女は?」


「え? い、いやですねぇ~、さっきからずっとそばにいたじゃないですかぁ~!」


「オマエじゃねえ」


「あうっ⁉」


 直球で魅力を否定されたことにミラが肩を落とす。

 しかし、誤解無きよう言っておくが、決して彼女の容姿が劣っているわけではない。

 (むし)ろ、一般的なゲームに登場するヒロインとしては、かなり可愛い部類に入ると思われる。


 全体的に幼さの残る姿をしているものの、整った顔立ちに大きな赤い瞳が輝き、スレンダーで引き締まった身体つきは、健康的で若々しい姿をアピールしている。

 肌は赤子のように瑞々(みずみず)しく、よく手入れされた茶髪のショートヘアの天辺に、作り物のようなウサ耳が揺れている。

 コロコロと感情豊かに変わる表情は、見ている者を飽きさせない。

 種族もあるのだろうが、ある種愛玩動物のような可愛らしさを連想させた。


 だが、彼女の隣に並ぶ鏡の中の少女は、それはもう三度見しても信じられない程絶世の美少女だった。


 きめ細かく()かれたストレートヘアは黄金を溶かしたような金色で、髪と同じ金色の瞳が端正な顔に輝いている。

 胸部や臀部(でんぶ)は丸みを帯びているが、それでいて腰のくびれはなだらかな曲線を描き、完璧と言ってもよいボディラインを作り出している。

 女性らしい肉感的な肢体は、しかし、決して太っているわけではなく、寧ろ引き締まって、何処(どこ)かアスリートのような美しさを思わせた。


 鏡の中に映る少女は、驚愕の表情をその顔に貼り付けたまま、リオンの動きに合わせて、口を動かしたり、右手を挙げたりしている。

 その様子から見ても、その美少女の正体が彼自身であることは明らかだ。


 無論、リオンは生まれつき男性であり、性転換手術を受けたわけでもなければ、お色気の術が使えるわけでもない。

 元々かなりの美形(本人はファッションに興味が無い為に全く()かされていないのだが)ではあったが、どれだけ身を飾ったとしても、これ程の美少女に化けることはできないだろう。


 異世界に召喚されると同時に、性別まで変わっていた。

 異世界転生ならぬ、異世界転性である。


 そんな天地がひっくり返る程の仰天ニュースを、リオンは、そんなことはどうでもいいと切り捨てた。

 彼にとっての問題は、性別が変わっていたことではない。

 それ以外に問題となる点が、鏡の中の自分に生じていた。




 鮮やかな金色の頭の天辺――そこに、ピコピコと動くネコ耳が生えていた。




(……マジ、かよ……)


 恐る恐る触ってみる。

 驚くべきことに感触があった。

 ネコ耳を触られている、という感覚が確かに感じられる。ちょっとくすぐったい。


 ふさり、と足元に柔らかな感触を感じたので、そちらに目を遣る。


 お尻の上、腰の付け根の辺りから、一本の長い尻尾が生えていた。

 猫のようにしなやかな尻尾は、自分の思うままに動かすことができる。

 その尻尾が何かに当たると、何ともむず(がゆ)い感覚が全身を駆け巡った。


 変わり果てた自身の容姿を穴が空くほど見つめるリオンの横で、ミラは()ねたように口をとがらせて言った。


「……何です? 自分の美貌を自慢しているのですか? えーえーそうですとも。あなたは私なんかより、ずっと綺麗(きれい)で可愛くて美しい女性ですよー」


「……ああ、流石(さすが)に今回ばかりは、返す言葉も見つからないぜ……」


「むっきーーっ‼‼」


 憤慨する彼女を余所(よそ)に、リオンはくつくつと内心で喜色の笑みを浮かべる。


(……いやいや、流石にコイツは予想外だぜ。まさか……自分が作ったアバターの姿になって召喚されるとは! しかもメインキャラじゃなくて、サブキャラの‼)


 MMORPGシェーンブルンでは、自分が操作するアバターの容姿をプレイヤーが一から作ることになっていた。

 実に3000種類というパーツの中から好きな物を選び、顔や体形、更には骨格まで自由に調節することができる。

 中には、キャラメイクだけに数時間を費やす〝職人〟と呼ばれる人までいた。


 リオンもまたそんなアバターの製作に膨大な時間を費やした一人である。

 とあるイベントでは、複数体のキャラを使って挑まなければならないクエストがあり、それを攻略する為に急遽(きゅうきょ)作成したのが、今正にリオンが変身しているこのキャラだった。

 即席で作ったものとは言え、そこに妥協は一切なく、現実では有り得ない程の超絶美少女に仕上げてある。


 リオンは内心でふつふつと湧き上がる高揚感に陶酔していた。


(ハハ……やってくれるじゃねえか……シェーンブルン‼‼)


 犬歯を剝き出しにし、不敵に笑う彼――もとい、彼女は、次なる興奮を求め、隣でむくれるミラのウサ耳を(つか)んで、ギルドのカウンターへと向かって行った。



サブタイトルのどえらい矛盾よ

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