第一章 第四節 ~ 天より与えられし緩衝材(天然素材) ~
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「残念でしたね……」
「……何がだ?」
「あまり良い剣が見つからなかったのでしょう? 表情を見ていればわかります」
「別に構いやしねえ。元々そんな期待していたわけじゃあなかったからな」
買ったばかりの片手剣を手に持ちながら、リオナ達は再び≪サンディ≫の街を歩いていた。
いつもは〝何事も楽しむ〟をモットーにしているリオナの表情が明らかに翳っているのを見て、ミラは彼女を励ますように、ムンッ!と言った。
「……さあ! 気を取り直して、次は防具屋に向かいましょう!」
「いや、防具は要らねえ。ゴテゴテと色々身に付けんのは好きじゃない」
「ダーメーでーす! リオナさんの防御力じゃ、いつ致命傷を受けて命を落とすかわかりません! 多少動きにくいかもしれませんが、まずは安全を第一に考えてですね……」
「……ったく、過保護なヤツだな」
「過保護で結構! 私としても、リオナさんに死なれては困りますので」
面倒とは思ったが、彼女の言うこともわからなくはない。
自らの紙耐久っぷりは、リオナ自身ひしひしと感じていた。
(……ま、多少アーマーとかを着ける分には、大した障害にならないか……?)
そんなことを考えながら、リオナはミラに半ば強制的に防具屋へと連れて来られた。
店内の様相は武器屋とさほど変わらなかった。
武器屋では武器種ごとに区画が分けられていたが、ここでは身体の部位ごとに区画が分けられているようだった。
全身甲冑もあったが、予算を大きく越えてしまうし、第一リオナの趣味ではない。
「そうですね、まずはアーマーと……あと、グローブとシューズがあればよいでしょうか? マントやピアスなんかの装飾品も用意できるとよかったのですが……」
「そんなに要らねえ。手っ取り早く決めちまおうぜ」
そう言うと、リオナはスタスタと〝身体〟部分の防具コーナーに歩を進めていった。
ミラもその後に続き、二人で手頃なアイテムを探し始める。
「うーん……リオナさんは典型的なスピードファイターですから、身軽さを重視して、上半身だけの装備などが良いでしょうか? となると……やはり胸当てですかね?」
「まあ、そんなところだな。全身鎧なんて代物、可憐なオレにはとても扱えねえからな!」
「よく言います。リオナさんなら、その辺の男性よりよっぽど力持ちでしょうに」
「あんまりそういうことを乙女に言うとモテないぜ?」
「リオナさんが乙女を語りますか……」
無駄口を叩きながら、鉄の塊が詰め込まれた箱を二人で漁っていると、
「……あ! これなんていいんじゃありませんか⁉ 表面にあしらわれた花柄模様がとってもキュートですよ! 私もこんなのが欲しいですねー」
取り出した胸当てを自身の胸に合わせながら、ミラが上機嫌にそばに置かれた鏡を覗いていた。
滑らかなクリーム色で塗装された表面と、そこにさりげなく施された花柄の彫刻が、愛くるしい彼女によく似合っている。
彼女に勧められて、リオナも花柄の胸当てを自分の胸に合わせてみた。が、
「……胸が苦しい」
「うぐっ⁉」
リオナの胸の大きさを考慮して、できるだけ大きめの胸当てを選んだつもりだったが、彼女の豊満な胸を収めるには、少しばかり体積が足りていなかった。
喉を絞められた鶏のような声を上げたミラは、返された胸当てを沈鬱な表情で元の箱に戻した。
「う……まさか、リオナさんの胸がここまで大きくてらっしゃるとは……」
「風呂場で一回見ただろ?」
「一回見ただけじゃ、女性の胸の大きさなんてわかりませんよ……」
「じゃあ、揉んでみるか?」
「揉みませんっ‼」
顔を赤くして吠えるミラにケラケラと笑いつつ、その後も二人は棚や箱の隅々まで漁ってみた。
しかし、なかなか満足のいく一品には巡り会えなかった。
デザインもそうであるが、まず何より、女性用のアイテムが少ないのである。
冒険者の殆どが男性で、女性は少ない所為だろう。
その上、リオナの平均以上の胸囲に合うものとなると、かなり数が限られてしまう。
「……キャラメイクへの拘りが、まさかこんな所で仇になるとはな……」
「? リオナさん、何か言いました?」
「いや、何でも」
「……それならよいのですが。……しかし、こうもリオナさんに合う装備が見つからないとなると、オーダーメイドで注文するしかなさそうですね。かなりお値段は張ってしまうのですが……」
財布の中を覗きつつ、不安げな表情をしたミラが向こうにいる店主に声をかけた。
「すみませーん! オーダーメイドをお願いしたいのですが!」
「はいはい、少々お待ちを!」
作業部屋と思しきカウンター奥の部屋から、作業着を着た店主が姿を現した。
他の街では珍しい女性の職人で、ネコ耳と尻尾を生やしていた。
「えーと、こちらの方の胸当てを造って頂きたいのですが」
「……ほほう、これはこれは立派なものをお持ちだねえ! なるほど、確かにそのサイズじゃあ、その辺のアイテムはキツいだろうね!」
リオナの容姿をざっと見た店主が、朗らかな笑みを浮かべながら、リオナを手招いた。
「それじゃあ、採寸をしたいから、こっちに来てもらえるかい?」
「ああ」
促されるままに、リオナがカウンターの中に足を踏み入れ、指定のポーズを取る。
メモリの付いた紐を取り出した店主が、彼女の身体のあちこちを計り始めた。
店主が採寸している間、リオナは造ってもらう装備の詳細をミラと話し合っていた。
「オイ、予算はどれくらいだ?」
「そうですね……防具以外に消耗品とかを買うことも考えると……多くても十万ちょっと、と言ったところでしょうか。多少は私のポケットマネーから出せますが、持ち合わせも多いとは言えなくて……」
「別にそこまで迷惑をかけるつもりはねえ。予算がギリギリだってんなら、必要最小限の装備で構わねえ」
「それはいけません! ダンジョン攻略において、防御力は命の次に大事です! 特に、レベルの低い序盤のうちは、しっかりと防御を厚くしてですね……」
「んなもん経験と技術と勘でどうにかなるだろ。それよか、もっとビシバシ攻撃力を鍛えてだな……」
「怪我でもしたらどうするんですか! 世の中には、痛いのは嫌なので防御力に極振りしている方だっているんですよ?」
「そんなに心配なら、胸のクッションでも育てとけばいいだろ?」
「まだ胸の話を引っ張りますか⁉」
二人が言い合っているうちに、チラリとメモリを読み取った店主は、
「ふむ、バストは……92㎝だね!」
「………………」
その瞬間、絶望に濁った赤い視線がリオナの身体の一点に注がれた。
まあ、そういう風に作ったのは、リオナ本人なんですがね




