第二章 第九節 ~ VS ギガスコーピオン ~
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ミラ達が戦いの意思を示すと、スコーピオンもまた鋏を構え、応戦の気を示した。
相手の動きを睨みつつ、ミラは脳内でボス戦での方針を考える。
(ギガスコーピオンとは何度も戦っていますから、攻撃のパターンも大体の能力値も既に把握済みです! 私が気を引きつけて攻撃を躱しつつ、リオナさんが倒れないよう注意して立ち回れば、苦戦することはないはず……)
「……リオナさん、まずは敏捷性の高い私が敵の気を引きつけますから、その間にリオナさんは――」
「っしゃ、いくぞオラアアァァァッ‼‼」
「――ってもう飛びかかってる⁉ 少しは話を聞いてくださいーーっ⁉」
方針を伝えようとしたミラを置き去りにして、リオナは一直線に巨大蠍に向かって走って行った。
このボスの倒し方は既に知っている。作戦を立てるまでもなかった。
敵の接近を察知した蠍は、彼女を捕らえようとその巨大鋏を伸ばしてくる。
今の彼女の防御力では、挟まれた瞬間に身体が真っ二つになるだろう。
迫る鋏に対し、
「フッ!」
鋏が閉じられる直前、リオナは大きく跳躍して、蠍の鋏から脱出した。
一歩間違えれば即死、そんなギリギリのスリルを味わいながら、外殻で覆われた蠍の背中に着地する。
そのままスコーピオンの尻尾目掛け、無数の斬撃を叩き込んだ。
一部始終を見ていたミラは、ギリギリで鋏を躱すリオナに胸をハラハラさせていた。
彼女が蠍の背から飛び降りたところで、ホッと一息。
それから、独走するリオナに対し、
「リオナさんっ! 危ないですから、正面からの接近は避けてくださいっ‼‼ 一旦私に任せて――って聞こえてないですね……。ああもう仕方ないっ‼‼」
半ばやけっぱちになりながら、ミラは遠距離から魔法を放った。
「≪ムーンフォース≫っ!」
蠍の顔面に爆発を起こす光弾を発射する。
強力な爆風は蠍の身体をのけ反らせ、一定時間のダウンを取ることに成功した。
蠍が動きを止め、ぐったりと鋏を下ろす。
「よし! リオナさん、今のうちにスコーピオンの尻尾を攻撃しまくってくださいっ‼‼」
「わかってらぁッ‼‼」
ギガスコーピオンは顔面に一定のダメージを与えるとダウン状態になる。
その隙に弱点となる尻尾を攻撃することで、簡単に倒すことができるのだ。
「≪辰彌流・滝割り≫ッ‼‼」
大上段から振り下ろされた強烈な一撃を叩きつけられ、蠍が苦悶の声を上げる。
間髪入れずに更なる武技を使い、
「≪辰彌流・九牙太刀≫ッ‼‼」
「ギシャアアアァアァァァアアアアッ⁉」
横一文字から縦一文字に繰り出された二連撃の斬撃が、蠍の尻尾に十字型の傷を付け、そこから紫色の血液が噴き出した。
蠍がのたうち回り、足の爪でフィールドの地面を引っ掻き回す。
しかし、リオナの攻撃の手は止まない。
返り血を浴びるのも構わず、リオナは剣を振るって、縦横無尽に蠍の尾を斬りつけた。
「ハハハハハハッ! どうしたどうした⁉ 10層ボスの力はそんなもんかよッ⁉」
モンスターに人の言葉など通じないはずだが、リオナの嘲笑的な態度が気に障ったのか、蠍は鋏をギリギリと持ち上げ、再び動き出そうとしていた。
その様子を見ていたミラが、
「リオナさん、そろそろスコーピオンがダウンから復帰します! 一度離れてください!」
ダウンからの復帰の気配を感じ取り、リオナに向かって叫ぶ。
しかし、彼女の声など聞こえていない様子で、リオナはその場から離れようとしなかった。
そのうちに、蠍は重い身体をゆっくりと持ち上げ、
