第二章 第五節 ~ 第2層へ ~
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アントの軍勢を倒してからは、めぼしいモンスターに遭遇することはなかった。
ミラの案内で(無論、リオナはダンジョンのマップを正確に記憶しているのだが)歩みを進めていると、やがて第2層へと続く階段が見えてきた。
「ふう、これで第1層は無事に突破なのですよ!」
「ダンジョンに入ってから、まだ十五分も経たねえ。意外と短いモンだな」
「それは私達がマップのお陰で最短ルートを辿って来れたからです! マップの出回っていないフロアだと、それこそ何時間も彷徨い歩くことに……」
「それも面白そうだけどな!」
「勘弁してください……」
ウサ耳を萎れさせて溜息を吐くミラ。
そこにリィの笑い声が混じった。
「でも、どれだけ迷ったとしても、お姉さん達なら強いからやられることはないだろうね! どんなモンスターが現れたって瞬殺だよ!」
「おうよ! 全員まとめて剣の錆にしてやらぁッ!」
倒したモンスターの血は死体の消滅と共に消え去ってしまうので、錆になることはない。
ミラは内心で苦笑しつつ、
「……しかし、リオナさんは剣の扱いにも慣れているのですね。先程のアントはレベル1の雑魚とは言え、お見事でした!」
「ハン! あんなモン、豆腐を切るのと変わらねえ! せめて〝鉄アリ〟でも出てくりゃ、話は別なんだがな」
「何だか、炎タイプが四倍弱点になりそうな敵だねえ」
「……ところで、リオナさんは何処でその剣技を?」
「これも見様見真似だよ。基本は少し習った……と言うか、無理矢理教えられたんだが、どうも誰かの指導を受けんのは性に合わねえ。殆ど自己流だ」
「なるほど……。『習った』というのは、例の達人さんに?」
「まあな」
「重い剣をご所望でしたのも、その方の影響なのでしょうか?」
「それもあるが、ヤツの剣技はオレよりもっとずっと繊細だ。そんなのは面倒臭いんで、オレは力で叩き斬るのが好きなんだ」
「リオナさんらしいですね」
クスクスと笑いながら、でこぼこの石段を登っていると、
「じゃあ、ライオンのお姉さんが苦手な相手って誰だい?」
「ハッ、バカ言え! オレに苦手な相手なんているわけねえだろ?」
「そんな強がってますけど……でも、単純な相性で考えて、遠距離攻撃には弱いんじゃないですか? 私と戦った時も、最後の騙し討ち以外で、まともに攻撃を当てられたことなかったじゃないですか」
「んなもん、『バッと距離を詰めてズバッと斬る!』で済む話だ」
「リオナさんの敏捷性じゃ、私には追いつけませんよ♪」
「ほう? 言うじゃねえか。なら、今この場で試してみるか? 見かけの数値が低くたって、AGI系の敵に距離を詰める方法はいくらでもある! テメェのその低い鼻っ柱へし折ってやるよッ‼‼」
「ひ、低い鼻っ柱ってなんですかっ⁉ 私、そんなに鼻低くありませんっ‼‼」
「ちょ、お姉さん達! 喧嘩はダメだよっ!」
三本の尻尾をパタパタと振って、慌てて仲裁に入るリィ。
その愛くるしい姿を見て、二人は同時に噴き出した。
「ぷっ! 冗談ですよ! これくらいのやり取り、喧嘩の内に入りません」
「え、そうなのかい?」
「まあ、これがいつも通りかもな。本気で怒った時のこいつは、そりゃもうすげえことになる」
「す、すごいこと……?」
「聞いて驚くなよ? なんと、こいつは本気で怒ると――数が増える」
「増えるっ⁉」
「増えませんっ‼‼」
「そして踊り出す」
「踊るっ⁉」
「踊るかアアァァァアアッ‼‼」
スパアァァアンといつものウサ耳攻撃がリオナの頭にクリティカルヒットする。
確かに、これがリオナの言う通り、〝いつも通り〟の二人の姿である。
リオナがケラケラと笑い、ミラが溜息を吐いたところで、階段の終わりが見えてきた。
階段を登り切れば、そこはもう第2層だった。
景色は第1層と変わらず、殺風景で岩肌ばかりが目立つ。
変わり映えのしないつまらない景色は、ずっと奥の暗闇まで連綿と続いていて、|何処か無間地獄のような苦行を思い出させた。
リオナは軽く伸びをして、軽快な口調で言った。
「さ! とっとと第2層も抜けて、第10層のボスとやらに会いに行こうぜ!」
「ここから先は、次第に適正レベルが上がっていきます。楽勝だからと言って、あまり調子に乗らないでくださいね!」
「わかってらぁ! オイ、狐ロリ! どっちが先に階段まで辿り着けるか競争しようぜ!」
「お、望むところだよ!」
「ちょっ⁉ 言ったそばからっ!」
騒がしくも楽しげなダンジョン攻略は、予定通り、或いは、計画通りに進行していた。
次回は番外編「実録! 分裂する怪ウサギの謎! ~憤怒のウサギは何見て踊る?~」をお送りします。
お楽しみに!(大嘘)




