表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初期レベ廃人ゲーマーと獣人少女の異世界終焉遊戯<ワールズエンド・ゲーム>  作者: 安野蘊
第二巻 第二章 「その巨塔、予測不能につき」
62/112

第二章 第四節 ~ 蠢く大群 ~


     ☯


 見た目の純白さとは裏腹に、中はゴツゴツした無骨な岩が無数に連なる洞窟となっていた。

 外からの光は一切差さず、頼りになるのは岩のあちこちに生えた光る(こけ)と、夜目の効く自らの瞳だけ。

 死角は多く、何処(どこ)にモンスターが潜んでいるのか、一目ではわからない。


 一瞬にして変わり果てた景色に、リオナは喜色の笑みを浮かべた。


「いいぜいいぜ! 雰囲気出て来たなあッ!」


「あはは、ライオンのお姉さんは勇敢だねぇ! 怖くないのかい?」


「怖いわけねえだろ? (むし)ろ、さっさと強敵と戦いたくてウズウズしてんだ!」


「ほぉー、そりゃ頼もしい! きっと、お姉さんの望みはすぐに(かな)うよ」


「もう、お二人共! 既にダンジョン内部なのですから、もう少し緊張感を持って……と言いたいところですが、この辺りは私も何度も来ていますし、大したモンスターも出ないので、安心していいですよ」


 適度の緊張は保ちつつ、軽口を(たた)きながら奥へと進む。

 あまりガチガチに警戒していても、いざという時に身体が動かなくなってしまうだけだ。

 程よい緊張とリラックス。

 ダンジョン攻略に対する気構えを、一同はよく理解していた。


 分厚いダンジョンの天蓋を見つめながら、リオナは言った。


「……そういや、さっきこのダンジョンのフロア数は100層だって言ってたが、頂上まで登り詰めたヤツがいんのか?」


「はい! つい一か月程前に、前人未到の第100層まで辿(たど)り着き、見事ボスモンスターを倒して、頂上の景色をその目に納めた方がいらっしゃるのですよ! 名前は、確か……〝シアン〟さん、とおっしゃいましたか?」


「アタイも知ってるよ! (うわさ)だと、世にも珍しい赤髪碧眼(へきがん)狼人族(ウルフィー)の男性で、誰にでも優しく、誠実な人なんだって。ただ、照屋さんなのか、街を訪れてもすぐに次の街へと旅立ってしまって、なかなか実物にお目にかかれないみたいだね」


(……赤髪碧眼の狼人族……?)


「へえ、〝幻の冒険者〟ってか……。そいつが倒したっていうボスの情報とかはねえのか?」


「ええ……シアンさんは頂上で出会ったボスについて一切語らず、そのまま別の街へ颯爽(さっそう)と旅立って行ったそうです。ボスの情報が出回れば、今後の攻略に大きく貢献すると思ったのですが……」


「オイオイ、ダンジョンってのは自分の目で確かめて、何度も試行錯誤しながらクリアを目指すモンだろ? ネタバレなんてナンセンスだぜ」


「ほほー、やっぱり強いお姉さんの考えることは違うねえ!」


「それは……まあ、一理ありますが……。でも! やはり安全に攻略できるに越したことはありません! 今回だって、ちゃんとマップを用意した上で、最短ルートを辿って、第10層を目指しているのですから」


「……だが、モンスターの出現ポイントまでは予測できねえだろ?」


 リオナが鋭い視線を向ける。


 前方の岩の陰から、無数の虫型モンスターがカサカサと現れた。


「……〝スペースアント〟ですか。見た目は気持ち悪いですが、攻撃力も防御力もありませんし、単なる雑魚です。早々に蹴散らしてしまいましょう!」


 ミラがムーンダガーを引き抜く。

 総勢二十体程のモンスターが迫って来るが、ミラは全く臆した様子はなかった。


「早速こいつの斬れ味を試す時が来たか!」


 リオナも装備していた新品の片手剣を引き抜く。

 あまり頼れる武器ではないが、多少攻撃力の足しにはなる。

 アントの防御力を突破するくらいは余裕だろう。


「ア、アタイは戦えないし、後ろで隠れてるからねッ⁉」


 その言葉通り、リィは胸元で両手をギュッと組みながら、一目散に背を向けて向こうの岩陰に身を隠した。

 大きなバックパックを背負っている所為(せい)で動きは鈍いが、アントに捕まる程ではない。


 戦える者だけが残された空間に、張りつめた空気が満ちる。

 アントの集団は発達した大顎をシャコシャコと動かし、獲物を()らわんと距離を縮めてくる。

 ミラとリオナは互いに(うなず)き合い、アントの集団へと駆け出した。


「≪ムーンショット≫!」


 ミラがアント目掛けて魔法を放つ。

 一発では倒れないが、何十発と放たれる散弾に身を撃たれたアント達は、次々と黒い粒子になって消えていった。

 それだけで、二十体程いたアントの集団は半数くらい消滅した。


「せい!」


 その向こうで、リオナが横()ぎに剣を繰り出す。

 柔らかなアントの身体は上下半分に分かたれ、消滅していった。

 その流れのまま二閃(にせん)、三閃……と続けざまに剣を振り、合計八体のアントを切り伏せる。

 獰猛(どうもう)な笑みを浮かべ、剣に付いたアントの血を振り払った。


「さて……」


 次の獲物に取り掛かろうと辺りを見渡す。


 その背後から、ひっそりと迫っていたアントの一体が、リオナに向かって飛びかかった。


「キシャアアァァァ――――ッ‼‼」


「! ≪ムーンフラワー≫っ‼‼」


 ミラが咄嗟(とっさ)に魔法を発動させる。

 飛びかかってきたアントの身体が凍りつき、その動きを止めた。

 体表を氷で覆われたアントは、氷結によるスリップダメージを受け、HPが0になると同時に、粉々に砕け散った。


 その後ろから、アントの亡骸を盾に隠れていたもう一体のアントが、最後の足掻(あが)きと言わんばかりに、リオナに飛びつき攻撃を仕掛けた。

 が、


(あめ)えな」


 リオナに()みつこうと大きく開けた口の中に、リオナの剣が突き込まれる。

 コアを破壊され、生命活動を停止させたアントが、黒い粒子となって消滅した。

 それを最後に、ダンジョンは再び静寂の気配を取り戻した。


「……今ので終わりみたいですね」


「だな」


「……ですが、リオナさん。いくら格下の相手とは言え、油断するとさっきみたいに背後から襲われますよ? 今回は私がいたからよいものの、今後は……」


「いや、別に気付いてたが? オマエの助けなんざ要らなかったし」


「っ、そ、そうですか! それならいいですっ! もう、勝手にやっててくださいっ!」


 そっぽを向くミラに、苦笑するリオナ。

 ダンジョンでの初戦を終えた彼女達の下に、隠れていたリィが駆け寄って来た。


「やあやあやあ! やっぱりお姉さん達とっても強いんだねえ! アタイの目に狂いはなかったよ!」


「ふふ、それはどうも。リィさんもお怪我(けが)はありませんか?」


「ああ、平気さ! この通りピンピンしてるよ!」


 三本の尻尾をパタパタと振って無事をアピールするリィ。

 それから、紫色の結晶や針などの素材が散らばる地面を見渡し、


「それじゃあ、ドロップしたアイテムはアタイが責任を持って回収するからね! お姉さん達はこのままこの調子でビシバシ稼いでおくれよ!」


「やれやれ、調子のいいヤツだぜ」


 アントから採れた素材をリィが漏れなく回収し、一同は目標の第10層を目指して、再びダンジョンを進み始めた。



二十体って、言う程大群でもなくないか……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