「リオナさんっ‼‼ 聞こえていないんですか⁉ 今すぐそこから離脱を――」
「ギシャアアアアアァァァァァアアアァァアアアアアアアァア――――ッ‼‼‼‼」
とうとう蠍が自由を取り戻す。
散々攻撃を受けて苛立っているのか、とてつもない咆哮を上げながら、赤い瞳を光らせていた。
それを見て、リオナは獰猛に笑った。
「よしよし、漸くお目覚めか。折角逃げねえで待っててやったんだ。最後の足掻きで、このオレを楽しませてみせろッ‼‼」
リオナが両手を広げて、蠍を挑発する。
蠍の巨大な鋏が打ち下ろされ、フィールドの地面が陥没した。
「リオナさんっ‼‼」
顔を蒼白にさせるミラの前で、攻撃直前に跳躍していたリオナが、蠍の鋏の上にスタッと降り立った。
彼女に相当なヘイトを溜め込んでいるのか、蠍はミラの方など見向きもせずに、リオナに向かって鋏を伸ばしてくる。
二本の鋏が交互に、間断的に繰り出される。
それら全てを、リオナは跳躍し、回転し、後転し、屈伸し、うつ伏せになり、潜り込み、躱し続けた。
流れるような所作で延々と鋏を避け続けるリオナの姿は、まるで新体操の演技でも見ているかのように美しかった。
「遅え遅えッ‼ そんなんじゃ亀にも追いつけないぜ? もっと本気を出してみろッ‼‼」
「リオナさん! あんまり調子に乗ってると……」
鋏では捕らえられないと判断した蠍が、唐突に別行動を取った。
奈落のような口から、何かの液体をリオナに向かって飛ばしてくる蠍。
リオナが避けたその液体は、フィールドに設置された石柱に着弾すると同時、その表面をジュウジュウと溶かし始めた。
根元を削り取られ、倒壊していく石柱を見遣りながら、リオナは呟く。
「ふう、危ねえ危ねえ。そういや、そんな攻撃もあったっけな」
口を開き、再び溶解液を飛ばそうとした蠍の身体に、魔法の砲弾が直撃した。
砲弾の飛んで来た方を見遣ると、ダガーを振り切った姿勢のミラが佇んでいた。
鋭い視線で土煙に隠れた蠍の様子を窺っている。と、
「シャアアアァァァァアアアアア――――ッ‼‼」
「くっ……やはり、尻尾でないと攻撃が通りませんか……」
ミラの放った魔法は、蠍の硬質な外殻によって阻まれていた。
ダメージを負った様子はなく、蠍は鋏を打ち鳴らしてミラ達を威嚇してくる。
攻撃対象をミラへと変えた蠍は、彼女を追って駆け出した。
それを引きつけつつ、
「私がスコーピオンの動きを止めますっ! 最後はリオナさんがキメてくださいっ‼」
「ほう」
追って来る蠍に背を向けたミラは、一足飛びで石柱の上へと飛び乗った。
蠍は彼女を捕捉するべく、彼女が乗った石柱の根元を鋏で粉砕する。
しかし、石柱が完全に倒壊する前に、ミラは次の石柱へと飛び移っていた。
「≪ムーンライトアロー≫!」
隙のできた蠍の背中に、魔法で作った光の矢を射出する。
蠍の身体の節目掛けて放たれた一本の矢は、外殻の隙間を縫って蠍の身体を貫通した。
思わぬダメージに蠍がのけ反り、一瞬動きを鈍らせる。そこへ、
「≪ムーンショット≫っ!」
チャージした≪ムーンショット≫を蠍の顔面に叩き込む。
数発喰らわせた後、再び蠍のダウンを取ることに成功した。
「リオナさん! トドメをっ‼」
「あいよ」
ダウンした蠍の正面で、リオナが正眼に剣を構える。
ミラの攻撃により、蠍は動きを止めていた。
狙いを定め、蠍を仕留める最後の剣術を使用する。
「ま、そこそこ楽しかったぜ? 今度は威力だけじゃなく、もっと速さを鍛えるんだな。――≪秘剣の五・天衝≫ッ‼」
自分の身体ごと突っ込む最速、最大威力の突きを蠍の尾に捻じ込む。
動きを完全に止め、瞳の光を失った蠍は、拳大の魔晶石を残して消え去った。
敢えてモンスターを煽っていくスタイル




